122・みんなにもう一度会いたい
私達の体は眼下にいる──魔王に向かって、落下していく。
魔王の咆哮が響き渡り、こうしている間にも城の崩壊は留まることを知りません。
私達だけで魔王に対抗する術は、もうどこにも……。
これが走馬灯なのでしょうか──私の頭の中には、今まで出会った人々の顔が次々と浮かんでいった。
クロードとレティシア。
二人には嫌なことをされましたが、最後に改心してくれたみたいで嬉しかったです。
そもそもレティシアがいなければ、あの毒蛾のような魔族に足止めされていて、ここに辿り着くことも出来なかったかもしれませんからね。
ドグラス。
初めは念話友達から始まった。
だけど彼はリンチギハムまで追いかけてくれて、私達と一緒に暮らすことになった。
悪戯好きのドグラスには少々困ることもありましたが、彼と過ごす日々は大切な日々です。
セシリーちゃん……そしてラルフちゃん。
可愛いセシリーちゃん。ラルフちゃんも、もふもふして可愛い。
王都を発とうとした時、私達がやろうとしていることを察している素振りを見せたセシリーちゃんは、ちょっと大人に見えて驚きましたね。
王城で暮らす人々だけではない。
騎士団長のアドルフさん。精霊王のフィリップ。ヴィンセント様に、メイドのアビーさん。研究所所長のロベールさん……王都の騎士団長クラウス。
今まで様々な人が私の力になってくれた。
どうして私なんかのために、こんなに手を貸してくれたんでしょう?
私が聖女だったから?
……違う。
もしかしたら初めはそうだったかもしれません。
だけど彼等はいつしかそういう色眼鏡なしに、私を見てくれました。
「エリアーヌ、諦めるな! 最後の最後まで勝利を信じるんだ!」
落下していく最中、ナイジェルに声を投げられる。
そう……諦めるわけにはいきません!
みんなにもう一度会いたい!
そのためにも──私はこんなところで死ぬわけにはいかないのです!
「こ、この光は……!?」
ナイジェルが戸惑いの声を上げる。
私の意志の力は魔力となり、やがて光が地下に広がっていった。
いえ……それだけではない?
上を見ると、そこからは一本の剣が私達に舞い降りてきた。
「これは……」
急に現れた剣に、ナイジェルも混乱している様子。
その剣はまるで導かれるかのように、私達のところで静止。さらにその光を強くした。
それと同時——私達の落下が緩やかなものに転じる。
「フィリップから貰った……サビた剣?」
間違いありません。
あの時と同じとは思えないくらいの輝きを放っている剣に、一瞬驚いてしまう。
ひどく懐かしい感覚。
ナイジェルはまるでそれが昔から定められていたかのように、自然と左手で剣を握った。
こうしている間にも、私達の体はゆっくりと魔王に向かって降下していく。
「なんだか不思議な気分だ。体から力が湧いてくる」
「そうなんですか?」
「うん。まるでエリアーヌに女神の加護を付与してもらった時と……ううん。その時よりもさらに強く……」
その時でした。
ナイジェルの体から黄金色の光が放出される。
女神の加護を付与した時と……いや、ナイジェルも言う通り、それよりもさらに強い!
「ナイジェル! だ、大丈夫ですか!?」
「う、うん。大丈夫。心配しないで」
訊ねるが、ナイジェルはなんともなさそう。
それどころか、彼の傷も徐々に治っていく。
今では戦いの前よりも、ナイジェルが活力に満ちているようでした。
——なにが起こっているんですか!?
戸惑っていると、
『聖女エリアーヌ、聞こえますか——? ようやく準備が整いました』
あの夜に聞いた時と同じ女性の声が聞こえてきた。
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