236・サプライズが過ぎます!
「すまないな。こちらもこちらで、すぐに森を出るわけにはいかなかった。そのせいで駆けつけるのがギリギリになってしまった」
「謝る必要はありません──そんなことより、どうしてあなたが? 来るとしても、どうして私に一声かけてくれなかったんですか?」
私が問いかけると、フィリップは「ふっ」と薄く笑いを零しました。
「驚かせようと思ってな。良いサプライズだっただろう?」
「サプライズが過ぎます!」
思わず大きな声を出してしまいましたが──これもフィリップなりの気遣いでしょう。
行くと言われれば、必ず私に止められると思ったから。
それでも窮地に駆けつけてくれたフィリップに、私は感謝の念を抱きました。
「さあて──ゆっくり喋っている場合でもなさそうだ!」
フィリップが手をかざします。
魔力が集中──天から光の落雷がアルターに降り注ぎます。
「精霊……か。なかなかの魔力だ。精霊と殺し合うのは、いつのことだったか。だが、残念だったな。まだ届かない」
フィリップの攻撃は全て命中しますが、途端にアルターの体が再生を始めます。
やはり──フィリップの一撃でも、アルターの不死身の力を崩すことが出来ません。
「まずは精霊から始末を──ん?」
アルターが怪訝そうな声を出す。
「結界にはこういう使い方もあるんですよ?」
私は挑発の意を込めて、そう言います。
──フィリップが魔法を放っている間に、いつでも結界を張れるように準備していました。
結界の発生場所は、アルターの周り。
アルターを囲むようにして張った結界は、そのまま彼を閉じ込める牢獄になります。
「頭も回るようだ。これほどまでに、血湧き肉躍る瞬間は初めてかもしれぬ。悠久の時を過ごし、戦いに飽きたと思っていたが──儂もやはりドラゴンだ。強者との戦いは面白い」
尾を振り回すアルター。
結界を薙ぎ払います。
「外側からの攻撃に結界は滅法強いが、内側からの衝撃についてはその限りではない。このようなもの、僅かな時間稼ぎにしかならぬのだ」
解き放たれる漆黒の災厄、アルター。
ですが、こうなることは織り込み済み──すぐさま全身を一発の弾丸と化したファーヴが、アルターに向かっていきます。
「何度やろうと無駄だ。まだ分からぬか」
アルターが黄金のブレスを吐く。
ファーヴの前に張った結界が壊れますが、彼はそれを意に介さずアルターに剣を打ち込もうとし、
──九十度、方向転換。
迎え撃つアルターの一撃を避け、ファーヴは近くの木の枝に着地しました。
「ちょこざいな真似をしよる」
そう言うアルターは、明らかに苛ついているようでした。
「何故、ドラゴンの姿に戻らない。ドラゴンとしての誇りを捨て、人に尻尾を振ったか? ドラゴンの姿となれば、少しは儂に傷を付けられるかもしれぬぞ」
「決まっている。今、お前を倒すつもりがないからだ」
とファーヴが返答します。
「絶望を前にして、儂に勝つことを諦めたか?」
「違う。俺達の狙いは別にある。確かに、ドラゴンの姿になった方が攻撃の力は増すかもな。だが、俺はこっちの方が戦いやすい。お前の攻撃が避けやすいゆえに」
そう──。
いくらアルターには致命傷を与えようとも、不死身の体の前には無意味なことを、私達は事前に知っていました。
今、私達がすべきことは、アルターを倒すことではありません。
時間稼ぎをすること。
そうすれば──。
「エリアーヌ!」
上空から声。
夜空にはもう一体のドラゴンが現れました。
赤きドラゴン──ドグラス。
そしてその背中にはナイジェルが乗り、私に声を張り上げます。
「アンデッドドラゴンは全て倒し、宝玉は設置し終わった! 今だ!」
「はい!」
私は目を瞑り、集中する。
私達がすべきこと──ナイジェル達が宝玉を設置し、合流してくるまでの時間稼ぎ。
それは実を結び、不死身の力を封じる準備が整ったのです。
「──発動」
一言そう告げると、竜島全体が光に包まれ、オーロラが夜空を彩りました。





