126・今日の君は世界一美しい(ナイジェル視点)
書籍版2巻が明日(7月2日)に発売します。
詳細はあとがきに記しています。
「にいに、とってもカッコいいの!」
リンチギハム。
王城のとある控え室──僕は全身白の正装に着替え、時間になるのを待っていた。
「ありがとう、セシリー」
褒めてくれたセシリーの頭を、僕は優しく撫でてあげた。
魔王を倒してから一年。
あれから——みんなもそうだと思うけど——僕は目まぐるしい日々を過ごしていた。
ある程度、王都の様子も落ち着いてから、リンチギハムの国王陛下——父上も来てくれた。
そこで今後の打ち合わせもしたけど……有意義な話し合いが出来たと思う。
父上は、
『あれが本当にベルカイム王国の国王陛下か? 随分変わったのだな。こんなにスムーズに話し合いが進むとは思っていなかった』
と驚きを隠せないようであった。
魔族に侵攻された王都は、まだ以前のような状況に戻っているとは言い難い。
しかし心を入れ替えた王国を助ける他国も現れ、比較的混乱に陥らずに復興は進んでいると考えられる。
なんだかんだでベルカイム王国は大国だ。
いくら弱っているからとはいえ……そこに軍事攻撃を仕掛けるよりは、恩を売っておいた方が得だと考えたのだろう。
もしくはベルカイムを援助するリンチギハムの存在を恐れた……ということもあるが、まあどちらにせよ上手くいっているようなら、それでいい。
みんな、なんだかんだで平和を愛していたのだ。
それなのに、今まで王国が戦争も辞さないような態度を続けていたから、ピリピリしていただけ。
そう感じた。
「ナ、ナイジェル……お前も本当に立派になったな。死んだ王妃にも見せてあげたかった……っ」
「父上は大袈裟だ。みんなの前では、絶対に泣かないでよ。恥ずかしいから……」
父上は僕の姿を見て、感涙を流している。
ハンカチで目元を拭っているが、到底追いつかない。
ありゃりゃ……こんな姿じゃ、みんなの前に顔を出せないよ。
いつもは凛々しくて頼りになる父上が、今は子どものように見えた。
「ラルフもどう思うかな?」
足下にやって来て、頭をすりすりと押し付けているフェンリルのラルフにも訊ねる。
ラルフは僕を真っ直ぐ見つめ、首をかしげた。
「はは、ごめんごめん。僕の言っていることなんて分からないよね。でも祝福してくれていることは、なんとなく分か——」
そう言葉を発しようとした時であった。
『ん……どう思うかだと? そんなこと、決まっているではないか——カッコいいぞ。それでこそ、この国の未来の国王陛下だ。ラルフもそなたを長年見続けてきたが……あーんなにちっちゃかった子ども時代が、嘘のようだ』
何故だか——ラルフからそんな言葉が聞こえた気がした。
「え?」
すぐに聞き返すが、当のラルフはいつもの様子に戻って、気持ちよさそうに頭を押し付けてきた。
「にいに、どうしたの? ラルフをじっと見て」
セシリーがクリクリの丸い瞳を僕に向ける。
「いや、今ラルフが——ううん。なんでもない」
「?」
気のせいかな。
ラルフが喋った言葉が聞こえた気がしたんだけど……まあそんなことはないだろう。
フェンリルの言葉を聞くことは、エリアーヌしか出来なかったのだから。
「エリアーヌ……」
エリアーヌの顔が頭に浮かぶ。
「にいに……やっぱり寂しかった? だってリンチギハムに戻ってきてから──」
「いや、そんなことないよ。セシリーも父上も、ラルフもいるんだからね。でも……彼女が僕の前からいなくなって、今日で丁度一年。さすがに僕も……ちょっと寂しかったかな」
「仕方ないの。だって昔はあんなに、にいにとお姉ちゃんは一緒にいたんだから……セシリーも寂しかった」
セシリーが俯き加減に言う。
ここまであっという間の日々だった。
それこそ寂しいなんて考える暇もなかった。
でもふとエリアーヌのことを思うと、胸が張り裂けそうになるのだ。
彼女を抱きしめたい!
……しかしそれは出来なかった。
だって彼女は——。
「ナイジェル。そろそろ時間だ。行こうか」
「うん」
なんとか泣き止んだ父上が、表情をキリッとさせて言う。
——今日は僕にとって特別な日。
そして……それは彼女にとっても同じであろう。
部屋から出て、長い廊下を歩く。
そしてみんなでとある部屋の前まで辿り着き、ドアノブに手をかけた。
「にいに」
セシリーが僕の隣に立ち、手を添えてくれた。
僕は彼女を見て頷き、一気に扉を押し開けて——。
「お待たせしました」
白い花嫁姿。
この世の者とは思えないくらいの美しさ。
輝いて見えたのは、決して光の加減ではない。
彼女は優しげな瞳でこちらを向いて、にっこりと口元に笑みを浮かべた。
「とてもキレイだよ──エリアーヌ」
僕は彼女——エリアーヌに向けて、そう口にした。
おかげさまで、本作品の2巻がKラノベブックス様より明日(7月2日)に発売されることになりました!
表紙画像はさらにこの下にも載せていますので、ご覧いただけると幸いです。
ぜひ書店や電子書籍などで手に取っていただけると、とても嬉しいです。
よろしくお願いいたします!





