新たな仲間
第二十三話。初登場ではないよ。
太陽は傾き、夕刻となっていた。この世界における昼夜の感覚はよくわかっていないが、夜が来ると眠くなるのは変わらないらしい。
そんな時間になっても、狼刀はデュース城に戻っていなかった。
目の前にはたくさんの洞窟群――ケイトール洞窟がある一帯だ。急いでいけば夜中のうちにデュース城に辿り着けるかもしれない。
けれど、体力的にも、気力的にも、狼刀にとっては難しいことだった。
辿り着けるとしたら、近場。ケイトール洞窟の前にあるテントくらいだろう。
それを探して歩き回り、歩き回る。歩き回って、歩き回った。が、ケイトール洞窟は見つからない。
太陽は地平線の果てに消え、日が暮れた。
歩き疲れた狼刀は、一番近くにあった洞窟の入口にもたれかかる。
「お困りではありませんか?」
狼刀の前に提灯が現れた。
「私はディアス」
体よりも大きな白い法衣に身を包んだ女だ。法衣の袖から覗く腕は、少しでも力を入れれば折れてしまいそうなほどに細い。右手には提灯を持ち、肘には何も入ってなさそうな袋を下げている。
「旅の宿を営んでいます」
目にかかるくらいの深紅の髪が特徴な女だ。ただし、何よりも特徴的なのは耳だろう。普通の人よりも長く尖ったそれは、ファンタジー小説に登場するエルフを連想させる耳だった。
「眠るところがなくてお困りなのでしょう?」
ディアスが優しく手を差し伸べる。
「どういうことですか?」
狼刀はディアスの手を取って、立ち上がった。
「私はディアス。旅をしながら寝るところがない人に宿を提供して回っています」
ディアスの後ろには、大きな馬車がある。馬車を引くのは、翼の生えた白馬だ。エルフ風のディアスといい、なんともファンタジーらしい組み合わせだ。
「さあ、遠慮なさらずに、どうぞ」
ディアスに手を引かれて、狼刀は馬車の裏にやってくる。
外から見ただけでは気が付かなかったが、馬車の荷台はまるで旅館の一室のようなつくりになっていた。狼刀は勧められるまま荷台に入ると、布団の上に寝転んだ。
疲れていたために、狼刀はすぐに深い眠りへと落ちていった。
「……おやすみなさい」
人が近づいて来ても気づかないくらいに。
そして、夜が明けた。
「おはようございます。旅の宿・小妖精はいかがでしたか?」
朝日が昇ると同時に、ディアスは狼刀に声をかけた。
「ありがとうございます。助かりました」
狼刀は簡潔にお礼を述べると、馬車から降りる。
「またご利用ください」
立ち去っていく狼刀の背中を見送るディアス。彼女の右手の肘にかかっている袋には、何かが入っていた。
約半日をかけ、狼刀はデュース城に辿り着いた。彼を出迎えたのは大臣だ。結界は消えていないらしいが、城の入口で待っていたということは、狼刀を待っていたのだろう。
合流した二人は王の間に向かった。
「待っていたよ」
狼刀はサマルカンドにトレイス城の現状を報告し、彼からデュース城の現状を聞いた。
城は平和な空気に満ちている。が、何もなかったというわけではないらしい。一部の人にしか知らされてはいないが事件は起きていた。
昨夜、狼刀が寝ていたちょうどその頃。死体処理場の見張りが襲われる事件が起きたのだ。犯人は不明。見張りとの連絡を密にとっていたおかげでそれ以上の被害はなかったことが、不幸中の幸いといえるだろう。
もちろん神官の死体に異常がないことも確認されていた。
ひとまず、クレバーが蘇る騒動は免れたといえるだろう。
「邪神教の本拠地の場所を教えてもらえますか?」
一通り情報のすり合わせをしたところで、狼刀は本題を切り出した。
「我々のほうでも、インサイス山にあるということしかわかっていないんですよ」
「それだけで大丈夫です。地図を描いていただけますか?」
サマルカンドは頷き、大臣に耳打ちする。
「地理に詳しいものに書かせることにしましょう。他に何かありますか?」
「エース城にも状況を知らせたいので、お願いできますか?」
「わかった。使者を用意する」
サマルカンドの口調が変わったのは、大臣が部屋から出て行ったからだろう。
「といいたいところだが、それは無理だ」
「え? あ……」
結界が消えていなかったことを、狼刀は今更ながら思い出した。
「すまないな。役に立てなくて」
「いえ、大丈夫です。あとは自分でやりますので」
「わかった。だが、地図のこともある。動くのは明日にするといい」
何度か聞いたような言葉をサマルが口にする。
「……わかりました」
狼刀は小さく頷いた。
地図がもらえなければ進めない。その申し出を断る意味はないのだ。催促するという手もないわけではないが、そこまでしようとは考えなかった。
その選択が、新たな出会いを生むことになる。
地図をもらうために王の間に行った狼刀は、予想とは違う展開に巻き込まれることになった。
「結界が消えたというのは本当ですか?」
サマルカンドが嘘をついているとは思っていない。それでも狼刀は聞き返さずにはいられなかった。
「ああ、本当だよ。僕が君の見つけてきた秘宝をもとに創ったこの魔法器でね」
答えたのはサマルカンドではなくカイだ。
「控えたまえ、学者」
大臣がカイをにらみつける。
カイは肩を竦めて一歩下がった。
「英雄殿も、王の言葉を疑うような真似はやめていただきたい」
大臣は鋭い視線を狼刀に向ける。
「落ち着くんだ」
「申し訳ありません」
大臣はサマルカンドに頭を下げて、視線を和らげた。
現在、王の間には六人の人がいる。
玉座に座る青い長髪と白い肌が特徴の王。
玉座の右側に立つ青いヴェールで顔を隠した王妃。
その右側に立つ白い帽子を目深にかぶった学者。
玉座の左側に立ち空色の髪で緑の服を着た大臣。
その左側に立ち鉄の杖を持つ青緑色の髪をした青年。
そして、王と向かい合って立つ狼刀だ。
「エース城へ使者は出しました。あなたは邪神教の討伐に集中してください」
サマルカンドは場が落ち着いたことを確認すると、話を再開した。
「それから、このハーティルをお供に連れて行っていただけませんか?」
青緑色の髪をした青年が狼刀の前まで歩み出る。
「お初にお目にかかります。僕はハーティルです」
「結城狼刀だ。初めまして」
にこやかに笑いかけてくるハーティルに対して、狼刀も笑顔で対応した。狼刀にとっては初めましてでもないのだが、僅かな邂逅は記憶に残るほどのものではなかったらしい。
「よろしく。ロウトくん」
「ああ、よろしく」
狼刀は差し出された手を軽く握る。握手の文化はこの世界にもあるようだ。
てってけてー
デュース城の神官、ハーティルが仲間になった。
所持アイテムは聖浄衣《赤》、聖錫杖、清水。
「それから、どこかで王子に会ったら、生きて戻ってくるようにお伝えください」
王が深々と頭を下げる。
「わかりました」
狼刀とハーティルはそれぞれ激励の言葉をもらって、王の間を後にした。




