馬名
会話劇です。
ミオ
「ナオちゃん、昨日お父さんが馬主になったって喜んでたんだけど、すごいことなの?」
ナオ
「ちょっ! すごいよ! とんでもないお金がいるわよ!? それ」
ミオ
「へー、そうなんだ」
ナオ
「軽っ! 馬主って、スーパーのポイントカード作るみたいなノリでなるものじゃないからね!? ミオんちどうなってんの!?」
ミオ
「でも、お父さん、書類出したらなれたって言ってた」
ナオ
「その“書類”の向こうに、所得とか資産とか社会的信用とか、いろいろな大人の壁があるのよ!」
ミオ
「壁、越えたんだ」
ナオ
「越え方が平坦!」
ミオ
「でね、お父さんだけじゃなくて、お母さんも馬主になった」
ナオ
「夫婦で!?」
ミオ
「そう」
ナオ
「ミオの家、いつの間に競馬界に進出したの!?」
ミオ
「おじいちゃんもなった」
ナオ
「一族で!?」
ミオ
「おばあちゃんは迷ってる」
ナオ
「迷う場所がもう富裕層の悩みなのよ!」
ミオ
「でも、おばあちゃんは『まずは家庭菜園を優先したい』って」
ナオ
「急に庶民感戻ってきた!」
ミオ
「でね、三人とも馬に名前をつけたんだって」
ナオ
「ああ、なるほど。馬名ね。そこは楽しそう。どんな名前にしたの?」
ミオ
「まず、お母さんの馬」
ナオ
「うん」
ミオ
「ババパババパパママ」
ナオ
「ふふぉぅ!」
ミオ
「?」
ナオ
「ちょっ!? ミオのお母さん、実況の人に恨みでもあんの!?」
ミオ
「ないと思う」
ナオ
「ない人間がつける名前じゃないのよ、それ!」
ミオ
「お母さんは、かわいいからって」
ナオ
「どこが!?」
ミオ
「最後がパパママだから」
ナオ
「最後だけ家庭的!」
ミオ
「お母さん、そこが気に入ったんだって」
ナオ
「最後の二文字で全体の混沌をごまかすな!」
ミオ
「本当は、ババパババパパマパバマと悩んだみたい」
ナオ
「悩む方向がおかしい!」
ミオ
「でも、お父さんが言ったんだって」
ナオ
「なんて?」
ミオ
「文字数が規定オーバーしてるのと、最後はやっぱり、パパママの方がかわいいって」
ナオ
「夫婦で実況アナウンサーの人生を左右するな!」
ミオ
「だから、ババパババパパママになった」
ナオ
「家庭会議で決めた名前が早口言葉なのよ!」
ミオ
「略して、ババちゃん」
ナオ
「そこだけ聞いたら急に年配女性!」
ミオ
「でも正式名称は、ババパババパパママ」
ナオ
「正式名称が舌先に悪そう!」
ミオ
「次に、お父さんの馬」
ナオ
「もう嫌な予感しかしない」
ミオ
「ガンダムッポイ」
ナオ
「別方向に危ない!」
ミオ
「?」
ナオ
「それ、名前として大丈夫なの!?」
ミオ
「ガンダムじゃないよ」
ナオ
「うん」
ミオ
「ガンダムっぽいだけ」
ナオ
「“っぽい”で回避できると思うな!」
ミオ
「お父さんは、強そうだからって」
ナオ
「馬だよね!? モビルスーツじゃないよね!?」
ミオ
「足が速いんだって」
ナオ
「そこは馬として普通!」
ミオ
「お父さん、赤く塗りたかったらしい」
ナオ
「やめて! 別の方面にも近づくから!」
ミオ
「でも、お母さんに止められた」
ナオ
「お母さん、そこは常識あるんだ」
ミオ
「『赤くすると、ガンダムッポイじゃなくてシャアッポイになる』からって」
ナオ
「常識じゃなくて分類の問題だった!」
ミオ
「だから普通の色」
ナオ
「普通の色のガンダムッポイも、だいぶ普通じゃないからね?」
ミオ
「それで、おじいちゃんの馬」
ナオ
「待って。おじいちゃんは穏やかな名前にしてて。お願いだから」
ミオ
「ホウチョウヲモッテ」
ナオ
「通報!!」
ミオ
「?」
ナオ
「名前だけで警察が動く!」
ミオ
「おじいちゃん、元料理人だから」
ナオ
「背景を聞いても怖さが消えない!」
ミオ
「包丁を持って、真剣に生きてきたからって」
ナオ
「人生訓としては渋いのに、馬名にした途端に事件性が出る!」
ミオ
「おじいちゃん、いい名前だって」
ナオ
「おじいちゃん、馬に何を背負わせてるの!?」
ミオ
「包丁」
ナオ
「背負わせるな!」
ミオ
「持ってるだけだよ」
ナオ
「持たせるな!」
ミオ
「でも馬だから、実際には持てない」
ナオ
「そこだけ冷静に現実を見るな!」
ミオ
「三頭とも、今度同じレースに出るんだって」
ナオ
「地獄のレース開催決定じゃん!」
ミオ
「お父さん、楽しみにしてる」
ナオ
「実況さんはたぶん震えてるよ」
ミオ
「お母さんも楽しみにしてる」
ナオ
「自分の馬名が実況席を破壊する自覚を持って」
ミオ
「おじいちゃんも楽しみにしてる」
ナオ
「おじいちゃんの馬は、出走表に載った時点で係員が二度見するから」
ミオ
「ナオも見る?」
ナオ
「見たいけど! めちゃくちゃ見たいけど! 怖い!」
ミオ
「想像実況してあげる」
ナオ
「やめて。もう嫌な予感しかしない」
ミオ
「各馬、ゲートに入りました」
ナオ
「始まっちゃった」
ミオ
「一番人気は、ガンダムッポイ」
ナオ
「人気あるんだ!?」
ミオ
「二番人気は、ババパババパパママ」
ナオ
「言えた! 実況さん、初手は耐えた!」
ミオ
「三番人気は、ホウチョウヲモッテ」
ナオ
「人気順だけでニュース原稿みたい!」
ミオ
「スタートしました」
ナオ
「はい」
ミオ
「まず飛び出したのは、ガンダムッポイ」
ナオ
「絵面がもう競馬じゃない!」
ミオ
「ガンダムッポイ、好スタート」
ナオ
「行ったよ!? アムロが行ったよ今! 私の脳内で!」
ミオ
「その外から、ババパババパパママ」
ナオ
「外から来るな、発音事故!」
ミオ
「内で粘る、ホウチョウヲモッテ。差すタイミングを測る」
ナオ
「粘るな! 測るな! 物騒な名前で内にいるな!」
ミオ
「第一コーナーを回って、先頭はガンダムッポイ」
ナオ
「ガンダムじゃないのに先頭走ってる!」
ミオ
「二番手にババパババパパママ」
ナオ
「実況さん、二回目も成功! 偉い!」
ミオ
「少し離れて、ホウチョウヲモッテ」
ナオ
「離れてて! お願いだから離れてて!」
ミオ
「向こう正面に入りました」
ナオ
「もう怖い」
ミオ
「ガンダムッポイ、軽快な走り」
ナオ
「馬なのにロボット感が消えない!」
ミオ
「ババパババパパママ、じわじわ差を詰める」
ナオ
「じわじわ来るな! 口がもたない!」
ミオ
「ここで後方から、ホウチョウヲモッテが上がってきた。さすか?」
ナオ
「逃げて!! 全員逃げて!!」
ミオ
「ホウチョウヲモッテ、外から迫る」
ナオ
「迫るな! 刃物を持って迫るな!」
ミオ
「直線に入りました」
ナオ
「うわあ、来た」
ミオ
「先頭はまだガンダムッポイ」
ナオ
「がんばれガンダムッポイ! いや、応援していいのか分かんないけど!」
ミオ
「内からババパババパパママ」
ナオ
「内から来た! 実況さんの舌に負荷をかけながら来た!」
ミオ
「外からホウチョウヲモッテ」
ナオ
「外から事件性が来た!」
ミオ
「ガンダムッポイ、逃げる。粘る」
ナオ
「粘れ! 版権ギリギリでも粘れ! そんで早く逃げて!」
ミオ
「ババパババパパママ、伸びる」
ナオ
「伸びるな! いや伸びてもいいけど、言いにくい!」
ミオ
「ホウチョウヲモッテ、さらに加速」
ナオ
「加速するな! 警察沙汰になる!」
ミオ
「残り百メートル」
ナオ
「実況さんの喉も残り百メートル!」
ミオ
「ホウチョウヲモッテ、ガンダムッポイに迫る。並んだ」
ナオ
「文章だけ見ると完全に事件現場!」
ミオ
「ホウチョウヲモッテ、ガンダムッポイを差した」
ナオ
「刺したみたいに聞こえる!!」
ミオ
「さらにババパババパパママも差し返す」
ナオ
「もう口の中が大事故!」
ミオ
「ホウチョウヲモッテ、ババパババパパママ、ガンダムッポイ、三頭並んでゴールイン」
ナオ
「実況席、全滅!!」
ミオ
「写真判定だって」
ナオ
「判定員も何を判定してるのか分からなくなるわ!」
ミオ
「一着は、ホウチョウヲモッテ」
ナオ
「勝っちゃった!」
ミオ
「二着、ガンダムッポイ」
ナオ
「ロボっぽいの負けた!」
ミオ
「三着、ババパババパパママ」
ナオ
「惜しい! でも実況さん的には三着で助かった!」
ミオ
「お母さん、悔しがってた」
ナオ
「そりゃ馬主としてはね」
ミオ
「『次はもっとかわいい名前にする』って」
ナオ
「やめて」
ミオ
「ババパパマパバママ」
ナオ
「悪化してる!!」
ミオ
「お父さんも二頭目を考えてる」
ナオ
「聞きたくない」
ミオ
「ガンダムッポクナイ」
ナオ
「じゃあ何なの!?」
ミオ
「おじいちゃんも」
ナオ
「お願い、もう包丁から離れて」
ミオ
「マナイタノウエデ」
ナオ
「料理番組に戻って! 競馬場から出て!」
ミオ
「おばあちゃんも、馬主になる決心がついたって」
ナオ
「ついちゃったかあ」
ミオ
「名前は、タカシ」
ナオ
「急に普通!」
ミオ
「強そうだから」
ナオ
「タカシに背負わせる期待が重い!」
ミオ
「次のレース、ホウチョウヲモッテ、ガンダムッポイ、ババパババパパママ、タカシが出るよ」
ナオ
「タカシだけ近所の青年!」
ミオ
「タカシ、ガンダムッポイ、ホウチョウヲモッテ、ババパババパパママを追いかける」
ナオ
「事件じゃん!」
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騎馬戦記⭐︎ガールズナイツ
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騎馬戦で領土(校区)を奪い合うスクール戦記ものです笑




