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183・艶やかな黒のウェディングドレス

 ──そして結婚式当日を迎えたということです。


「だけど結局、当日まで禁術については、新しい情報がなにも手に入らなかったね」


 ぼそっとそう呟いたのはナイジェル。


「行き当たりばったりになってしまいましたが、呪いだということが分かれば、やれることも多くなってきます。私達は警戒を怠らず──」


 と言葉を続けようとした時でした。



「お、おい。あの美男美女カップル……どこの国の者だ」

「なに言ってんだ、あれはナイジェル殿下とエリアーヌ様。リンチギハムの第一王子と聖女様だ」

「聖女様がとても美しいとは聞いていたが……まさかここまでキレイだとはな」

「ナイジェル殿下も見た目麗しいわ。思わず見惚れちゃう」

 


 ……と私達を遠巻きから見て、ヒソヒソと話をしている方々の声。

 うー、少しは慣れてきたと思っていましたが、こうして褒められるのはなんだか照れちゃいます。


 そしてそれは私達だけではなく、



「あの男は誰だ……? 見たことがないが……」

「聖女様達の護衛じゃないのか? 見るからに強そうだ」

「だけどちょっと近寄り難いわね……すっごく怖い顔をしているわ。イケメンだけど」



 ドグラスにも注目が集まっていました。


「ほほお? 我の話をしているのか。あまりジロジロ見られるのは好きではない。仕方がない。肩慣らしに、ちょっとシメてやるか──」

「ドグラス!」


 肩を回して喧嘩を吹っかけようとするドグラスを嗜める。


「勝手なことをしてはいけません! 禁術のことがなくても、そんなことをすれば騒ぎになってしまいます」


 二人の結婚式をメチャクチャにするなんて、私が許しません。


「ガハハ。なあに、冗談だ。しかし参列者の中に、禁術の首謀者がいることも考えられるだろう? 警戒しておいて損はない」

「うん、ドグラスの言う通りかもね。華やかなパーティーに気を取られて、油断してはいけない」

「確かにそうかもしれませんが……」


 不安になっている私の一方、ドグラスとナイジェルはお互いを見合って笑った。


 先日の《白の蛇》の以降、二人の仲はさらに深まった気がします。

 なんでも、二人の間でなにかあったそうなのですが……。



『エリアーヌにも話せないよ。男と男の話なんだから」

『そうだ。エリアーヌに言っても、理解してくれないだろうからな』



 いくら聞いても、二人とも教えてくれませんでした。


 男と男の話──そう言われればあまり首を突っ込むのもよくない……と自分を言い聞かせましたが、気になるものは気になります。

 それにどうして女の私を仲間はずれにするのでしょうか?

 少しもやもやした気持ちを抱えてしまいます。


「そんな顔をするな。そろそろ式が始まりそうだ。そんな顔をしているのを見られれば、クロードとレティシアを心配させることになるぞ」


 私がぷくーっと頬を膨らませていると、ドグラスがポンポンと軽く頭を叩いてきた。

 まるで不機嫌な子どもを相手にするような態度を取られ、私はさらに釈然としない感情を募らせるのでした。




 それは突然始まりました。

 会場の照明が一斉に落とされ、周りが暗闇に包まれます。


「どういうことだ!? とうとう禁術とやらが発動したのか!?」

「いえ、これは──」


 少し待っていると、誰かがゴソゴソと会場に入ってくる雑音。


 そしてやがてラッパの音が聞こえてきました。

 それは徐々に他の楽器も加わり、音楽を紡いでいく。

 華やかで迫力の溢れる音楽。一瞬で私を含め、この場にいる方々は音楽の世界観に入り込んだ。



『──本日はクロード殿下の結婚式にお越しいただき、ありがとうございます』



 場にそんな声が響き渡る。



『さて、皆様も待ちくたびれたでしょう。ここで主役の二人に登場してもらいます──クロード殿下とレティシア王太子妃様です!』



 バンッ!


 扉の開く大きな音が後ろから聞こえる。周囲の人々は。そちらに一斉に顔を向けた。


「クロード! ──レティシア!」


 思わず声を上げてしまう。

 扉からは──白い正装に身を包んだクロードが、レティシアの手を引いて入場してきたのです。


 二人にスポットライトが当てられる。


 クロードもとても素敵だけれど、なにより私が目を奪われたのはレティシアの姿。

 漆黒のウェディングドレスに身を包み、顔には微笑みを携えている。いつもより化粧も艶やかで、薔薇のような美しさが彼女の可憐さを際立たせていた。

 一見、黒のドレスは地味に映るかもしれません。

 しかし今のレティシアが着ている衣装はとても華やかで、会場中の視線を釘付けにしていました。


「キレイ……」

「エリアーヌがそう思うのも、仕方がないね。今の彼女はまさしく、この結婚式の主役だ」

「ほほお……あの小娘、なかなかキレイではないか。普段からは、想像もしていなかったぞ」


 これにはさすがのナイジェルとドグラスも、手放しに賞賛します。


 レティシアの手を引くクロードは、まるで騎士のよう。

 なにがあってもお姫様(レティシア)を守る──そんな強い意志を感じました。


 ゆっくりとした足取りで、二人は壇上へと向かっていく。

 周囲にいる人達も自然と道を開けていました。

 それはきっと、相手が新郎新婦だから……ということだけではなく、二人の華やかさに圧倒されているためでしょう。


 まるで永遠に続けばいいのにと思えるくらい、美しい時間。

 音楽の様子も徐々に変化していく。


 他の楽器の音が鳴り止み、代わりに笛の独奏が始まる。

 このまま音に身を委ねていたくなるような──そんな流麗な音色。

 それはまるで二人を包み込み、祝福しているようにも感じました。


 そしてクロードとレティシアが壇上に上がると、素敵な音楽も終了する。会場の照明がゆっくりと灯されていった。



『──演奏はアポロン音楽団担当でした。どうか素敵な音楽を披露していただいた音楽団の方々にも、最大の賛辞を』



 いつの間にか、会場には音楽団の方々が楽器を携えて待機していた。

 照明が落とされている間に、ここに移動したんでしょうね。そんなに時間もなかったはずなのに……見事な手際です。


「アポロン音楽団……私とナイジェルが、街中で演奏をお聞きした音楽団の方々でしたか」

「うん、そうだね」


 だけどここで少し驚いたのは、指揮者であり団長のディートヘルムさんの両手に笛が持たれていたこと。


 木製の笛で簡素な作りをしているように見える。

 そんな笛で、先ほどの素敵な音楽を奏でていたとは──と私は彼に感服しました。

 ディートヘルムさんは静かに微笑んで、会場の人達に代表として頭を下げた。


 会場の人たちは盛大な拍手によって、彼らに賛辞を送る。



 ぞわっ。



「どうしたのだ、エリアーヌ。なにかあったか?」

「だ、大丈夫です。なんでもありません」


 気遣ってくれるドグラスにそう言うと、彼は不思議そうに首をかしげた。


 真剣な表情のクロードはカッコよかったし、レティシアも息を呑むくらいキレイ。

 会場の雰囲気も最高。音楽も素晴らしいものでした。


 しかし──どうしてでしょう。


 ディートヘルムさんの表情を見ていたら、何故だか私は背筋が寒くなりました。

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