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無双剣士の異世界魔王討伐  作者: 紫 魔夜
第二章 邪悪な神々
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復讐の果て

第四十話。復讐を果たした果てに待つものとは。

「来たぞ。スカイドラゴン」

 深紅の塔の前で狼刀(ろうと)は空を見上げて、呼んだ。そんなに大きな声を出したわけではない。それでもいつもは降りてくるのだが、今回は反応がなかった。

 会話を省略しすぎて、迎えの約束をし忘れたか。

 狼刀はそう結論づけて、塔の中を自力で上がっていった。死んだわけじゃないのに、二度も登ることになった憂鬱さから、狼刀の足取りは重たい。

 解き慣れて来ていたはずの仕掛けに苦戦しながら、狼刀は頂上へと向かった。


 スカイドラゴンは最初に訪れた時と同じようにそこにいた。常にその場所にいるのか、誰かが来た時だけその場所にいるのか。ともかく、スカイドラゴンはいつものように浮いていた。

「秘宝を持ってきたか」

「ああ、重力の石だ」

 狼刀は黒々と輝く重力の石を突き出す。

「そのようじゃな。だが、汝に宝物はやれん」

 スカイドラゴンは空に舞い上がり、咆哮した。根源的な恐怖を引きずり出すような、重く心に響く咆哮。だが、狼刀は怯まない。

 唇を噛み、なんとかその場に踏み留まるのだ。

「なら実力行使だ。重力の石!」

 重力の石が黒さを増す。だが、黄金の竜は微動だにしなかった。

「重力の石! 重力の石! 重力の石!」

 狼刀が叫ぶ度に、石は黒さを増していく。黒く、黒く、どす黒く、石は黒さを増していく。

 それでも金色に輝く竜は微動だにしない。

「くそっ! どういうことだ!」

 狼刀はスカイドラゴンを睨みつけた。

「それが現実じゃ。諦めて去るがよい」

 スカイドラゴンは諭すように話しかける。

「くそっ!」

 重力の石を掲げ、竹刀を構える狼刀。少しでも落ちてくれば、竹刀を当てて、勝利なのに。その少しが果てしなく遠い。

 スカイドラゴンは見下ろすばかりで何もしようとはしなかった。

「降りてこい! スカイドラゴン!」

「それは儂の名か? 面白いことを考えよるのぅ」

 叫ぶ狼刀に対し、スカイドラゴンは笑い返す。

 その行動がかえって狼刀の怒りを買ってることに、スカイドラゴンは気がついていない様子だ。

 耐えきれなくなった狼刀は、竹刀を投げる。

 だが、竹刀はスカイドラゴンに届かずに、落ちた。

 狼刀は刀も取り出して、投擲する。が、それも届かない。届いたところで意味もない、ただの刀だが。

 最後に、その手に持った重力の石を放り投げる。

 それすらも、スカイドラゴンには何の影響も与えなかった。

 狼刀はそれきり動かなくなる。

「もう一度言う。諦めて去るがよい」

 スカイドラゴンが優しく問うが、狼刀は答えない。

「光ノ法」

 スカイドラゴンが呟いて、指を狼刀に向ける。

 その爪先から光が放たれて、狼刀の右膝を貫いた。狼刀は小さく呻き声を上げて、その場に崩れる。

 狼刀は全く動かなくなった。


 スカイドラゴンの手に持った金色の宝石の輝きは、少しだけ鈍くなっていた。しかし、狼刀はその事に気がつかない。

 考える気力さえ残っていなかった。

「手近な城まで届けてやろう。穢れた命よ。もう、大人しくしておるがよい」

 スカイドラゴンは、狼刀の投げ飛ばした道具――重力の石と竹刀以外――を拾ってふくろに入れる。

 金色の宝石から放たれた光で狼刀を包み込むと、空いている手で竹刀を浮かせた。重力の石は置いたままだ。


「ここで、よいじゃろう」

 デュース城には結界が張られている。

 それでも問題はないと判断して、スカイドラゴンは狼刀を降ろした。竹刀も手の届く場所に落としておく。

 傷は浅くはないが、動けないほどではないはずだ。動かないのは、動くつもりがないからだろう。

 放っておいても問題はないと考えて、スカイドラゴンは塔へと戻った。


 しばらくして狼刀は動き出す。

 動きたくなったというポジティブな理由でも、お腹が空いたというネガティブな理由でもない。動かないでいることにも疲れたというのが、一番近いだろうか。

 スカイドラゴンに撃ち抜かれた右足は上手く動かない。近くに転がっていた竹刀を使って、立ち上がる。なんとか、歩くことは可能だ。

 右足を引きずりながら、竹刀を杖のように使って、狼刀はデュース城へと入っていった。

「おやおや」

 黒い浄衣を纏った神官が狼刀を出迎える。

 その顔は、侵入者に驚いているというよりも、戸惑っているような表情だ。

「城には僕様の結界が張ってあるんですが……それよりも、あなたはどういう状態なんですかね?」

 問いかけの言葉もこれまでとは違う。

 まあ、満身創痍の人間が虚ろな表情のまま彷徨(さまよ)い歩いていれば、そんな問いかけをしたくもなるだろう。

「無視ですか。まあ、いいでしょう」

 狼刀は答えない。

「厄介そうな人は早めに始末するに限りますよ」

 クレバーは右手を掲げ、手の中に錫杖を出現させた。

(まも)りたまえ (たす)けたまえ ()(ほこ)となれ ()(たて)となれ ()魔力(まりょく)(かて)として (いま)ここに()されよ」

 詠唱の言葉が紡がれる。

 それを妨げるような元気は、今の狼刀にはない。

 二人の間に魔法陣が浮かび上がった。

召喚大魔法(ティグリジア)

 神官が錫杖を振り下ろすのと、魔法陣から緑色の魔物が現れる。

 全身をコケのような鱗に覆われた魔物だ。鋭い爪で床を踏み締め、牙を覗かせるフォルムはまさに獣。だが、狼刀を見つめるは眼光鋭い瞳ではなく、虫を連想させるような複眼だ。

「さあ、このクレバー様のために戦うのです」

「グルルルル!」

 召喚された魔物は、目の前にいた狼刀に襲いかかる。狼刀は抵抗することもなく、魔物に噛み殺された。

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