201・世界で一番幸せな花嫁
『お前なんかが、あんなにキレイな服を着られるわけないだろうが! 呪術師らしくひとりで、ジメジメとすごしな!』
子どもの頃、いじめっ子がわたしに対して酷い言葉を浴びせてきた。
それからわたしは、いつしか幸せを避けてきたように思う。
──夢を見てしまったら辛いから。
だからディートヘルムが禁術を発動した時も、真っ先に感じたのは彼への怒りではなく、後悔の念。
夢を見てしまったから、やっぱりわたしの手から零れ落ちてしまった。
しかし。
「……レティシア。本当にキレイだ」
わたしの肩に手を置いて、クロードがうっとりとした。
周りではエリアーヌやナイジェル、今までわたし達を見守ってくれた人が、誓いの儀を見届けている。
みんなはわたしとクロードを暖かい目で見てくれている。
今のわたしはどんな姿か確認していない。
こんな場所には、まともな鏡もなかったから。
それに、自分の姿を直視するのは照れ臭かったから。
だけど──クロードがあまりにわたしを見つめてくるものだから、分かってしまったじゃない。
彼の瞳に映る、わたしの姿。
「──っ!」
クロードの言葉に、なにも返せない。
彼は誰からも期待されていない王子だった。
第一王子で王位継承権がありながらも、出来は最悪。
彼が次期国王となることを憂いていた者も、少なくなかったと聞く。
そしてそんな王子は、誰からも愛されなかった少女と結婚しようとした。
ある意味、お似合いのカップルよね。
「……ねえ、クロード。わたし達、他の人からしたらどう見えるのかしら?」
「……? どういう意味だ?」
クロードがきょとんとした顔になる。
最初に黒いウェディングドレスを選んだ時も、きっと白いウェディングドレスを無意識の内に避けていたから。
白いウェディングドレスに夢を見てしまえば、きっとそれは手の平から零れ落ちてしまう……と。
でも完全に諦めきれず、二色のウェディングドレスを用意することにした。
黒白の花嫁。
白の夢に憧れた少女は、黒の現実と向き合った。
他の人々は、憧れのわたしと、ありのままのわたし──どういう風に見えているんでしょうね。
「でも……きっとそれはどっちでもいいのよ」
わたしの言っていることが分からないのか、クロードは困惑している。
黒と白──それはどちらも、わたしだからだ。
そして目の前の彼は、こんな黒と白が入り混じっているわたしを愛してくれた。
だからわたしも答えようと思う。
「クロード、愛してるわ」
キスは女の子から。
わたしはクロードの唇に、そっと口づけをする。
『ボクは君を絶対に離さない』
クロードが言った言葉を思い出す。
この人となら、わたしは永遠にわたしのままでいられる。
だって──どんなわたしでも、彼ならわたしを離さないだろうから。
黒と白のわたしは混じって、貴方の色になる。
──わたしは幸せになれないと思っていた。
だけど──今なら自信を持って言える。
今、世界で一番幸せなのは間違いなく、このわたしなのだと。