新展開
第十四話。新たな仲間に出会える予感。
火の町アレスコ。魔王配下の魔物によって支配されており、脱出不可能となっている町だ。
とはいえ、他の町のようにいきなり襲われることはない。狼刀は鍛冶屋てっちゃんへと向かった。
魔封石の加工を依頼しにきたのである。
これを使い杖を強化する――作り変えるというほうが正しいかもしれない――ことで、天軍師への対抗策になりゆると判断したからだ。
このためにドルフィンを連れ歩いたといっても過言ではない。
「兄ちゃん。杖、持ってるかい?」
鍛冶屋の旦那――テッチリさんがそう言った。
「連れが持ってる」
「なら杖を出しな、小娘。杖がないと加工できねんだよ」
鍛冶屋の姉御――テッカさんがそう補足した。
「わかったわ」
そういうと、ドルフィンは旱の杖を差し出した。
「なんだいこりゃ。見たことのない宝石だが」
テッチリが宝石を見ながら、首を傾げる。
ドルフィンは勝ち誇ったような顔で、格好良くポーズを取った。
「それは、我が天空民の秘宝にして、魔王を倒すための最終兵器よ」
テッカも宝石に興味がわいたようで、テッチリと並んで、観察を始めた。
ところで、ドルフィンってこんなこというキャラだっけ? というか、魔王を倒すための最終兵器というは初耳である。
狼刀はそう思ったが、口に出したのは別の言葉だった。
「元の効力を失わせずに、明日の朝までに加工できますか?」
狼刀は無理を承知ながら、難易度の高い要求をする。無理難題をふっかけて、その後に難題を要求するのは交渉の基本術だ。
「鍛冶屋の意地にかけて。やって見せるぜ、兄ちゃん」
「ああ、あたしらに任せておきな。一晩で完成させてやるさ」
鍛冶屋親子は自信満々に答えた。
「え、あ、はい。お願いします」
面食らったのは狼刀だ。慌てたように頭を下げて、二人に杖の加工を依頼する。ドルフィンはパタパタと飛びながら、その様子を眺めていた。
その後、情報収集を行うと四つ――ではなく五つのことがわかった。
一つ、火の町アレスコ。ここを支配する魔王軍の幹部は、天軍師を名乗る呪術に長けた魔物だということ。
二つ、天軍師というのは、屋敷に住んでいた人の愛称であり、魔物が勝手に使っているだけということ。
三つ、町の住人は基本的に行動は制限されておらず、反乱を起こすことすら容認されていること。
四つ、この町にある唯一の絶対規則は不出。一度入ったものは決して出ることが許されないということ。
五つ、この町を支配する魔物は人間の姿をしているが、太陽の手鏡という道具を使うことで本当の姿が現れるということ。
五つ目の情報を得られたのは大きい。前回は得られなかった――前回は情報収集していないので、正しく言うなら前々回――情報だからだ。
といっても、持っていないアイテムであり、外にも出られない以上、今回は役に立たないが。
宿屋ではドルフィンの希望もあり、別々の部屋で泊まった。そのため、早朝に目を覚ました狼刀は、一人で、鍛冶屋てっちゃんに向かうことにした。
「おう。来たな、兄ちゃん」
狼刀を出迎えたのは、鍛冶屋の親父――テッチリだ。テッカは静かに寝息を立てていた。
「杖はどうでしたか」
狼刀が尋ねると、テッチリはニカッと笑う。
「バッチリよ」
差し出された杖には、新たに青い宝石が埋め込まれていた。無理矢理という感じではない。元からそうだっかのように、調和がとれていた。
「ありがとうございます」
「報酬は、この町の平和で頼むぜ。兄ちゃん、嬢ちゃん」
「はい! ……え?」
勢いよく頷いた狼刀だったが、テッチリの台詞を思い出し、首を傾げる。だが、幸いにも答えはすぐに提示された。
「……ロート」
真後ろから聞こえた声は、宿屋で寝ているはずのドルフィンのものだ。
「ど、ドルフィン?」
「なんで置いてくのよ!」
「わ、悪い」
その後。ドルフィンが文句を言い、狼刀が言い訳をするという光景が、鍛冶屋の前でしばし繰り広げられた。
最終的にはテッチリの「テッカが起きちまうだろ!」という一言で、狼刀とドルフィンが脱兎のごとく逃げ出し、落ち着くこととなる。
かくして。一悶着はあったものの、二人は天軍師の屋敷の前へとやって来た。
「待つであります」
そこへ声をかける青年が一人。前回来たときはいなかったが、今回は有益な情報をもたらした人物である。
「あんた何よ」
ドルフィンは軽く飛び、青年を見下ろす。
「僕はべリムト。サンライト城の神官であります」
宝石のような緑色の瞳に、短く整えられた銀髪。神官の名に相応しい浄衣を身に纏いながらも、べリムトは敬礼で答えた。
サンライト城。初めて聞く名前だが、あの廃城の名前だろうか。城をひとつしか知らない狼刀がそう考えるのは、自然の流れだった。
「姫を探してこの町に来たまではいいのでありますが、閉じ込められてしまい困っていたのであります」
姫――洞窟にいたあの少女のことだろう。
狼刀は心の中で、次の目的地を定めた。とはいえ、いまは目の前の敵をどうにかするのが、先だ。
「目的地は同じ。僕も連れて行って欲しいのであります」
「わかった。一緒に行こう」
狼刀はべリムトの提案を快諾した。
てってけてー
サンライト城の神官、べリムトが仲間になった。
所持アイテム、聖浄衣《緑》、裁きの杖、制裁の腕輪、清水。
裁きに制裁。必死にキャラ立てようとしてるなぁ。と狼刀は思った――かもしれない。