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無双剣士の異世界魔王討伐  作者: 紫 魔夜
第二章 邪悪な神々
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強者達

第五十話。みんな強くてみんないい

「 辿り着いたのは、荒れ果てた城だった。

 元々は豪華絢爛な城だったはずだ。人だってたくさん暮らしていたのだろう。城下町を内包したその城が賑わっていたことは想像に難くない。

 だが、全て過去の話だ。

 基調となっていた緑色は苔のように、人の気配もなければ、代わりに魔物が跋扈(ばっこ)することもない。静寂に包まれた城の中を、狼刀とハーティルは探索していた。

 一人増えれば何かが変わるかもしれない。

 狼刀はそう考えていたが、現実はそんなに甘くはなかった。

 探索も残すは、最上階の重厚な扉に守られた王の間だけだ。


「予言通りですねぇ。まっったく、予言通りです」


 狼刀の予想通り、鉛白(えんぱく)色の男がそこにいた。

 全身を、服や装飾品だけでなく、髪や肌まで白い。それも綺麗な白ではなく、濁ったような灰色に近い白だ。

「僕は予言の神官」

 長い髪をかき上げて、神官が立ち上がる。

「強く、賢く、偉大なる三神官の一人」

 髪を振り乱し、身振り手振りを繰り替えし、鬱陶(うっとう)しいくらいに存在感を放ちながら、神官は二人と向き合った。

「ユウキ・ロウト。あなたの名でしょう? それから、隣にいるのはハーティル・サトクリフ」

 名前を当てられて、ハーティルが顔をしかめる。もしかしたら、自分の名前が後だったことに対してなのかもしれないが、それはハーティルにしかわからない。

「ああ、どちらも答えなくてもいいですよ。予言が間違っていることなどないのですからね」

 そんなことを、狼刀も神官も気にはしなかった。

「奇跡に愛された僕。そして、崇高なる予言書に過ちなど存在しない。予言書、すなわち神託聖書オラクルバイブル。ああ、素晴らしい」

 神官は二人の反応を気にかける素振りすら見せず、一人で語る。

「僕の予言は絶対、完璧、唯一無二。君達がどう動こうが、すべては予言されている。さあ、好きに動いてみるがいい。僕にはすべてわかっている」

 ハーティルが近づくと、神官は同じだけ後ろに下がった。ハーティルが横に移動すれば、神官も横に移動する。本から目を逸らすことなく、それでも二人の動きに合わせて、同じ距離だけ、同じタイミングで。

「このっ……!」

 歯噛みするハーティルに、神官が笑みを浮かべる。

「すごいだろう? そもそもね――」


「お取込み中失礼するガ、いいかね?」


 声は後ろから聞こえた。

 狼刀はその声を知っている。このタイミングで、この場所に、現れる二人を知っていた。

「傭兵団でしたか。デュース城を出たとは聞いていましたが、この城に何の用事でしょうか?」

 神官は二人を一瞥し、手元の本に視線を落として問いかける。

「我々はこの場所で魔物を殺したいガ、邪神教のおかげで魔物が一体も見当たらないのでね」

 答えたのは虫を模した仮面をつけた――ボスだ。本名という可能性がないとは言えないが、おそらく傭兵団のボスというだけだろう。

「ボス、邪神教のせいで、というべきではありませんか?」

 サングラスの青年が反論する。

「我々にとってはそうだガ、おかげでも間違いないと」

「失礼しました」

 二人が身に纏うのは、塔の守護をしていた神官達と似たローブだった。傭兵団ということらしいが、邪神教(じゃしんきょう)と関連があるのだろうか。

 例えば、ブラストよりも強いらしい謎の神官に関わる何かとか。

「傭兵の分際で……」

 神官の顔が歪んだ。

「僕の話を、無視するんじゃない! 死ね! 僕に対する蛮行は許さない」

 叫びながら、神官は勢いよく右手を突き出す。

 その瞬間。サングラスの男が小さな銃を取り出したのを、狼刀は見逃さなかった。

爆食(ばくう)

 ボスが呟く。

「図に乗るんじゃない!」

 神官が、右手を振りかぶり物を投げるような動きをした。

爆鎖(ばくさ)

 ボスは呟き、サングラスの男は引き金を引く。

「傭兵の分際でぇ……!」

「我々は敵対したわけではないのだガ、話を聞いてはもらえないのかね」

「黙れ!」

 神官が、両手を合わせて、突き出した。

火焔魔(エェルゥァア)――!」

 叫びながら、神官が倒れる。

 不可視の魔法戦の勝者はボス。戦闘としての勝者はサングラスの男だ。狼刀とハーティルはそれを眺めていた観客に過ぎない。

「とどめを刺しましょう」

 一歩前に出た男の動きを、ボスは片手で制止する。

「その者に死を与えるのは我々の仕事ではない。我々は我々の目的を果たすだけだ」

「……わかりました」

 男は銃を下ろした。


「後は任せるよ。グリュー」


 ボスはハーティルを見てそう言うと、狼刀には目もくれずに王の間から出ていった。彼らの目的は狼刀にはわからない。

「わかりました。でも、今の僕はグリューではなく、ハーティルです」

 二人の姿が見えなくなってから、ハーティルは呟いた。

 それから倒れる神官の懐を漁り出す。

「どうする? ハーティル」

神官(これ)なら、じき死にますよ」

 まだ死んでいないらしい。つまり死にかけということらしいが、ハーティルは気にする様子もなく、仕舞われていたものを次々と出していく。

「食料、玩具、呪符。それなりの物は持っているものですね。まあ、使いませんが」

 全てを取り出し終えると、ハーティルは服を剥ぎ取った。

「使えそうなのは、この二つくらいかな」

 予言の神官の着ていた服を羽織り、神託聖書(オラクルバイブル)を持ってハーティルは振り返る。


「さぁ、さっさと邪神教を潰しに行こうか」


 ハーティルは笑顔で、手を合わせた。


 ◇


「あなたがたは何者ですか?」

 山の(ふもと)までやってきた二人を出迎えたのは、小さな砦とそれを守る神官達だった。

「私はフェシー。いづれは知恵の神官様の跡を継ぎ、世界を支配する超神官クレバー様の元活躍することになる男です」

 一番手前の神官――フェシーは誰何(すいか)したにも関わらず、答えも聞かずに自らについて語り出す。

 前回と同じだ。

 狼刀はフェシーの言葉を聞き流し、今後の作戦について考えていた。

「大神官様に命じられて、今は、この砦の門番をしております。魔神どもが王子どもにやられたのは私が悪いわけではない、それについて責任を取らされるのは筋違いだと思うのですがね。砦を作らされて、その門番までさせられて、全く全く全く、腹立たしいことです」

 狼刀は身を潜め、ハーティルは神託聖書(オラクルバイブル)を取り出して、神官達の注意を引く。

「僕は予言の神官から大神官への伝言を預かって来た。これが証拠だ、通してもらえるか」

 フェシーは眉をひそめた。

「それは、神託聖書(オラクルバイブル)。クバウト様が他人に預けるでしょうか?」

「それだけ重要な案件ということだ」

 ハーティルは淡々と答える。

「クバウト様は聖書(それ)を一時たりとも離したことはないはずです。親書などではなく、それを託すなんて信じられません。拘束させてもらいます!」

 フェシーが叫ぶと同時に、ハーティルの肩が穿たれた。

「ぐっ……」

 ハーティルは傷口を押さえて、しゃがみ込んだ。

「ああ、クバウト様の大事な神託聖書(オラクルバイブル)を傷つけてしまった。ですが、選ばれし者にしか与えられない本型の魔法機(ギフト)。それを他人に貸し与えたクバウト様が悪いのです。あなたは、やはり、三神官にはふさわしくない!」

防砦魔法(キャランサ)

 ハーティルは魔法を展開し、神官の追撃を防ぐ。

「防御系の魔法ですか。なかなかに硬いようですね。物理的に破壊するのは無理でしょうか? そうですか。では諦めて精神的に突破する手段をとりましょうか? どうやるのですか? なるほど、こうですか?」

 神官は何かと語らい、指を鳴らした。

 現れるのは異形の魔神。ライオンのような顔をした蒼白のミノタウロスだ。武器は斧ではなく、紅い大剣で、それをおそらくはハーティルの魔法に叩きつけている。

「魔神サブナック。そこらの魔物と同じだとは思わないほうがいい。おっと、我ら邪神教が駆逐してしまったから君たちは魔物を知らない、無知な人間だったかな。それでも、魔神のこの姿を見てはひれ伏す他に手はないだろう?」

「無駄だ。その程度じゃ、僕の魔法は破れない」

 左手をだらんと垂らしながらも、ハーティルは余裕の笑みを浮かべていた。

「我慢はよくないなぁ。大人しく拘束されればそれ以上痛い思いをしなくて済むのに。そうだ、所属と名前を言いなよ。邪神教の神官だと証明されれば命は取らないからさぁ」

 フェシーもまた、余裕の笑みを崩さない。

「破壊神を崇拝する邪神官どもが。僕は貴様らとは違う」

「やはり、邪神教の素晴らしさを理解していない方でしたか。魔神の姿を見て畏怖も、崇拝もしないあなたはおかしかった。しかし、クバウトは異教徒如きにやられたのか」

「そうだ。僕らはそのクバウトとやらを倒したのさ」

 互いに譲らぬ口論は、ふいに終わりを迎えた。

「僕ら?」

 珍しく短い呟きは、フェシーのものだ。

 辺りを見渡し、狼刀の姿を探す。だが、見つからなかったのだろう。

「もう一人はどこへいった!」

「ここだ!」

 邪神官が叫ぶと同時に、狼刀は物陰から飛び出した。

「無駄ぞ。下郎」

「余には見えておる」

「失せるがいい」

 声の主は、もう一体の魔神だ。

「くそっ……」

 狼刀の刀はフェシーには届かなかった。

 不可視の魔神から放たれた不可視の矢が、狼刀の肩、脛、脇腹を貫いていた。致命傷ではないが、生き残ることも不可能だろう。

「焦らせやがって。このっ! このっ!」

 フェシーが狼刀の頭を踏みつける。

「贄にしてやる。死ぬよりつらい思いをするがいい」

「黙るがいい。マスター」

「余が与えるは死ぞ」

「下郎の分際で図に乗るな」

 フェシーや魔神の声を聞きながら、狼刀の意識は失われていった。

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