立ち塞がる敵
第八十七話。新たな敵が
「……お待ち願えますか」
城の手前で、明らかに出会いたくなかった集団と出会した。
先頭に立つのはフードを目深にかぶった神官。見た目という点では、前回の砦でスペーディアと戦っていた神官と似ている。
だが、横に全身鎧の神官は居ないし、後ろの神官達も砦の時と比べると、人数は少ないように感じられた。
「……これ以上先には行かないほうがよろしいかと」
フードの神官が淡々と告げる。
「何故かしら?」
それにスペーディアが反応した。腰に携えた金色の鞘に手を添え、神官を睨みつける。
「……理由は言えませんね」
「それなら、信じられませんわね」
「……では」
神官は後ろに飛び退いて、十本の錫杖を出現させた。錫杖は神官を囲むように飛び回り、そのうちの二本が神官の両手に収まった。
「……力ずくで止めますね!」
「させませんわ!」
神官とスペーディアがぶつかり合う。
スペーディアは鞘からレイピア――トレイスの秘剣を抜き出し、錫杖を受け止め、切り落とした。
神官は背後に控えていた錫杖を手に取り、構える。
狼刀はそれ以上二人の戦いを見ることは出来なかった。
「全員かよ……」
他の神官達が向かってきたのだ。狼刀はため息を零しつつも、竹刀と刀を構える。
手間はかかれど負けることは無い。
狼刀は自信に満ちた表情で神官たちを迎え撃った。
もちろん、殺しはしない。
竹刀は本気で振り、刀は武器を狙ったり、足を狙ったりと死なない程度に振り回す。相手や場所が変わろうとも、その作業に狂いはなかった。
けれど、残った数人がどうしても無力化出来ない。
「どうなってんだよ……」
武器を破壊しようとも破片を持ち、竹刀を叩き込もうとも平然と立ち上がる神官達。明らかに他の神官とは異なるその数人を倒すことが、狼刀には出来なかった。
「……せいっ」
「くっ……」
筋肉質な神官が放つ強力な右ストレート。狼刀は竹刀で受け止めるが、勢いに負けて後退る。
「……やあっ」
そのタイミングを狙って、別の神官がジャックナイフとかした錫杖を振り下ろす。気合いの入っていない声とは裏腹に、力強い一撃だ。
狼刀は後ろに飛ぶことで、その攻撃を回避した。
「……とぅっ」
その動きさえ、読まれている。
着地した位置に、着地したタイミングで剣を振り下ろされてはそう判断するしかないだろう。
狼刀はちぎれんばかりに体を捻り、刀で受け止めた。
止めること出来たが、勢いまでは防げない。
体勢を崩された狼刀は、転がるようにして距離をとった。
追撃はない。
けれど、狼刀は動けなかった。
不屈の神官達のその奥に、敵の影を見たために。
一瞬だけ空間が歪み、新たな神官の一団が姿を現す。その先頭に立つ神官は、実に神官らしからぬ格好をしていた。
見覚えがある。
ただし、名前は知らない。
「はじめまして。勇者に王女様」
声を聞いて、確信した。
砦で戦い、敗北したあの神官だ。
「加勢させてもらいます」
言いながら神官は走り出し、体当たり。
「くっ……」
狼刀は大きく後ろに飛ばされた。
「まだだ」
神官は一瞬で狼刀との距離を詰め、両手を合わせて振り下ろす。
前回と全く同じ攻撃パターン。つまり、前回と同じようにかわせば同じように追撃を食らう。そこまでのことを判断する余裕が、狼刀にはなかった。
「くっ」
狼刀は後ろに転がって振り下ろしを回避。神官は腕を起点にして頭突き。避けられなかった狼刀は後方へと飛ばされる。
そして、ここにはさらなる追撃を仕掛けてくる敵がいた。
「……やあっ」
仰向けに倒れる狼刀にむかって、別の神官が半分以下の長さとなった錫杖を振り下ろす。
飛ばされた時に武器を取り落とした狼刀に防ぐすべはない。
己の肉体を除いては。
「……なっ」
狼刀は左手を前に突き出して錫杖を受け止めた。神官もその動きは予測していなかったのか、一瞬だけ動きが止まった。狼刀はその隙を逃さず、神官から手に刺さったままの錫杖を奪い取る。
そんな僅かな攻防のあいだに、鎧の神官は攻撃の準備を終えていた。
「終わりです」
神官が離れた瞬間に、拳を振り下ろす。
事前に気がついていなければ避けられないタイミング。いや、事前に気づいたとしても避けられないタイミングだろう。
振り下ろされてから気がついた狼刀に避ける暇はない。だが、より早く気づけて、動ける人なら話は違う。
「させませんわ!」
スペーディアが裂帛と共に神官の拳へ鋭い突きを放つ。神官は素早い動きで、手を引っ込めた。
そのまま立ち塞がるスペーディアから逃げるように、距離をとる。
狼刀は立ち上がって、新たな刀を構えた。
「どういたします?」
スペーディアは細剣を構えながら、狼刀の横に並んだ。そんな二人を囲むように、神官達が円を成す。
その中心には、鎧の神官。
「大人しく降伏してもらえませんかね?」
「しませんわ!」
その問いかけを、スペーディアが即座に否定する。
声には出さなかったが、狼刀も同じ気持ちだ。
相手もその事を理解したのか、鉄の拳を握りしめる。
「残念ですね」
ため息をついて、飛び出した。狙いは狼刀――ではなくスペーディア。距離を詰め、顎を目掛けて拳を振り上げる。
スペーディアは振り上げられた拳をバックステップで回避し、鎧を掠めるような角度で突きを放つ。
「クラウディオ!」
「……リョーカイです」
円形に並ぶ神官の中から一人が飛び出した。同時に、鎧の神官は後ろに飛んでスペーディアの突きを躱す。
「くっ……」
突きを放った直後のスペーディアは、背後から迫る神官への対応が間に合わない。その攻撃を受け止められるのは、狼刀だ。
「……やりますね」
神官――クラウディオは防がれた錫杖に力を込めたまま、反対の手に持った錫杖を突き出す。
「はっ!」
狼刀は相打ち覚悟で神官に体当たり。錫杖は脇腹を抉り、二人は縺れるようにして倒れ込んだ。




