243・古代遺跡
『真の王である証明』編、開始です!
「ドグラス! 後ろです!」
ネズミ型の魔物。
それがぴょんと飛び跳ね、後ろからドグラスに襲いかかりました。
「ふんっ」
しかしドグラスは振り返りもせず、拳骨で魔物を叩き落とします。
魔物は気を失い、地面に横たわりました。
「さすがです」
「なに、大したことはない。それよりも──」
ドグラスはつまらなそうな表情で肩を回し、辺りを見渡す。
「こんなところで、魔王についての手がかりを本当に得られるのか? 弱い魔物しか出てこぬ。朝から気合いを入れていたが……正直、期待外れだ」
「それはドグラスだから言えるんですよ。他の方なら、ここまで辿り着くだけでも一苦労です」
そう言って、私は彼を労います。
地下の古代遺跡──。
私とドグラスは今、そこに足を踏み入れていました。
人が立ち入っていないせいか、少し動くだけで、砂が天井からパラパラと落ちてきます。
周囲は暗く、今の私達のように灯りを発生させる魔導具を持参していなければ、視界を確保するだけでも難しいでしょう。
場所はリンチギハムの王都から離れ、ベルカイムの国境を跨ごうかとする位置。
どうして、私達がここを訪れているのか。
私は今までのことを思い出しました──。
私はベルカイム王国の聖女でした。
聖女としてベルカイムに結界を張り、国を守っていましたが、当時の婚約者クロードに婚約破棄&国外追放を言い渡され、隣国のリンチギハムに移り住むことになります。
そこでナイジェル王子と出会い、最終的には婚約──そして結婚するまでに至りましたが、その道どりは困難なもの。ここまで様々な障害や敵が立ち塞がってきました。
中でも一年以上前、ベルカイムの地にて封印されていた魔王を打倒したことは、記憶に新しいです。
さらに先日。
かつて私達を追放した大元の原因となるクロードとレティシアの結婚式が執り行われ、私達はある男に出会います。
それがファフニール──もといファーヴ。
彼は二百年前のドグラスの親友でもあり、禁じられた呪いが再びこの世界で発動しようとした時にも、私達に力を貸してくれました。
そんなファーヴでしたが、ある想いを抱えていました。
それが恋人であるシルヴィさんを救いたい──という想い。
ファーヴの恋人であるシルヴィさんは二百年前の聖女であり、かつては『時の聖女』とも呼ばれていました。
シルヴィさんとファーヴは、長命竜アルターに仲を引き裂かれ、こことは違う空間──時の牢獄に閉じ込められます。
ファーヴだけは時の牢獄から脱出したのですが……シルヴィさんは取り残されたまま。しかし時の牢獄に入るためには、アルターを倒さなければなりません。
アルターはシルヴィさんの力を利用することによって、不死身の力を有していました。
そのせいで、アルターに手も足も出ず、敗北することになってしまいましたが──シルヴィさんの力で私だけ時を遡り、再びアルターに挑むことになったのです。
なんとか不死身の力を封じ、アルターを倒すことが出来、時の牢獄に入ることが可能となりました。
みんなでシルヴィさんを救いにいく──そう決めていたのですが、なんとファーヴは一人で時の牢獄に向かってしまったのです。
時の牢獄に入れても、ファーヴがシルヴィさんを見つけだせるか分からないし、仮に彼女と出会えたとしても、こちらの世界に戻ってこられるか未知数。
実際、ファーヴとシルヴィさんは、未だに私達の前に姿を現していません。
ですが、私達もファーヴ達を救うためになにもしなかったわけではありません。彼らを救うための手段を、みんなで探っていました。
それはなかなか難航していましたが、私達は一つの手がかりを見つけます。
ファーヴが時の牢獄から出られたのは、魔王がいなくなったことによる歪みの結果だといいます。
なら、魔王について調べればなにか分かるかもしれない──。
そう考えた私達は、かつて魔王と激しい戦いが繰り広げられたと言われる、ここ──古代遺跡の存在を知りました。
リンチギハムとベルカイム、どちらの王都からも離れているため、今まで私達の誰も知らなかったのです。
その存在を知り、いてもたってもいられなくなった私は、ドグラスと一緒に足を運んだ──というのが事の顛末。
「ナイジェルも来ればよかったのにな」
とドグラスが言葉を漏らします。
燃えるような赤髪と、いつも自信満々な姿が特徴の男性です。
見た目は完全に人間なのですが、彼の正体はドラゴン。
元々は念話友達だったのですが、私がリンチギハムに移り住んだことをきっかけに、彼も一緒に同じ場所で暮らすことになりました。
今まで数々のピンチから私を救ってくれましたし、先のアルターとの戦いにおいて大活躍したヒーローです。
「仕方がないでしょう。近く行われる、王位継承の儀のために、国中の要人がリンチギハムを訪れるのですから。今はその対応でいっぱいいっぱいのはずです」
そう──。
ナイジェルはこの国の第一王子。
まだ国王陛下は健在だけれど、元気なうちに王位をナイジェルに譲ってしまいたいらしい。
王位継承のために、今まで私達──特にナイジェルは慌ただしく動いていましたが、とうとうその日が目の前に迫ってきていました。
ナイジェルに王位が継承される日は、国にとってもめでたいこと。
それにあわせて、王都ではお祭りも開かれます。
そのため、国中の貴族や精霊王だったり、隣国からも王子とその妃が訪れるため、ナイジェルは今もその対応に追われています。
本来は王妃である私も、王都を離れるのはあまりよろしくない身。だけどナイジェルと話し合って、なんとかここを捜査する時間を作れました。
「私達がファーヴを救う手がかりを見つけて、ナイジェルを安心させてあげましょう」
「ガハハ! その通りだな。ナイジェルなどいなくても十分だと、ヤツに教えてやろう!」
豪快に笑うドグラス。
ちょっと口は悪いですが、これも彼なりの気遣いでしょう。
「では、進みましょう。魔物もいますし、あまり長居していては──」
と先頭を歩き、遺跡の奥に進もうとした時でした。
「ひゃっ!」
小石に躓き、体が前のめりに倒れ──。
「おっと」
しかしすかさずドグラスが私の前に回り込み、そっと体を支えてくれました。
「気を付けろ。ここは視界も悪いからな。擦り傷でも汝に負わせてしまったら、ナイジェルに我も顔見せ出来ぬ」
「あ、ありがとうございます」
とお礼を口にします。
ドグラスの分厚い胸板に触れていると、彼に対する安心感がさらに増していきます。
心臓の鼓動が跳ね上がっていくのを感じながら、私はドグラスから体を離しました。
「それにしても……汝も以外と可愛い悲鳴を上げるんだな? まるでか弱い女の子みたいだったぞ。ガハハ!」
「むーっ。か弱いかどうかはともかく、私はちゃんとした女の子です」
頼もしいことは事実なんですが……ちょっと、一言二言多いドラゴンなことがたまに傷。
「行くぞ。先頭は我に任せろ。ここからは小石一つも逃さず、汝を脅威から守ってやろう」
「ま、待ってください、ドグラス! 歩くのがちょっと速いです!」
慌てて、私はドグラスの後を追いかけます。
この先になにが待ち受けているのかも知らず──。





