125・世界の平和(フィリップ視点)
書籍版2巻、発売決定。詳細は一番下に載せています。
「あれからもう一年か」
「そうだな」
精霊の村——フィリップ邸。
精霊王フィリップと、ヴィンセントが会話を交わしていた。
「月日が流れるというのは早いものだ」
「ここ一年は激動の日々だったからな。そう感じるのも無理はないだろう」
二人とも表情一つ変えずに言う。
(こいつと喋っていると、なんだかむず痒い気持ちになる。頑固なところが……なんというか、自分を見ているようだからな)
フィリップはそう内心思い、顔を歪めた。
この一年。
魔王が倒されてから、世界は徐々に落ち着きを取り戻していった。
(ベルカイム王国は元々、他国と敵対する態度を見せていた。いつ戦争になってもおかしくないほどにな)
フィリップは思う。
(しかし……皮肉なことに魔王を倒すため、リンチギハムと力を合わせたことによって……心が一つになった。今となっては、両国の仲もかなり良好だ)
唯一の懸念は、次期国王陛下がクロードという無能であったことだが……それも少しずつ解消されていると聞く。
なんでもクロードは心を入れ替え、以前とは見違えるほどの人格者となっているらしいのだ。
(俺が瘴気を払うために、王国に行って──追い返された時が嘘のようだ。まああれだけの大国がリンチギハムの味方になってくれるのは、願ったり叶ったりのことだが)
なんにせよ世界が平和になることはいいことだ——そうフィリップは結論づけた。
『ヴィンセントさまー。ヴィンセントさまーのために、はなかんむりつくってきたー』
『どうかおおさめくださいませー』
「……有り難いが、前来た時も花のネックレスを貰ったと思うんだが? どうしてお前達はそこまで、私にプレゼントをくれるのだ」
前を見ると、子ども精霊のアルとマーズがやってきて、ヴィンセントに花冠を被せていた。
ヴィンセントは少したりとも笑顔を浮かべないものの、どこか喜んでいるようにも見えた。
彼はちょっと、感情が表に現れにくいのである。
そのことは精霊達の間で周知の事実であった。
『ヴィンセントさまーは、きよらかなこころのもちぬしー』
『まーずたちにもわかるー』
アルとマーズが口にする。
「全く……ここに来ると、私が氷の公爵と呼ばれ一部から恐れられている事実が嘘のようだ。まあ別にいいが……」
溜息を吐くヴィンセント。
(第一印象は冷たい男だと思っていたが、そうでもないみたいだな。なんせアルとマーズがこれだけ懐くのだ。優しいヤツであることは間違いない)
その姿を見て、フィリップはそう思った。
ナイジェル達の提案で、ヴィンセントは精霊達のいわば護衛役となっているのだ。
この一年で、フィリップはヴィンセントと深い付き合いをしてきた。
時には彼から「ここももう少し軍備面に力を入れるべきだ」と言われ、そのことに対して喧嘩になったこともあるが……決して仲が悪いというわけではない。
今まで、そんなことをフィリップに進言をした者はいなかった。
ゆえに、そういった形で率直に意見をぶつけてくるヴィンセントの存在は、フィリップにとって貴重であった。
(そのおかげで村もだんだん豊かになってきた。皆も安心して暮らしているみたいだし……本当にヴィンセント——そしてナイジェル達には感謝しなければだな)
ヴィンセントの頭の周りをアルとマーズが飛んでいる。
「あまりヴィンスに迷惑をかけるな」
『はーい』
『がまんするー』
フィリップが窘めると、アルとマーズがどこかに飛んでいってしまった。
「別に私は良かったんだがな」
「そういうわけにもいかないだろう。それに──そろそろ出発の時間だしな。だが……ヴィンスがアルとマーズを受け入れるとは、俺も予想外だ。なんというか……君はああいうのが苦手なイメージがあった」
「私が? はっ!」
噴き出すヴィンセント。
「私は可愛いものが好きだぞ?」
「……さらに意外だ。そんなこと、今まで一言も言わなかったじゃないか」
「聞かれなかったからな」
腕を組み、不服そうなヴィンセント。
そういえば昔……エリアーヌが薬師の試験を受ける際、彼女にお守りを渡したのだと聞く。
氷の公爵と呼ばれ、俗世離れしているイメージがある彼であるが……意外とそうでもないかもしれない。
この一年でフィリップはそれを強く感じていた。
「ふむ。では、行くとするか」
ヴィンセントが立ち上がる。
現在——フィリップとヴィンセントは、いつも以上にきっちりした服装に身を包んでいた。
ヴィンセントは淡いブルーの正装。
男性ながらあまりに美しく、見る者は言葉を失うことになるだろう。
対してフィリップは一見、普段とあまり様変わりしていないようにも見える。
しかし首元には黒の蝶ネクタイを身につけていた。他にも衣装がいつもよりじゃっかん、華やかであった。
「そうだな。それにしても……こういう服は動きにくい」
「せっかく用意してやった服だ。それに……似合っているぞ」
「はは、君に言われても嬉しさが半分だ。どうせなら彼女に言って欲しかった」
「ふっ。お前がそう考えるのも仕方がないな」
そう。
彼女は遠くにいってしまった──そういう感覚をフィリップは抱いていた。
(やれやれ、どうやら俺は本気で彼女のことを好いていたみたいだ。しかし彼女のことを考えていると、胸がもやもやする。この感情は……?)
精霊王──未だ恋を知らず。
それが恋心にも似た感情であることを──フィリップはまだ分かっていなかった。
「どうした。精霊王よ」
「……! なんでもない」
しかしフィリップはすぐに表情を元に戻して。
「早く村を出よう。遅れたら、ナイジェルに怒られてしまう」
「違いないな」
二人は少し笑い合って、部屋を後にした。
おかげさまで、書籍版2巻がKラノベブックス様より7月2日発売予定です。
ページ下部に表紙画像も掲載していますので、ぜひぜひご覧くださいませ。
よろしくお願いします!





