雷獣
第八十話。雷を纏いし獣
城に潜入するのは、ステイマーとザルクの役目だ。フォルゴレはただ座して待つ。侵入するための扉をステイマーが開くのを。
「……時間か」
暗闇に一筋の光明が指す。
フォルゴレは光に導かれるままに外に出た。その後にフォーリアの群れが続く。
「来ましたね」
敵は眼の前にいた。
「ここは通しませんよ」
敵は両手で剣を構える。
「まかり通る」
フォルゴレは右手に持った剣から雷を迸らせた。それを合図に、フォーリア達が散らばる。敵の相手は一人で十分だというフォルゴレの意思を理解したのだろう。
「俺はフォルゴレ。神官ゆえに家名はない」
フォルゴレは名乗りをあげてから、一歩踏み出す。
「自分はクエラヴォス。あなたと同様に家名はありません」
「そうかい」
名乗りはしたが、相手の名前に興味はない。
雷を足から放出して、宙を翔るように側面に回り込んだ。見る暇さえ与えはしない。
「なっ……」
死角から放ったはずの一撃を、敵は振り向くことなく、受け止めた。受け止めて、弾き返す。
なんとも余裕のある動きだ。
フォルゴレは空中で体勢を整えると、宙を蹴って再接近した。真上から全体重を乗せて、斬り落とす。
それさえも敵は受け止め、弾き返した。
「くそっ」
フォルゴレはなおも攻撃を繰り返すが、敵はその一切に対応してみせる。
「どうやって反応している?」
全て死角をついての攻撃だ。それを見ずに受け止めることなど、ありえない。
「そういう力ですので」
「ふざけた力ですね」
フォルゴレは必要分の雷を足に纏わせ、残りの雷を剣に凝縮させた。さらに、その力を鋭く鋒に集め、動く。
目で追うことは不可能。貫通力を極限まで高めた一撃は、防御したとしても防げない。
「ほんとに、ふざけた力ですよ」
敵は振り返ることなく、突きを回避した。
「は……?」
渾身の力を込めた一撃をかわされ、無防備になった背中を敵が斬りつける。
フォルゴレにそれを回避する術はなかった。
傷は浅くない。
だが、それ以上に弱そうな相手に傷をつけられたことが気に入らなかった。
「流石に効いたぜ」
フォルゴレはうっすらと笑みを浮かべつつも、怒りを帯びた声を出す。
「今度はこっちから行くぜ!」
感情の昂りに伴って、全身から雷が迸った。
上半身が膨張し、さらに筋肉質で巨大になり、ローブが弾け飛ぶ。腕と脚は太さだけでなく、長さも伸びた。
敵が小さくなっていく。
背中の傷は気にならなくなった。
目の前にいるのは、敵ではなくただの獲物だ。
「シャァッ!」
握り拳に雷の爪を顕現させて、フォルゴレは飛びかかる。
身体は大きくなったが、素早さは落ちていない。むしろ、操れる雷の総量が増えたことで、普段よりも速いくらいだった。
獲物はそれでも対応して剣で受けようとするが、実体を持たない雷爪は防げない。
「やばっ」
体を固くして、体を反らすことで致命傷は避けた。だが、肩から腰にかけて引き裂いた傷は決して小さくはない。
「次で仕留めてやるぜ」
フォルゴレは威嚇するように、全身から雷を迸らせた。
その雷を、片手に集める。
爪状にする必要はない。握り拳一発で十分だ。
「雷鳴一拳」
「防盾魔法」
雷の拳は、魔法の盾によって止められた。
「あァ?」
それも獲物ではなく、新たに現れた別の敵だ。その敵が、右手に展開した魔法の盾で拳を受け止めている。
「防砦魔法・監獄」
敵は後ろに引くと、新たな魔法でフォルゴレを包み込んだ。
「回復魔法」
さらに、傷を負った獲物を癒す。
「このっ!」
フォルゴレは魔法を殴りつけるが、ビクともしなかった。
「大丈夫か? クエラ」
「僕の名前はクエラヴォスです。ハーティルさん」
獲物達はフォルゴレを気にする様子もなく、会話を続ける。その態度が気に入らなくて、苛立ちを魔法にぶつけるが、壊れない。
さらに、二本の武器を構えた敵が現れた。
「クソがァ!」
フォルゴレは全方位に向けて、雷を放つ。
魔法は壊れない。わかったのは、緻密な魔力操作により脆い部分がないということだけだ。
「本当に出来るのかい?」
「あぁ、大丈夫だ」
二刀流の敵が、フォルゴレに不敵な笑みを向ける。
「行くぞ!」
「開通」
敵が魔法を変形させた。
フォルゴレと二刀流の敵を繋ぐように、真っ直ぐに道を作り出す。
「グァ!」
変形した魔法がフォルゴレを捕らえた。
何かをするつもりなのだろうが、それは悪手だ。完成した魔法を変形させることは、構造に歪みを生み出す。
「今だ! 長くは持たないぞ!」
「了解」
フォルゴレは静かに、両手に雷を集めた。
二刀流の敵が走りながら木刀を向けてくる。だが、動けなくては避けられない。木刀は魔法を砕き、フォルゴレの胴体に届いた。
それだけだ。
「魔物じゃないのかっ!」
叫ぶ敵に向かって、フォルゴレは合わせた拳を振り下ろした。
「雷鳴合拳!」
「防御魔法!」
敵は受け身も取れぬまま、床に沈んだ。
だが、奥の獲物が余分な魔法を使ったため、死んではない。
フォルゴレはトドメを刺すように、拳を振り上げ、
「防砦――」
「ぅらァ!」
魔法で補助をしようした敵に肉薄し、拳を叩き込む。敵は床を跳ねながら転がっていき、壁に埋まった。
残ったのは防御に優れた獲物だ。
だが、実態を持たない攻撃は防げないことはわかっている。あとは、いかにして回避させないか。
「ウルァ!」
フォルゴレは全身から雷を迸らさせた。
防げない攻撃を一斉に、圧倒的な質量で放つ。
「く、そっ……」
程なく決着はついた。
獲物が床に倒れる。
勝負には勝った。だが――
「ぐ、アァァ!」
フォルゴレ雄叫びをあげる。
力を解放したその体を満たすのは破壊衝動。
与えられた仕事など、すでに忘れ去っていた。
「砕け!」
手当り次第に雷を撒き散らし、雷を纏った拳で階段を砕き割る。目の前にある障害物を破壊しながら、フォルゴレは進んだ。
「質問をしたいのだガ、よろしいかね?」
新たな障害物が現れようとも関係ない。
流れるような動作で、雷を纏った拳を突き出した。
障害物はその拳をきっちりと受け止める。
「あぁ?」
「敵対行為だと判断するガ、よろしいかね?」
虫のような仮面をつけた障害物は、拳を受け止めた手に力を入れた。だが、今のフォルゴレにとってそんなことはどうでもいい。
「くたばれ! 雷鳴一拳」
空いていた方の拳で顔面を撃ち抜く。
少なくともそのつもりで放った一撃だ。
「殺す予定ではなかったガ、仕方ない」
それを障害物は余裕を持って躱していた。
障害物は、フォルゴレの腹部に手を添える。
「爆露」
体内の魔力が暴走し、フォルゴレは内部から弾けた。




