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無双剣士の異世界魔王討伐  作者: 紫 魔夜
第二章 邪悪な神々
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布石

第七十七話。今後のために、今から

 暗く深い闇から目覚める。

 狼刀(ろうと)は魔神召喚の生贄にされ、死んだ。けれど、まるで夢の中で魔神になっていたような記憶がある。それは酷く曖昧で、思い出そうとするたびに、崩れ去ってしまう儚い記憶。

 体に感覚が戻ってくるにつれ、狼刀は思い出すことを諦めた。

 ゆっくりと目を開ける。

「大丈夫かい?」

 ハーティルが心配そうな顔で覗き込んでいた。

「大丈夫だ」

 狼刀は笑顔で答える。

 場所はデュース城。スペーディアは復活していないし、襲撃も起こっていない。そもそも、捕らえているのは知恵の神官クレバーだけだ。

「なあ、少し城に戻ってもいいか?」

 狼刀の問いかけにハーティルが眉をひそめる。

邪神教(じゃしんきょう)の攻略に向けて、情報を共有しておきたい」

 狼刀は一冊の本を取り出した。

「それって」

「邪神教について書かれた本だ。だが、潰すには情報が足りない」

 ハーティルは驚いたような表情を浮かべているが、狼刀は気にせずに続ける。

「トレイス城と砦にいる神官、それからマルティール騎士団を捕らえ、今いる神官と一緒に情報を聞き出す」

 一息置くが、ハーティルは何も言わない。

「そこまでを一気にやるために、護送をクエラに頼んで欲しいんだ」

「……僕がかい?」

 ハーティルは考えるように腕を組む。

「俺は王に頼み事をしてくる」

「わかった」

 二人は城に戻り、二手に分かれた。


「トレイス城に詳しい人を紹介してくれませんか?」

 王の間に入るなり、狼刀は王に尋ねる。

「突然ですな」

 玉座に座る王は静かに答えた。

「突然ですいません。ですが、知らなければならないのです」

「急ぎですか?」

「トレイス城の神官を捕らえてくる間に、お願いします」

「わかりました。手配しておきます」

「よろしくお願いします」

 狼刀は頭を下げる。そこに、感謝の気持ちはほとんど込められてはいなかった。

「いや、こちらこそ。これくらいしかお役に立てることがなくて申し訳ない」

「そんなことは、決して」

 彼らが敵だったとして、狼刀を助ける意味はわからない。

「情報だけでも、とても役に立っていますよ」

 狼刀は笑みを浮かべた。

「……そうか」

邪神教(じゃしんきょう)のことはお任せ下さい」

 王の表情に変化はない。

「頼みます」

 ただ静かに、頭を下げた。


 ハーティルと合流し、トレイス城に向かう。

 その最上階、王の間に当たる場所に、予言の神官――クバウトは居た。


「予言どおりですねぇ。まっったく、予言通りです」


「俺もだよ」

 狼刀は小さく呟いて、竹刀と刀を構える。

「ユウキ・ロウト。あなた如きに何がわかるというのですか? 神託聖書(オラクルバイブル)を持つ僕には未来を見ることが出来ますが、凡愚たるあなたに何がわかると」

「わかるさ。俺にも未来がな」

 嘘ではない。

 だが、クバウトを挑発するために誇張はしていた。とはいえ、彼に真偽を判断する術は無い。

「なんだと? ふざけているのか?」

「ふざけてないさ。その本で調べてみればいいだろう?」

 狼刀は挑発を続けた。

「黙れ! 死ね! 図に乗るんじゃない!」

 叫びながら、クバウトが勢いよく右手を突き出す。

 狼刀は彼我の距離を一気に詰めた。

「化け物め! 爆焔魔法(エェルマァァァス)!」

「無駄だ」

 どんな魔法を放とうとも、狼刀には関係ない。見えてすらいないのだから、クバウトは魔法によって自らの視界を塞いだだけだ。

 狼刀が振り下ろす竹刀は、見えていないのだろう。

「ぐはっ……」

 クバウトは避けなかった。


 ハーティルにクバウトを担いでもらい、城を出る。傭兵団とは、ここでは、会わなかった。

 クエラにクバウトを託し、二人は砦に向かう。


「あなたがたは……?」

 そこにいたのは、魔神召喚士ことフェシーだ。

「私は、予言の神官から大神官様への伝言を承ってまいりました。通していただけますか?」

 その攻略法はすでに確立されている。

「なるほど。確かにクバウト様と似たような服を着てますね。親書などは持っていないのですか? 大神官様への伝言となれば、それぐらいのものはあるでしょう?」

「知恵の神官様を信じ、そして邪神教(じゃしんきょう)に仕えるあなたなら、予言の神官の思いを汲み取ることも出来るのではありませんか?」

「そう! 我らは同じく破壊神を崇拝し、邪神教に属する神官。大神官様のもと同じ意思を、願いを持って集まった尊ぶべき仲間ということですね。そんな当たり前のことを、私は忘れていた……」

 フェシーは恍惚のした表情を浮かべた。

「あなたは、いえ、予言の神官クバウト様はいずれ、クレバー様の納める世界においても重要な役割を担うことでしょう。もちろん、あなたもその場にいるべき神官です」

 大仰な仕草でフェシーが語る。

「さあ! 道を開けなさい! クバウト様の使者の方が通られます」

 号令のもとに、神官達は一糸乱れぬ動きで中央に道を作った。

「さあ、こちらへどうぞ」

 フェシーの後ろに続きながら、狼刀は魔神の位置を確認する。不可視だが、その場所はいつもと変わらない。

「サブナック。避けていてください」

 フェシーが立ち止まる位置も、判を押したように同じだった。

 狼刀はレラジェに向かって、竹刀を投げる。

「げ、下郎ごときがぁ!」

 レラジェは消滅した。

「ハーティル!」

「わかってる」

 もう一体(サブナック)の相手はハーティルに任せるとして、狼刀が向かうのは残った神官達だ。二本の刀を自在に振り回して、狼刀は踊るように立ち回る。

 神官達は瞬く間に沈黙した。

 ハーティルの魔法でそれを閉じ込め、二人は砦の奥へと進んでいく。そこに待ち受けるのは、オルダー率いるマルティール騎士団だ。


「ええ、休まれるがいいでしょう。永遠にね」

 入ってすぐに休もうとするのは不自然な気がするのだが、オルダー達はそれでも現れる。もしくは、砦での戦闘を見ていたから、彼らにとっては不自然ではないのか。

「ハーティル!」

遮音魔法(サインザ)防砦魔法(キャランサ)防砦魔法(キャランサ)・監獄」

 そんなことは狼刀にとって、関係のないことだが。

「やるぞ」

 狼刀の声に反応するように、真上から魔神の声が響いた。

「此方もゆくぞ」

 狼刀は竹刀を振り上げる。

「まさか、まだ……! くそっ」

「グルァ!」

 不可視の魔神は、姿を現すことなく消滅した。

 残るはリーダーを無力化されたマルティール騎士団だ。

「殺すなよ」

「わかってる」

 フェシーが連れていた神官達よりは強かった。数もマルティール騎士団のほうが多いだろう。それでも、一人で相手をしなければならないわけではないのだ。

 ハーティルと共に、狼刀は神官達を無力化した。


「ここでクエラと合流して、デュース城に戻るぞ」


 それ以上の深追いはしない。

 ここで進んでもステイマー達に勝てる見込みは全くないし、戻れば相手から襲ってくる。セイントなどの協力を仰ぎ、デュース城で倒すほうが確実だ。

「……わかったよ」

 ハーティルは納得したという顔ではなかったが、頷いた。まもなく現れたクエラ達と合流し、二人はデュース城に戻る。


 何もしなければ、すぐに会談が始まってしまうだろう。しかし、デュース城の中はどこで監視されているかわからない。

 狼刀は城に入る前に、セイントとミソロギ宛の手紙をハーティルに託し、クエラとハーティルにも手紙を綴った。

 細かく内容か書いてあるわけではない。考えられる可能性と、望む対処法くらいだ。

 狼刀自身は、地下牢獄に向かい、やるべきことを行う。


 そして、一同は王の間に集った。

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