生き残るために
第五話。打倒神官を目指して。
「くそっ……誰か! 腕に覚えのあるもの」
「誰でもいいんだ。誰か」
「城にあの人より強い人なんて……」
「強い人、強い人、強い……」
城の大広間のような場所をせわしなく行き交う人々。四方八方から聞こえてくる慌てたような蝉騒も変わりない。
「そこの旅の者」
声をかけられる流れも、変わらなかった。
「突然、すまない」
声の主は兵士長リヴァルである。筋肉質で屈強な肉体を持ちながらも、腰には剣を携えた大男。重たい戦斧を軽々と持ち上げていたことから、相当な力を持っていると思われる。
「私は兵士長リヴァル。腕に覚えがあるなら、この城を守るために協力してほしい」
「わかりました。何をすればいいですか?」
狼刀は即答した。一つだけの解決策を見出して。
「おお、ありがたい。では、王の間へ」
リヴァルと共に、狼刀は王の間へと向かった。
「お待ちくだされ」
振り下ろされていた錫杖は、王の頭のすぐ横に突き刺ささていた。何度繰り返してもギリギリの光景である。
リヴァルの後ろにいる狼刀には見えていなかったが。
「約束の御仁をお連れした」
リヴァルが横へ移動すると、狼刀の視界に倒れた王が映るのだ。
「なぁんかのぉ間違いだぁろぉ? こぉんな奴がぁ最強?」
ブラストは乱暴に錫杖を引き抜くと、錫杖を狼刀に向けて言い放つ。
「怪我じゃぁすまないぜぇ? おうちにぃ帰んなぁ」
「剣を貸してもらえますか?」
狼刀はブラストを無視し兵士長へと声をかけた。
「無視してんじゃぁねぇよ!」
思わず叫ぶブラスト。
狼刀はリヴァルから剣を受け取ると、重さを確認するように軽く振る。リヴァルの持ち物だからという不安はあったが、特別重いということはない。
「俺は結城狼刀。かかってこいよ、兄ちゃん」
狼刀は挑発するように笑う。
「あぁ? いいぃ度胸じゃぁねぇかぁ!」
言うが早いか、ブラストは錫杖をバットのように振りかぶった。
「減速魔法」
魔法を伴っての薙ぎ払いを、狼刀は剣で受け止める。ブラストは押し切らんと力を込めた。狼刀は錫杖を滑らせるように受け流し、ブラストの体勢を崩す。
「そこだっ!」
「ちぃ!」
斬撃はブラストの腕を掠めるだけに留まった。
ブラストは逃げるように距離をとり、傷口から滴る血を舐める。その顔は苦痛ではなく、愉悦に歪んでいた。
「いってぇなぁ。だぁが、次ぁこうはいかねぇぜ!」
錫杖を突き出して、魔法を発動。
「減速魔法」
助走をつけて高く跳び上がると、落下の勢いを活かして錫杖を振り下ろす。
狼刀は柄と刀の背を持って、その一撃を受け止めた。重たい一撃だ。だが、防がれたあとは大きな隙ができる。
狼刀は錫杖の下を滑らせるようにして、剣で腹部を斬り裂いた。
「て、てめぇ。やぁじゃぁねぇか……」
ブラストは腹部を押さえながら、錫杖を狼刀に向けてくる。瞳に宿る闘志の色は未だ健在。
だが傷は決して浅くない。
「くっ、そがぁ……」
ブラストは前のめりに崩れ落ちた。
ブラストが倒れた。まだ呼吸はしているが、腹部からは血が出し続けているし、息絶えるのも時間の問題だろう。
狼刀の勝利は誰の目にも明らかだった。
「すげーよ、兄ちゃん!」
「ありがとう、この城を救ってくれて」
「ちっ……」
「感謝しますぞ」
「悔しいけど、さすがだよ」
「近衛兵長の仇を取ってくれてありがとう」
兵士達から賛美の声が浴びせられる。賛美以外もあるが、気にする人はいなかった。
「旅のお方よ」
リヴァルに付き添われながら、王が狼刀のもとへやってくる。歓声を上げていた兵士達も一瞬で沈黙した。
「この城を救ってくださったこと。心より感謝しますぞ」
「近衛兵長を失ったのは痛手ですが、あなたのおかげで王が救われたことに感謝を申し上げます」
王が頭を下げる。寄り添うリヴァルは、お礼を述べると、倒れるブラストに視線を移した。
「しかし、甘いですね」
リヴァルは、狼刀から剣を返してもらうと、倒れるブラストの背中へと突き立てる。ブラストはうめき声をあげ、ピクリとも動かなくなった。
「この勝利を祝い、今宵は宴を開きます。ぜひ、旅のお方も御参加ください」
「……わかりました」
狼刀は王からの誘いを了承すると、足早に王の間を後にする。誰も止めようとはしなかった。




