第四十八話 奴隷の首輪(リン)
次の日の朝、俺は朝食前に親父から頼んでおいた物を受け取った。
親父仕事が早いな。素直に感心した。
出来るだけ早く報告した方が良いいだろうということになって、俺たちはすぐにアークザリアに向かうことにした。
ミーナの転移で移動したのだ。一瞬でアークザリア王都の入り口付近に移動した。
ミーナ便利すぎだろう。歩いてすぐにアークザリア城に向かった。
城の入り口の門兵は俺たち勇者パーティの顔を覚えていたせいもあって、それほど待たずに王の間へ案内してもらうことができた。
「久しぶりじゃな、勇者ミーナ」
アークザリア国王が気軽に話しかけてきた。
「はい、お久しぶりです国王様」
「モッハトルテ国との件については、素晴らしい働きじゃったぞ。余からも感謝の意を示そう」
そう言って、国王は椅子から立ち、俺たちに向かって軽くお辞儀をした。
「と、とんでもありません国王様。私達は当然のことをしたまでです。無事、血を見ることなく争いを解決できて良かったと思っています」
「そうであるな。モッハトルテ国との交流も始まり、今後はお互いの文化などの交流が盛んになってくれれば良い」
「はい、その通りでございます」
「ところで、今日はモッハトルテの件で儂に会いに来たのか?」
国王よ、わかっているだろうに。体が微妙にムズムズしているぞ。
「いえ、今日は私達がアークザリア迷宮の魔王を討伐した事を報告しに参りました」
「なんと、それは本当か。さすが勇者ミーナ殿だ。15年前は倒せなかったあの魔王を倒すとは素晴らしい」
「は、ありがたきお言葉」
いや、もう国王知っていたでしょ、リアクションが大き過ぎだよ。
「よし、そなたらパーティには褒美をとらせよう。とりあえず今日は食事会だな」
この国王、食事会開きたいだけではないだろうか。何、両手をパンパンしてメイド長みたいな人呼んでいるんだ。
まあ、いつも通り食事会を昼に行うことになった。
昼までは時間があるので、一旦国王が用意してくれた宿屋へみんな戻り食事会の時間まで暇を潰した。
そして、食事会、メンバーは、国王といつもの騎士団の面々、俺たち勇者パーティだ。
当然と言えば当然だが、ミーナは国王のすぐ近くに座っていた。
国王がモッハトルテ国とのやりとりや魔王との戦いについて話を聞くためにミーナを一人占めしていた。
まあ、イケメン君に話しかけられるよりずっといいのだが、そのイケメン君の話し相手が俺になっているのは少しつらかった。
オルガとガン、カルさんとランさん、リンとロメリアいつもの話し相手と仲良く話こんでいた。
〇 リン視点
はあ、アークザリア国王に報告して、いつもの食事会の流れ。
普段なら美味しい料理にロメリアさんとの魔法談義で楽しいのだけれど、今はそんな気分ではない。
「どうしたのよ、溜息なんかついちゃって」
「ロメリアさん……」
「何かあったの。何だったらお姉さんが話を聞いてあげるわよ」
誰かに話をしても意味はないだろうと思いつつ、ただこれ以上自分一人で抱えていても何の解決にもならないため私は少しずつ話していった。
「実は、アークザリア迷宮の魔王を倒したときのことなんですが」
「そうよ、あなた達あの最強魔王を倒したのよね。凄いわ。話を聞かせてもらえるかしら」
「その最強魔王なんですが、高位の魔術師だったんです。魔力無限、魔法無効、自動回復、もう反則的な存在でした」
「え……そうなの。ヤバイもいいとこだね」
「それで、魔法職の私は魔法では全く役に立たないので急遽弓矢で参戦しました。でも魔王は回復能力が凄くてダメージを与えたとしても一瞬で回復してしまうんです」
「うんうん。魔法無効の生物じゃあ私達の出番はないよねぇ」
「私は御主人さまの役に立つためだけに生きているのに、ほとんど役に立つことが出来なかったのです。それが凄く悲しくて」
「う~ん、でも魔法職だから仕方ないよね。逆に物理無効の魔王とか現れたら私達大活躍できるよね」
「そうですね。でも私は常に御主人さまの役に立っていたいのです。役に立てない私はいらない子なんです」
「そんなに思い込まなくてもいいと思うけどね。前衛職もやりたいと思うのなら転職すればいいんじゃないかな。転職するとステータスやスキルはレベル1相当になってしまうけど覚えているスキルは転職後も使えるからね」
「転職?」
「そだよ。転職はジョブを極めたらすることができるの。つまりレベル99までジョブを上げればいいんだけど、リンはもうレベル99になってるでしょう。後はね、自分がジョブを受けた水晶の所で初めてジョブを受けたときみたくジョブを選択できるんだ。もし、その水晶が壊れてたりした場合は、アークザリア城にある水晶でも出来るんだけど、こちらは色々注文があってね、なかなか時間がかかるんだ」
「転職なんて出来るんだ。前衛職になれば物理攻撃が出来て、魔法も使えて万能になれるのね。なんで、みんな転職しないのかしら、強くなれるのに」
「あんた、簡単に言ってるけどね、普通ジョブをレベル99まで上げるのは相当大変なことなのよ。実際アークザリア国内でもレベル30~40ぐらいがほとんどでしょ。それでやっとレベル99まで上げても転職したらまたレベル1からなのよ。またレベル上げする気にはなかなかならないのよ」
なるほど、私は勇者パーティにいたからレベル上げは苦ではなかったけど、普通は相当大変なんだな。
でも、転職。そんな方法があるなんて知らなかった。
私の住んでたポンパ村に戻れば水晶もあるはず。そこで転職すればいいのでは。
「ロメリアさん、ありがとう。私、転職なんて知りませんでした。村に戻って転職してもっともっと役に立てるように頑張ってみます」
「本当に転職するの? 結構大変だと思うけどね。まあ、リンがまた強くなると私も面白くないわね。魔法の技術をもっと磨いておこうかしら」
良かった。ロメリアさんと知り合いになれて凄く良かった。
落ち込んでた私だったけど希望が見えてきて私も元気を取り戻すことができた。
その後はロメリアさんと食事をしながら楽しく会話することができた。
問題は、村へ戻るための休暇を御主人さまからもらわないといけなかった。
御主人さまのことだからきっと1週間くらいの休みならくれるだろう。宿へ戻ったら話をしてみよう。
昼の食事会が終わり、宿へ戻り私達は大きな部屋でくつろいでいた。
御主人さまに休みの許可をもらおうとしたら、御主人さまの方から私に近づいてきてくれた。
「ser duaruf meryr ……」
御主人さまが私に向かって何か呪文を唱えた。
すると、首輪が一瞬光り、ポロリと首から外れてしまった。唖然とした。
御主人さまが唱えていたのは奴隷解除の呪文だった。
「ご、御主人さま」
御主人さまは私を見限ってしまったのだろうか。奴隷のくせに役に立たない私を。
悲しそうにする私に御主人さまが頭をポンポンしてくれた。
「リン、奴隷はもう終わりだ。お前は今まで俺のために凄く役に立ってくれた。お前のおかげで親父も倒すことができた。これからは、お前が楽しめる人生を歩んで欲しい」
「ご主人さま」
「もう御主人さまではない。マオと呼んでくれリン」
「マ、マオさん。私はマオさんの役に立てていたのでしょうか」
「十分すぎるほどに役に立ってくれた」
そう言ってマオさんは私の頭を撫でてくれていた。不思議なことだけれど、マオさんに役に立っていたと言われ、心がすっと軽くなった。
以前のようにマオさんのために役に立たなければといった気持ちが消えてしまっていた。
これは奴隷解除によるものなのだろうか。マオさんに対する私の気持ちも少し変化したようだ。
「これは、俺からのプレゼントだ。まあ、親父に作ってもらったんだけどな」
そう言って、マオさんは私に指輪をプレゼントしてくれました。
「転移の指輪だ。ポンパ村と魔王城の2箇所に転移することができる」
「転移の指輪……。ありがとうございます」
「国王への報告も終わったし、後はオルガ達の国王にあいさつするぐらいだからな。リンもあの国はまだ居心地悪いだろうし、ここからは自由行動でいいぞ」
マオさんは、さっきの会話を聞いていたのでしょうか。
それにしても転移の指輪まで用意しているなんて、本当凄いお方だ。
「マオさん、私はポンパ村に戻ってみることにします」
「あぁ、構わない。そこで今後の事をゆっくり考えるといい」
「はい、わかりました」
何だろうこの気持ち。凄くワクワクする。自分のために何かするとか考えてもいなかった。
また、自分のための時間ができるとも思っていなかった。私はすぐにでも村に戻ってみたい気持ちになっていた。
でも、その前に挨拶は大事だ。
オルガさん、カルさんに挨拶して、マオさんにも挨拶した。最後にミーナだ。
「ミーナさん、今まで生意気なこと言ってごめんなさい。マオさん相手に挑発してごめんなさい。冷静に考えるとマオさんは最初からミーナさんラブだったし、他の人が入る隙間なんてありませんでしたね。私は村に戻って今後のことを考えてみます」
「ふふ、リンちゃんが奴隷じゃなくなって私は嬉しいわ。奴隷ってどうしても主人のことだけを考えてしまうようになるからね。私はねリンちゃんのこと、ずっと好きだったのよ、かわいい妹みたいで。きっとマオくんみたいに素晴らしい人もすぐ見つかるわよ」
「見つかるかどうかわかりませんが、私ぐらいの強さを持った人がいいですね」
「おいおい、それは大変だな」
オルガさんからツッコミが入ったけど笑って無視しました。本当、いいパーティだった。
また、いつか組んでみたいな。その時のために転職もいいかもしれない。
最後にお辞儀をして私は一足先に村へと転移した。




