第四十一話 属国の陰謀
親父も本当勘弁して欲しい。
複数のドラゴンに襲われたら人間なんてあっと言う間に滅ぼされてしまうよ。
まあ、アークザリアには騎士団もあるし少しは大丈夫だと思うけど、時間はそれほどないだろな。
渋る親父を母親が説得(命令)して、ようやく俺たちは転移した。
転移先はアークザリア王国の城門前だ。
パっと目の前を見ると誰かがドラゴンと戦っている。
そして数匹のドラゴンはアークザリア王国の上空にすでに入っている。急がなけれなならない。
俺はリンに城門内に先に入ってドラゴンを相手するように指示した。もちろん命大事にの作戦だ。
目の前で誰かがドラゴンの尻尾攻撃をくらって吹き飛ばされていた。
カルさんに指示して治癒を頼んだ。
オルガもそれについて行って、オルガはそのまま城門内まで行ってもらうことにした。
俺とミーナは目の前のドラゴンを相手する。
ドラゴンのブレス攻撃を受けてなお立っている人物がいた。
俺が知る限り、アークザリアでそんな事ができるのは一人しかいない。
俺とミーナはそれぞれ武器に光を溜めてドラゴンを攻撃した。
堅いはずのドラゴンの皮膚も簡単に切り裂いて真っ二つにすることができた。
「ガン、待たせたな」
声をかけてガンを見るとボロボロの状態だ。よく2体もドラゴンを倒したものだ。
すぐにカルさんがこちらに向かってきた。余分な奴もついてきていた。
「さすが、ミーナさん。素晴らしい攻撃です。勇者特有の攻撃ですか。あのドラゴンを簡単に真っ二つにできるなんて」
元気になったイケメンは少しうざかった。カルさんは、ガンにも治癒Ⅳをかけた。
「ありがとう。ミーナ殿が遅ければ俺達は全滅していただろう」
ガンはお礼を言うと城門の方へ向かった。もちろんハママもついて行った。
俺たちも当然城門へと向かう。アークザリアの街中は大混乱状態だった。
〇 ラン視点
これは悪夢ではないのだろうか。
大昔、戦争があって、国と国とが争ったことは知っている。
最終的にアークザリア王国がこの領地をまとめ、アークザリア領としていた。
なのに、他国がまた攻めてくるなんて。
確かに騎士団は今回の様な戦争のことも頭に入れ、訓練もしてきた。
だけど、実際国を襲ってくるなんて、ましてやドラゴンといった生物を使ってくるなんて、とても想像なんて出来なかった。
否定したい現実が目の前にある。
モッハトルテ国の獣人部隊が攻めにきていて、ドラゴンも使っている。
最初のドラゴンのブレスでケガを負った団員は少なくない。私以外の僧侶ではせいぜい治癒ⅡかⅢまで。
治癒Ⅳを使えるのは私ぐらいだろう。
あぁ、こんな時勇者パーティのカルさんがいたら、どんなに心強いだろうか。
「大丈夫です。すぐに手当てしますから」
ほとんど死にかけている団員に声をかけながら治療していく。
元気な団員は獣人部隊とやりあっていた。
ロメリアさん率いる魔術師部隊が、上手く魔法で攻撃してくれていた。
しかし、それもほんの一瞬だった。空に赤い物体が飛行していく。
ドラゴンだ。その数6体。
城門外ではガンさんやハママさんが戦っているはずだから、それ以外が乗り込んできた。
マズイと思った。ドラゴンに対応出来そうなのは、ガンさん、ハママさん、ロメリアさんぐらいだ。
数が多すぎる。私が出来るのは、ドラゴンのブレスに対する結界を作ることと治癒だけ。
一人ではとてもカバーできないかも知れないが、やれるところまでやらなければならない。
ガンさんやハママさんが戻ってくるまで耐えないと、この国は終わってしまう。
〇 ロメリア視点
騎士団から緊急事態の報告を受けて城門に向かったら、なるほど緊急事態だった。
モッハトルテ国が戦争を仕掛けてくるとは思わなかったし、赤いドラゴンを使役しているとはビックリだ。
ドラゴンは空中にいて攻撃しづらいだろうから雷の魔法を当ててドラゴンを地上に降ろした。
後は脳筋の騎士団が何とかしてくれるでしょう。
攻め入ってくる獣人部隊を相手にしようかと思っていたら、何これ、本気?
9体のドラゴンが襲いかかってきた。
そのうち3体はガン達のところに降りたけど残り6体はこちらに向かってきた。
冗談じゃない。さっきみたく雷の魔法を当てて地上に落とすことはできても、ドラゴンを倒すとしたら、それだけ強力な魔法を当てないといけないのよ。
それにそんな魔法撃ったらこの街も危ない。そんなことを考えていたのがまずかった。
ドラゴンのブレスの一つが私に向かって飛んできた。
「まずいっ」
それは、もう避けれるタイミングではなかった。
私は死を覚悟したのだが、ブレスは私の目の前で飛散した。結界だ。ランが張ってくれたのだろう。
ランの結界は強力だが、1回で消えてしまう。次からは気を付けないといけない。
とりあえずランに手を振ってお礼をした。
「やるしかないか」
ドラゴンはブレスを放出しまくって街を破壊していった。好き勝手は許さない。
少し詠唱は長くなるがダメージを与えられる呪文を唱える。
「サンダーボルト」
雷の槍をイメージした魔法がドラゴンの翼を貫く。
1体のドラゴンの羽に穴があき、地面へ落下する。だが、落下させただけだ。
後は騎士団に任せるしかない。
とはいえ、城門からは獣人部隊が流れこんで来ている。
そちらの相手で精一杯な騎士団が自分達より強いドラゴンを相手することなどできないだろう。
結果、ドラゴンは街中で暴れ回ることになる。私が何とかしないとならないのでしょうね。
でも、私でさえ1体相手するのがやっとだと思う。
残りの5体のドラゴンは今なお空からブレス攻撃で街を破壊している。
「まずいわね。ドラゴンの集団は魔物の集団とは大違いだわ」
愚痴を言いながらも氷系の魔法で1体のドラゴンを相手する。
じわじわとダメージを与えることは出来てもこんなペースではアークザリアの国は崩壊する。
そんな私の後ろから魔法の矢が放たれた。
あぁ、これは見たことがある。あの生意気な娘の魔法だわ。
「さっさと倒して次行きましょう」
12歳と言った生意気なエルフは、氷の矢を無数に降らしてドラゴンの息の根を止めた。
「あんたがいるって事は勇者様もいるってことだね。何だか希望が見えてきたわ」
私はリンとか言う娘と共に次のドラゴンへ攻撃魔法を当てていった。
〇
城門内は敵味方入り混じった混戦状態であった。
オルガが上手く立ち回っていて、ランさんの治癒も効果的で獣人部隊といい勝負をしていた。
ここは、ガンとイケメンにお任せして俺とミーナはドラゴン退治に向かった。
カルさんには城門付近で治癒をお願いした。
「リン達にドラゴンを落としてもらってサクっと狩っていこう」
「うん、わかった。リンちゃんはあっちの方角にいるわ」
ミーナに案内されてすぐにリンと合流した。ロメリアという魔術師と一緒だった。
「リン、ドラゴンの羽を狙って地上に落としてもらえるか。俺とミーナが地上で叩くから」
「わかりました御主人さま」
リンはドラゴンの羽に向かって無数の矢を降り注ぐ。
ドラゴンの翼はあっと言う間にボロボロになり地上へ落下していった。
ロメリアも雷の魔法でドラゴンを落下させた。
俺たちはドラゴンの落下地点へ移動し、ドラゴンをサクっと狩っていった。
5体のドラゴンは1分足らずで討伐された。
「あんた達は無茶苦茶だよ。ドラゴン相手だよ。勇者パーティ恐ろしいわ」
ロメリアからなぜか罵倒された。せっかく急いで駆け付けてきたのに。
おかげでアークザリアの被害は3分の1ぐらいで済んだ。それでも多大な被害ではある。
ドラゴン達が落とされて倒されたのに気付いたのか獣人部隊は急に退却していった。
オルガ、ガン、イケメンのいる騎士団相手では獣人部隊も全然歯が立たないはずだ。
逃げれたのは2,3人がいいところだろう。何人か生きている獣人を捕虜としていた。
そして俺たちは明日、国王と謁見することになった。何か褒美でもくれるのならいいのだけれど。
その日はアークザリアの中でも高級な宿屋に止めてもらうことになった。部屋は2部屋だ。
「何で国王に会うのは明日なんだろう」
リンが疑問を口にしていた。
「恐らく捕虜から色々聞きだして、情報を得て今後の事を考えてから俺たちと話をしたいのだろう」
色々聞きだしての方法が少し怖いが考えないようにした。
「さすが、御主人さまです。王様は先の事も考えているんですね」
ミーナが隣でおとなしく寝ている。今日は疲れたのかな。
俺はミーナの額に軽くキスをしておやすみの挨拶をした。
俺はすぐに横になって寝てしまったから気付かなかったが、ミーナは隣で顔を真っ赤にしていたらしい。
その事を聞いたのはだいぶ先の話である。
次の朝、食事を摂るとすぐに迎えが来た。俺たちは国王に謁見した。
「勇者ミーナとそのパーティよ、昨日は助かった。国を代表して感謝する。我々だけでは対応しきれなかっただろう」
ミーナが『アークザリア王国は自分の出身地でもあるので国を守るのは当然のことです』と返事していた。
ついこの間まで戦争しますとか言ってたミーナとは同一人物に思えなかったが、王様の前なのでスルーした。
「さて、昨日攻めてきたのはアークザリア領南西にある小国モッハトルテ国だ。彼らは非人族主義で、我々とは、ほとんど国交がなかったのだが、急に攻めてきた。理由はドラゴンだ。モッハトルテ国は魔法のあらゆる研究をしている。その中で召喚魔法を取得し、ドラゴンが使役できるようになったらしい。ドラゴンの力は強大だ。彼らはこれを機に人族を倒し、自分達がこの広大なアークザリアを治めようと考えたに違いない」
なるほどねドラゴン召喚か、恰好いいな。
まあ、でもドラゴンのレベル80ぐらいだからな。そんなに強くはなかったな。
「相手は更にドラゴンを送りこんでくるかもしれない。このまま待ち受けていてはこちらが不利だ。そこで勇者ミーナよ、モッハトルテ国へ行って戦争を終わらせてもらえないか」
「それは私達にモッハトルテ国民を殺してきてくれと頼んでいるのですか?」
魔物ならミーナも躊躇いなく殺す。しかし、異人種とはいえ、姿かたちはほぼ人族と一緒だ。
彼らを殺すのには、それなりの理由がいるだろう。
「殺さずに済むのなら、それでお願いしたい。戦争を終わらせてくれればいいのじゃ」
「わかりました。上手くいくか分かりませんが私達パーティで戦争を終わらせてみせます」
「さすが、勇者よ。頼んだぞ」
国王にいいように言われてその場は終わった。国を救ったお礼は高級宿と食事らしい。
まあ、確かに豪華であるけど他にも何かあるのではないだろうか。
そんな事を思っていたら心を読まれたのかミーナに頭を撫でられた。ミーナにはかなわないと思った。




