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第三十二話 激おこ勇者ミーナ

次の朝早く、食事中に迎えは来た。ミーナは食事の途中で兵士達に連れられてしまった。


ミーナの機嫌が悪くなっていなければいいのだが。


食事を終えて部屋に戻るとトントンと扉を叩く音がする。


「はい、どうぞ」


鍵などないから、すぐに部屋に入ってこれる。扉を開けてやってきたのはリンだった。


「御主人さま、この前は本当にすみませんでした」


前回のキス事件のことをまだ反省しているようだ。


そこまで俺は根にもったりしないし、約束さえ守ってもらえれば全然構わない。


「どうか私に罰を与えください」


ん? 何かハァハァしながら服を脱ごうとしていないか。あかん、コイツ絶対興奮しているわ。


俺はすかさずリンの腕を押さえて服を脱がさせないようにした。


「リン。お前はまだ子供だし、こんな事したらダメだぞ。大人になるまでは時間があるんだし、もっと周りの世界をしっかり見て成長しなさい」


「大人になればいいの?」


真っすぐな目で俺に聞いてくる。くっ、こんな時にそんな目は反則だろう。


「大人になれば、いいか悪いかの判断もできるよ」


何となく誤魔化しながらリンの頭を軽くポンポンしてやった。


「そだね。私まだ子供だから色々足りないんだね。もっと御主人さまのお役に立てるように早く大人になるね」


なんか知らないが納得はしてもらったみたいだ。


頼むからカルさんを参考にして大人にはなってもらいたくない。


あの人絶対面白がって変なこと教えそうだからな。


まあ、今日は暇なのでリンと色々話をしながら時間を過ごした。


「リンはね、小さくて可愛いから俺の妹のササみたいに感じるんだよ」


「御主人さまは妹がいるのですね。いいなぁ、兄妹ってうらやましいです。私は一人っ子だったのでお兄ちゃんが欲しかったな」


「そうかリンはお兄ちゃんが欲しかったのか。リンの住んでいた所にはいなかったのか」


「う~ん、格好いい人はいなかった。可愛い弟分みたいな子はいたけどね。いつも私に懐いてた」


リンは以前住んでいたところのことを思い出して涙を零した。


「あ、あれ何だろう。ごめんなさい」


俺は優しくリンの頭を撫でてやった。


「そうだ、今度リンにもササを紹介してあげよう」


「え、本当ですか。それは楽しみです」


リンの顔がパッと明るくなった。ササを紹介するということは魔王城へ行くということだ。


うちの家族に会うのを楽しみにしてくれているのかと思うと俺も嬉しくなった。


その後も他愛のない話をして昼食の時間になった。


「マオ、午後から時間があるか。例の件だ」


オルガが飯を食いながら話しかけてきた。その言葉を待っていたよ。


「もちろん、今日は特に予定はない。この後オルガの部屋に行くよ」


「おぉ、待っているぞ」


ヤバイ。飯を食べる速度が上がっていく。そんな俺にリンが話かけてきた。


「御主人さま、午後から御主人さまの部屋の掃除をしても構わないでしょうか」


そんなに汚れてはいないと思うけど、まあ掃除してくれるのならお願いするか。


「うん、構わないよ。そんなに汚れてはいないと思うから軽く掃除でいいよ」


「はい、わかりました」


満面の笑みでリンが返事する。こういう時のリンは本当可愛いな。


昼食後すぐにオルガと共にオルガの部屋に向かった。


まさか、この後リンが俺のベッドの上で俺の匂いを嗅ぎながら、くんかくんかしているとは俺は知る由もなかった。


何しろ掃除は完璧に行われていたからだ。


オルガが先程言った例の件とはヘルメド国での鍛冶のことだ。


俺は自分の武器の製作を、ミーナの分は鎧と武器の製作をお願いしていた。


オルガは自分用の武器防具も作っていたみたいだったが徹夜で作業していたからな。


しかも今回はヘルメド迷宮の奥深くで採掘したアダマンタイトを使用している。


いったいどんな武器を作ってくれたのだろう。ワクワクするのも当然だ。


オルガの部屋の床に俺たちは座り込んだ。オルガが自分のポーチを持ち出し、まず武器を取り出す。


「これがマオ専用の武器だ」


取り出した槍は朱色の槍だ。しかし、これは一目で凄い槍と分かる。俺は魔眼で槍の性能を確認した。


武器種:滅魔槍(両手槍)

スキル:魔法反射、火炎突


オルガが俺に作ってくれた武器は両手槍だった。


両手用なので少し大きさがあるが重さは片手槍と変わらないぐらいだ。それでいてしっかりしている。


強度も相当なものだと感じられる。スキルには、魔法反射なるものが付いている。これは凄い。


魔法だけ使ってくる相手には無敵じゃなかろうか。


火炎突も威力がありそうな突きだ。結構な魔力を消費して使う技みたいだから連発とかは無理そうだけど。


造形も素晴らしい。幾つもの炎が重なったかのような形だ。厨二心をくすぐる。


「オルガ、ありがとう。これは凄い武器だ。特に魔法反射スキルなんて反則技だろ」


「ふむ、マオに持たせるとまさに鬼に金棒状態だ。マオが人間世界の敵に回ったら誰も相手にならないだろう」


オルガも自信作なのだろう、俺の喜ぶ姿をみてあのオルガもニコニコしていた。


新しい武器を手にするとどうも使いたくなってくる。不謹慎な話だ。


次にオルガはミーナの武器防具を見せてくれた。


武器種:神光剣(片手剣)

スキル:神速斬り、魔物・魔族威力上昇(大)


これまた、強そうな剣だ。金色というか薄い黄色っぽい感じの片手剣だが、軽さが半端ない。


例えるのなら、シャープペンの芯を持っているかのような軽さだ。


神速斬りは10連続斬りを一瞬で行うまさに神業だ。


特にヤバイのは威力上昇(大)、通常の敵と比べて威力10倍ってどんだけダメージを与えられるのか。



防具種:羽衣堅鎧(胸当て&腕当て&腰当て)

スキル:魔法・物理攻撃ダメージ吸収(特大)、魔法・物理攻撃ダメージUP(中)


これは、3つで一つのセット防具だ。材質はアダマンタイトだから堅さは言うまでもないのだろう。


スキルが凄い。オルガあんた本当に凄いよ。


ダメージ吸収(特大)はダメージを10分の1にするし、ダメージUP(中)は威力を2倍にする。


防具つけるだけで攻撃2倍って、ミーナに着せたらなにか、魔物、魔族に対して通常の20倍攻撃ができるのか。


俺ではもうミーナに勝てる自信がないよ。


「オルガ、あんた凄いよ。凄すぎるよ。何だこの防具は、もう防具じゃなくて神器だよ」


俺の言葉で更に喜んだオルガが不敵に笑って言った。


「ガハハ、驚くなよ。この防具はミーナだけの分ではなく、カルとリンの分も作ってあるのだ」


な、なんだってー。


お前、頑張り過ぎだろう。そこまで鍛冶大好きなのか。


待てよ、それよりミーナの装備といいリンの装備といい、胸や腰の大きさはどう知ったのだ。


「オルガ、一つ聞きたいんだが、この防具伸び縮みする防具ではないよな。これをミーナたちに着せるのは良いがサイズはどうやって測ったんだ」


「うっ……」


それまで上機嫌だったオルガが言葉に詰まる。


まさかコイツ俺の知らないところでミーナたちの体を計測して(触って)いたのか。


「ま、まてマオ誤解だ。確かにこの防具は色々体のサイズが分からないと製作できない。俺はそのサイズをカルに聞いたのだ」


カルさんかぁ、それなら分かる気がするな。


オルガの事だから防具について真剣に考えてくれて今回のような防具を考えてくれたのだろう。


そして何となく想像できる。カルさんは無償で情報をくれたりはしない。


それ相応の対価(オルガ自身)を求めたに違いない。オルガを見て確信した。


「そうか、オルガ疑って悪かった。俺たちのためにお前も色々してくれていたんだな」


「おぉ、わかってくれるかマオ。防具を作るためとは言え、カルは容赦しないからな」


何を容赦しないのかは敢えて聞かなかったが、もう一つだけ聞きたいことがあったので俺はオルガに耳打ちした。


「ミーナのサイズだけ教えてくれないか」


オルガがそれを聞いてニヤリとした。


「お主も好きよのぅ」


お前はどこの越後屋だ。


しかし俺はしっかりと聞いた。聞かない訳にはいかない、気になって仕方ないからだ。


取り敢えずミーナ最高だとわかった。


そう言えば今日はミーナ一人で城に行っている。


だいぶ時間が経っているな、何か問題でもあったのだろうか。


そんな事を考えていると廊下をドシドシとした音を立ててやってくる人物がいた。ミーナだった。


ミーナはリンの首ねっこを捕まえて猫のような扱いをしながらオルガの部屋に入ってきた。


「こんなとこにいたのね」


何やら機嫌が悪い。


ミーナはリンを片手で俺に向かって投げ飛ばして部屋を出て行き、隣の部屋にいるカルさんを連れてきた。


リンは俺の膝の上でブルブル震えていた。


狭い部屋に5人が揃い、何事かと思っていたらミーナが話始めた。


「今日アークザリア城に行って国王と話をしてきたけど、あれはダメね」


あれって国王のこと? ミーナどうしたんだろう。めちゃ怒ってる。


「だからアークザリア軍と戦います。明日、戦争します」


俺たち4人が石のように固まったのは当然のことだった。


あんたアークザリア領の勇者でしょ。誰もが思ったに違いない。

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