決断
第八十五話。大事なことは二度でもいいたい
「遅くなりました」
噂をすればなんとやら。
勢いよく扉を開けて入ってきたのは、真っ赤な燕尾服に身を包んだハーティルだ。見た目から考えて、クバウトから奪った服を染めたのだろう。
「構わん」
「さあ、座ってください? 会談を始めますよ?」
ローレンスが静かに答え、ミソロギが着席を促す。ハーティルは会釈をしてから、狼刀の右隣の席に座った。
「まずは自己紹介ですかね?」
ミソロギの提案で自己紹介が始まる。狼刀にとっては概ね確認となる作業だったが、目新しい情報がなかったわけではない。
一つは、クエラヴォスが兵士団の所属になったこと。
もう一つは、アルバトロスという兵士についてだ。
前線に出向いたセイントに代わり兵士団の指揮を執っていたらしいが、狼刀は見覚えがなかった。
スペーディアの自己紹介には、皆がどよめいたが、狼刀としては驚くべきことではない。彼女を元の姿に戻したのは、他ならぬ狼刀なのだ。
一通り自己紹介が終わったころで、ミソロギが口を開く。
「では、まずはすでに決まったことからですね?」
その視線を受けて、ハーティルが立ち上がった。
「はい。王族を失った我々デュース城の人間は、エース城に居を移すことになりました。それに伴う場所の確保として、デュース城は解体。一部を監獄都市として残すこととなりました」
続けてスペーディアが立ち上がる。
「トレイス城も、生存者の捜索を行った後、解体される運びとなります」
二人の発言に、狼刀は言葉を失った。
前回とは違う流れだ。
デュース城の人々がエース城に移住することは変わらないが、前は捕らえられていた神官達も同様だった。だが今回は、捕らえられいる神官は監獄都市となるデュース城に残るということだ。
なぜ変わったのか、狼刀にはわからなかった。
「ありがとうごさいます? では、次は襲撃者の確認ですね?」
「それは私の方から」
ミソロギに促されて、セイントが立ち上がる。
「ロウト殿と捕らえた神官からの情報。ならびにカイが残していった情報などから、今回の襲撃を指揮していたのは、天の神官アンジュ、だと考えられます」
そこでセイントは一旦言葉を区切り、皆の様子を伺った。誰からも言葉が出てこなかったため、セイントは続ける。
「ただ、アンジュ自身は襲撃には加わっておらず、彼の部下が襲撃者であると考えております」
そこでセイントは、似顔絵と名前の書かれた三枚の紙を差し出した。
「獣使いステイマー。双剣使いザルク。雷使いフォルゴレ。そして、ステイマーの使役する魔物達。これらが今回の襲撃に関わっていたと思われています」
セイントは自分を落ち着けるように深呼吸をしてから、次の話題を切り出す。
「それから、デュース城の裏切り者について」
集まっていたメンバーの視線がハーティルとクエラヴォスのほうに集まった。その視線が自分に戻ってきたことを確認してから、セイントは続ける。
「王、王妃、大臣の三人はすでに殺されており、死体を操る魔法機、もしくは他人の姿を模倣する敵によって成り代わられていた可能性が高いと思われます」
そこでセイントは新たに一枚の紙を取り出した。
「その主犯と思われるのがカイ。彼については、正直、謎だらけです。デュース城にいたお二人もあまり知らないようで、今のところ手がかりはありません」
「俺が来たときには、すでにいましたからね」
「同じく」
ハーティルがため息混じりに呟き、クエラヴォスも同意を示す。
というか、この二人はデュース城の出身じゃないのか。と、少しズレたところが気になる狼刀だった。
「カイについては後々調査していきます」
セイントがそう締めくくり、カイの話は終わり。話題はいよいよ襲撃の顛末だ。
「ザルクは私が殺しました。情報を聞き出すために生け捕りにという使命は果たせず、無念です」
セイントは拳を握りしめ、悔しげな表情を浮かべる。だが、自爆によって道連れにされなかっただけでも、良かったと考えるべきだろう。
「フォルゴレは我々ガ、殺した」
ボスは事実だけを端的に語る。彼の実力なら生け捕りも可能だろうが、そもそも協力関係ではない。
彼がいなければ狼刀は助からなかったということからも、これ以上を望むのは不可能だろう。
「ステイマーと魔物達は我ら兵士団が打ち倒しましたぞ」
アルバトロスは少し誇らしげに宣言する。
ステイマーが兵士団にやられたという部分だけは疑問が残る狼刀だったが、皆が納得している以上掘り下げる気にはなれなかった。
少なくとも、襲撃犯を退けたことは事実だ。
数対数という点では、獣達もそこまで強かったわけではないのかもしれない。
「あの、質問いいですか?」
それでも、一つだけ確認しておきたいことがあった。
「大丈夫ですよ?」
狼刀の挙手に素早く反応したのはミソロギだ。他の面々は不思議そうな顔で狼刀の方を見ていた。
この世界には挙手をしてから発言するという文化はないのだろうか。
と、不意に生じた疑問は置いといて。
「ステイマーを倒したのは、兵士団のどなたですか?」
彼女はハーティルでさえ手に余る強敵だったはずだ。そんなに強い兵士がいた記憶は――スクラヴォスとイソリは来ていなかった――狼刀にはない。
「む? たしか、ウオトラだったと思うが」
聞いたことのない名前だった。
「ありがとうございます」
あとで話を聞いてみよう。
狼刀は頭を下げながらそんな風に考えていた。
「他に質問のある人はいるかな?」
ミソロギが全体を見渡したが、発言するものはいない。その様子から次に進んでも問題ないと判断。
ミソロギは黒板の前に移動した。
「それなら? 時系列を整理したいから、皆さんの動きを詳しく教えてもらえるかな?」
ローレンス以外の視線がミソロギに集まる。
ただ一人、黒板から最も近い場所に座っていたローレンスは、振り向かない。
襲撃とは関係がないから――ではない。
簡易玉座が大きすぎて、振り返ることが出来なかったのだ。
「……申し訳ありません?」
遅まきながらそのことに気がついたミソロギとセイントによって、簡易玉座が反転させられた。
「すまぬな」
苦笑いを浮かべながらもローレンスは簡易玉座へと座り直す。
ミソロギがいそいそと黒板の前へ戻っていき、会談は再開された。
その話を聞いて、狼刀は重要な決断をした。




