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舞い踊り散る桜  作者: 紅夜 真斗
十三章
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鷹心(3) 警戒する鳥

 種宿村は蓬莱町から半日程北西に歩いた先で、小さな山の袂にある村だった。

 此処から律心殿の住処までは半刻程度といったところか。

 山の反対側の景色は、なだらかな道と田畑が続いてるばかりだ。

 記憶にある地図に間違いなければ、あの山が葵山(あおいやま)のはず。

 天険蓬莱山に似通った形を持つ山は、蓬莱山の子山として神代の七色に由来する名を付けられてる。

 だが、それで神聖視されていたのは随分古い話で、今は少しずつ開拓の手が入ってるはずだ。

「ここのつみねの やまこえて」

「あなたと わたし てをつなぐ」

 子供の舌足らずな歌声が後ろから近づいてくる。女の子の歌声に耳の奥で灯里が歌う声が聞こえて来る気がして、思わず足が緩む。

 振り返れば、遊んでいた帰りか、弟の手を引いて大きく歩いてくる。

「ねえちゃん、まってぇ」

「ほら、早く帰ろうっ」

 歩き疲れているのか、弟の足がよたよたと縺れていて、それを姉が掴んだままの手を引っ張り先を促す。

 その強く見える仕草が久弥とアキのようにも見えるな。

「すまない。そこの二人に道を訪ねても良いか?」

 帰りを急ぐ幼い二人に、オレは声をかけ、律心殿に頼まれた相手のはるさんがこの村にいるかを確かめた。

「はる? そんな人居たかな?」

 姉の方はやはりしっかりしていて、オレの問い掛けに考えるように首を捻った。

 相当、野山で遊んでいたのだろう、二人とも着ている物も顔も泥で汚れていた。

「村に行けば直ぐに分かると伺ったのだが。それなら村長むらおさの家を代わりに訪ねても良いか?」

「村長さまなら、あっちの大きな柿の木のそばの家だよ」

「すぐわかるよ」

 村長ならはるさんの所在も知っているだろうと思い、質問を変えれば、こちらには元気の良い答えが返って来た。

「ねえ、鳥さんいるの?」

 弟の方が、オレが手にしていた鳥篭に興味惹かれたらしく声を弾ませて問い掛けてくる。

 長い時間鳥篭に入れて歩くからと、鳥篭には風呂敷で目隠しをしているから子供たちにはどんな鳥が入っているかは分からない。

「食べるの?」

 弟の、小さな子供らしい問い掛けではある。だが、中にいた珀慧には不穏な気配でも伝わったのか珍しく鳥篭の中で暴れ始めた。

「中にいるのは鷹だ。食べる鳥ではないな」

「食べないならちょうだい!」

「こらっ! あ、あの、ごめんなさいっ。もう、行きますね!」

 弟の一言に呆気に取られたが、姉も姉で、注意するために叩いたせいで弟の背が大きく鳴り、その痛みで大泣きし始めた。

「あ、あのッ! 用が終わったら、町に行っちゃったほうが良いですからっ」

 大泣きする弟を引っ張り歩き、少し離れた所で姉の方が振り返って、途切れ途切れの大声で言う。

 正直、向こうの弟の泣く声と珀慧の威嚇の声で上手く聞き取れなかった。

 とりあえず気を取り直して、姉弟に聞いた通りに大きな柿の木を目指して歩き始めた。

 珀慧もオレが歩き出したことで、威嚇の声を漸く鎮めたらしい。

 本当に、よくよくと人の言葉を理解するな。珀慧は……

 感心半分で、風呂敷の隙間から珀慧の様子を伺えば、かつて聞いた事のない程の大声で叫ばれた。

「なんだ、何をそんなに怒っている?」

 鳥籠を覆う目隠しを外してやれば、此処ぞとばかりに蹴ってくるし、いつもの珀慧らしからぬ行動が多い。

 この様子だと機嫌を取ろうと、蓋を開ければ逃げる。そんな事だけがはっきりと頭の中に浮かんでいた。

「もし、其処のお方。何かお困り事でもございますか?」

 背後から躊躇いがちに声を掛けられ、振り返れば五六人の大人が遠巻きに眺め、その代表としてか腰を曲げた老人が一人、杖をついて問い掛けてきた。

 用心でか、厳つい体躯の男が老人から数歩下がった位置に出ても来た。

 かなり警戒されているらしいな。

「お騒がせして申し訳ありません。オレは后守の鷹匠で、冬臥と申します。蓬莱町から戻る途中、こちらの村にいらっしゃる、はると言う方を訪ねに参りました」

 珀慧の鳴声に掻き消されまいと大声で名乗り、一瞬、律心殿の名前を出そうかと思ったが、疑いと忌避感の視線を向けられていたのに気が付き、止めた。

 こういう小さな村では外部の来訪者を喜ばない処もある。此処もその典型だろう。

 ちらりと珀慧の様子を見れば、先程とは打って変わり籠の端に身を寄せて威嚇しながらも、小さく小さくなろうと身を縮めている。

  何だ、何を感じて珀慧は此処まで恐れているのだ。

「すみません。先に鷹を落ち着かせしまうので」

 警戒心は村人からも、珀慧からも感じ取れる。何かが、引っ掛かっているがその正体が掴めない。

 鳥籠を再び包み込み、風呂敷のよれを綺麗に均しておく。

 珀慧の鳴声が厚手の風呂敷によって僅かに遮られるが、騒ぐままだった。

「して、はると言う人をお探しと? 生憎ではございますが、この村には、はると言う女は居りません」

 腰を曲げた老人が更にオレの前に近づいてきたとき、暗闇となって落ち着いたのか珀慧の声が遮ることは無かった。

「そんなはずは。此処は種宿村ですよね」

「ええ。その通りで御座います」

「オレは種宿村のはると言う方には、行けばすぐ分かると教えられて居たのですが」

 そこまで説明して、後ろの方で見ていた赤ん坊を抱いた女の人が前に出てきた。

「村長さま、村長さまんとこの子の事じゃないかい?」

「おちる、か?」

「ああ。其れなら分かるな」

 誰かが応じた声にオレも成る程と思った。もしかしたら、律心殿の処で聞き違えて覚えてしまっていたのかも知れない。

 あちこちで上がった、納得した様な声と空気に腰の曲がった村長も一つ頷いた。

「おちるならば、確かにうちに居ります」

 村長が案内すると言って、かつかつと杖を鳴らし歩き出した。

 そうなれば、大人達は解散するかと思ったが、そのままオレの後ろから着いてくる。

 此処では見知らぬ人には、監視するのが当たり前なのか?

 珀慧にも目が向けられたまま、ぞろぞろと着いて来る。

 蓬莱の鷹匠がはぐれ伊那依も居ると言っていたな。律心殿の住まいの近くにも妖が居たらしいし、もしかしたら、妖が本当に近くに居るのかも知れない。

 それ以外にも、小さな村だし賊を警戒しての可能性が高いか。

 村長直々に案内された家は子供に教えて貰った通り、大きな柿の木が似合う茅葺の平屋作りだ。

「さあ、中へどうぞ。おちる! おちるは何処かっ」

 玄関先から呼ばれ、奥から白髪混じりの年嵩の女性が右足を引き摺りながら出て来た。

「こちらが、おちるでございます」

 突然呼ばれた上に、玄関先に大勢の村人と見知らぬ人がいたせいで戸惑うちるさんに、オレは頭を下げて、先程と同じ名乗りを上げた。

「こうがみ……鷹匠」

 思い当たる節が無いと、ぼんやりと返された言葉に頷き返し、律心殿から預かっていた物を取り出す。

 女性でも片手で持てる程度だが、幾枚の葉で包んだずっしりとした重みのある荷物だ。

「ほお、鹿肉とはこれまた」

 何処と無く興奮した村長の声とは対象的に、ちるさんは顔を青ざめたさせた。

 それがまた一際違和感を感じるには十分で、後ろに居並ぶ村人からも羨望交じりのざわめきが確かに上がった。

「心配せんと後で持って行く。今は家に戻ってよいぞ!」

 玄関の外で待つ人達を村長が一喝して、追い払うように杖を左右に振り上げてみせる。

 文句を零し渋々と云った雰囲気で足音が遠ざかり、何気なく後ろを振り返った瞬間、諦念と陰湿さの混じった気配が容赦無く降り注いできて、背筋が震えた。

  何かがおかしい――

 そう感じつつも荷物をちるさんに手渡せば、誰からと問われる事も無くただ丁寧に頭を下げられた。

「おちる、客人を立たせたままにしてどうするっ。さあさ、中にお入りくだされ」

 村長に笑顔で進められる最中、ちるさんの瞳が僅かに瞠られた。オレが見ていたことに気が付いてか、ちるさんが取り繕う笑みを貼り付けて、玄関先の道を譲り空けてくれた。

「お急ぎではございませんね。お許しを、気が利かず」

「いえ、お言葉だけ頂きます。旅道中の急ぐ身ですから」

 答えながら、オレはちるさんの顔を真っ直ぐに見る。

 オレの断りの声に確かに深く安堵していた。

「いやいや、お若いから無理が利くと言うもの。ですが、この辺りは何かと物騒でございます。どうぞお立ち寄りください」

 きゅっと手を取られ、老人らしい手の冷たさで中へ玄関の更に内側へと引っ張られる。

「さあさ、荷物をお預かりします。おちる、その中には鳥がいる。温かい場所において差し上げなさい」

 村長の言葉にちるさんが、オレの手から鳥籠を預かろうと腕を差し伸ばす。

 思いがけず揺れた籠の中で珀慧が、迷惑そうな声を上げた。

「鷹……」

 吐息の様に零れたちるさんの呟きに、オレは思わずちるさんを見つめた。

「な、何か」

 突然振り返ったせいか、ちるさんから怯えた視線を向けられてしまった。

「もし、よろしければご覧になられますか?」

 彼女の答えを聞かず、目隠しを解けばはっきりとちるさんが驚いて珀慧に瞳を向けていた。

「ここ……」

「ほお、大きいですな」

「狩り用の大鷹よりは、体躯は小さいですよ。名は珀慧と言います。師匠の古竹が名付けてくれました」

 慄いたちるさんとオレの間に入り込むように村長の感嘆の声が上がり、オレはオレでその村長の言葉に応じる。

 違和感の正体は分からない。だがもう一つだけ、大きな疑問が生まれたのは間違いない。

「おちる。早よう、中へお連れしてあげなさい」

 村長が再びちるさんを促し、彼女はオレの手から鳥籠を受け取って座敷に上がり、衝立で影を作った其処の場所に珀慧の入った籠を置いた。

 そのまま村長から夕食を誘われ、此処まで上がってしまった以上、辞退するわけにも行かず在り難く受けることにした。

「あの、もし、ご足労でなければこちらに。鷹へやれそうな物がございますか見ていただけますでしょうか?」

「おちる! 客人に足を運ばせるとはどう云うつもりだっ。お客人、そやつのご無礼をどうぞお許しくだされ」

「いえ。むしろ村長殿がよろしければ、ご好意に甘えてもよろしいでしょうか? お恥ずかしながら手持ちの餌が不足していた事を思い出してしまいまして」

 今、この機会を逃してはならない。そう直感めいた思いで、些か早口に村長へ願い出れば、不機嫌さを押し殺した眉根を解して「お客人がそれで宜しければ」と続けてくれた。

 客人と言う立場のオレを呼び出した事を詫びつつ、ちるさんが悪い足を引き摺りながら厨へ繋がる道を先に歩く。

 火が入っている厨は暖かい。その暖気を村長が居る部屋にも届くようにと考えてか、ちるさんは障子を閉めることなく土間の隅に置かれている野菜達の傍に近づいた。

 流石、村長を勤める人の家だ。種類豊富な野菜に茶葉にするだろう物も沢山ある。

 確かめるなら、今しかないか。そう思いながらも、明らかにこちらを伺っていた村長に軽い会釈を返しすと、慌てたように視線が逸れた。

「送られた方を問われないのですね」

 小さく、けれどちるさんには届くようにしながら、幾つかの野菜を手にしつつ問い掛ける。

 答えは返らず、仕方無しに葉玉を一つから、葉を数枚千切らせて貰う。

「にがい思い出なのです。げんに不自由を強いられてますし。てが、無事なのが幸いですが」

 一つずつ嚙み含めて云う言葉は、思い当たる人間は居ると答えているに等しい。

 ただ、向けられる真剣な視線が其れだけではないと思うには十分で。

「にどとお会いは出来ない。げんきと伝える事も。てが無事でも、足がこうでは……」

 ちるさんの吐息と共に零れたのは諦めたもので、それでいて向けてくる瞳には強い意志が宿っている。

 何かを見落としているのに、その何かが分からない。

 だが、ちるさんはオレの手から葉玉の千切った葉を受け取る素振りで、強く手を掴んできた。

「橙根を取っていただけますか」

 続けられた声に、手を掴まれたことが錯覚だったのかと思えるほど、自然に放されていた。

「おちるっ、仕度はまだ終わらないのか」

 問い掛ける前に、村長から掛った声に見ていて気の毒なほどに体を竦ませていた。

「これで、宜しいですか」

「はい。ありがとうございます」

 頼まれた橙根を幾つか拾い上げて、ちるさんの傍らに手渡せばその代わりに、水で濡らされた葉玉の葉が返って来た。

 葉の間に何か、茶色い餅のようなものが挟まっている。

「あの、これは……」

「子供の頃に聞いた、鳥の餌です。大丈夫ですよ」

 そう言ってちるさんが、初めてくすりと柔らかく悲哀の笑みを浮かべて「人も食べられる物ですので、父には内緒で、お味見でどうぞ」と、小さく千切った餅のようなものを差し出してくれた。

 口に含んだそれは、餅に似ていたが苦くぼそぼそとした食感と舌触りで、美味いか不味いかで問われれば、はっきりと不味い。

 だが、この苦味は勉強と称して味わった事がある物だった。

「よろしければ、お持ち下さい」

 巾着に餅餌を入れると、そっと忍ばすように手渡してくれた。

 餌が不足していると言った手前、其れを受け取らないわけにもいかず、それだけは違う意味で、嘘を付いたことが心苦しかった。

「ありがとうございます」

「どうか、くれぐれも……」

 意識して、オレと視線を合わせず橙根を洗うちるさん。そのやんわりとした穏かさを貼り付けた横顔に何一つの疑問は晴れないまま、ただ確信できたものがあった。

「どうもお客人のお口には合わなかったようで」

 村長から詫びるような声を掛けられ、緩く頭を振った。

「お招き頂いた身で申し訳ありません。気付かぬうちに疲れが溜まっていたようでして……村長殿からお引止めして頂かなければ、帰路の途中で倒れていたかもしれません」

 苦笑交じりにこちらからも侘びと感謝の言葉を述べれば、村長は気を良くした様に大仰に一つ頷いた。

 夕餉の中、細く切った白葱を、律心殿から頂いた鹿肉で一巻きにし、塩胡椒で強く味を調えただけの串焼きが美味かった。

 ただ、それ以外の米を含んだお菜が、どうにも美味いものとは感じなかった。

 味好みはそんなにしないと思っていたが、この食事だけは……妙に、“其れらしく調えようとした”と言う感じが拭えなかった。

「隣に夜具を調えました」

 村長に命じられ、食事を一足先に終えたちるさんが戻ってきた。

 ずるずると足を引き摺る姿が、そのまま厨の方へと向かっていく。

「あれの足は、若い頃にどこぞの猟師の罠に掛りましてな。それ以来、ああしてみっともない姿を晒しております」

 オレがちるさんを見ていたのに気が付き、村長から話が振られた。

「医者には御見せにならなかったのですか。蓬莱町まで出れば腕の良い医者も居りましょうに」

「いやいや、あれは村を捨てようとした愚か者。自業自得と言うものです」

「厳しいのですね」

 冷たく、悪意すら感じられるような返事に、ただそう返すのが精一杯だった。

「この小さな村を守るための、必要な生贄……少々、例えが悪かったですかな? ですが、年若い連中が簡単に外に出てしまい、二度と戻っては来ないと言うのを何度も目の当たりにした者として、あれの存在は無くてはならないのですよ」

 村長として、衰退していく村を見たくないと言うのは分かった。

 だが、村長の顔に浮かぶ表情が素直に受け止めるには疑いを残す。

 口端に笑みを湛えて言う言葉では無い。

 口から吐きそうになる懸念を深呼吸で誤魔化しながら、納得した風を装い頷き返すがふと感じた寒気に、押さえる事が出来ずに体が震えた。

「おや、冷えてしまわれましたかな? おおそうだ。今時分なら、寒ざらしが良い塩梅のはず。少々お待ちください。おちる、おちる!」

 何かを思い出して、村長が立ち上がると声を掛けながら厨へと向かっていった。

 村長から指摘されたように、感じる寒気に軽く手を擦り合わせつつも、人がいないその間に珀慧の様子を見る。先ほどちるさんから頂いた葉玉の葉とその間に挟まれていた餅を食べた形跡が見えた。

 だが、啼く事は無くとも珀慧は未だに警戒を解かずに、きょろきょろとしている。

「珀慧」

 驚かさないように小さく声を掛ければ、オレに気が付いたように僅かに警戒を緩めたが、鳥篭の隙間から指先を差し入れれば、ぶわりと体中を膨らませて威嚇してきた。

「悪かった、悪かった。お前を驚かせるのは本意じゃないからな」

 指先を引っ込め、やれやれと思わず溜息を吐く。

「お客人、お待たせして申し訳無い」

 そう言って戻って来た村長の後ろから遅れて、ちるさんが白い顔で付き従うのが見えた。

「寒ざらしでございます。これがまた、熱い酒に揚々と合うのですよ」

 村では良く食べると言われて出されたのは、白根百合と刻み柚子を麹に漬けた物だった。それと合わせて、湯気が立つ湯呑みが乗った盆をちるさんから半ば奪うようにして、村長が曲げた腰を更に曲げて床の上に置く。

「寝酒にも良く、暖かく寝られますぞ」

 そう言って村長手ずからに、湯呑みをを差し出してきた。

 透明ではないし酒の匂いより甘い麹の匂いが強い。

「ああ、酒と申しても甘酒。気分だけ呑兵衛を気取りたくありましてな」

「そう言う物であれば」

 酒なら断るつもりだったが、酒精のない甘酒なら断る理由にはならない。

 一口飲み、寒ざらしを摘まませて貰えば、甘酒の温さと、寒ざらしのさっぱりとした甘みが人心地付けさせてくれる。

 先に頂いたものとは、全く違う……作り慣れた人が作った料理の味な気がした。

「おちる。お前はもう下がって良い」

 村長の言葉にちるさんは頭を下げて、退出した。

 村長と村の話しや外の話しを軽くしてからオレも席を立つ。

 隣の部屋に移り、ちるさんが整えた夜具がシワひとつ無いのを村長もオレの背中越しに確かめる。

「明かりを消してしまいますので、どうぞお先に」

「では、何から何までお世話になり、ありがとうございます」

 襖を閉めれば、暗く冷えた空気だけが足元から這い登ってくる気がした。

 夜具の中に潜り込み、暫くしてから居室の明かりが落とされて村長の摺り歩く音が部屋の横を通り過ぎて行った。

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