第十九話 勇者ミーナの身体検査
ミーナに抱きつかれていたとこまで覚えているのだが、それ以降の記憶がない。
背中に衝撃を受けてから俺はどうしていたんだろう。
そんなことも考える間もなく、ミーナとリンが飛び込んできた。
俺は2人を両手で迎え受ける。こいつら本当遠慮なしだな。
2人分の衝撃は、とんでもないぞ。猪の魔物以上の威力なのは間違いない。
「ミーナ、良かった。無事だったか」
俺は、まずミーナに声をかける。ミーナは俺を上目遣いで見てフルフルしている。
「マオくん、ごめんなさい。私、マオくんが助けに来てくれて嬉しかったのに、マオくんに酷いことばかりしてた。酷いことも言った」
「いいよ、ミーナは洗脳されていたんだろう。本心じゃないってわかってるから」
「ミーナは御主人さまを傷つけた。それは間違いない。反省すべき」
リンが厳しいことを言っているが、洗脳されていたら仕方がないことだろう。
まあまあ、と言いながら俺はリンの頭を撫でてやった。
ミーナは涙を流して反省しているようだ。
もしや、洗脳中にあんなこととか、こんなこととかされたのだろうか。
「ミーナ。洗脳中に魔王に何か変なことされなかった?」
泣いているミーナの頭を撫でながら聞いてみた。
するとミーナの身体がビクンと動き、顔を真っ赤にしていった。
「う、うん。多分されてない。時々意識も完全に失くしてた時もあったけど、裸になってたとかそんなことなかったし。大丈夫だと思う。……で、でももしかしたら何かされていたのかも。どうしよう、マオくん、私を調べてくれる?」
ミーナの爆弾発言がきた。
い、いやこれは重要なことだ。ミーナの潔癖を俺が調べなければ誰が調べると言うのだ。
「ミーナの身体を調べるのは……」
「私がします。御主人さま。女性の身体のことは女性が一番良くわかりますから」
ですよねぇ。
俺が調べようと思ったけど、具体的に何をどう調べていいかはわからなかったし、リンに任せようか。
「わかった。じゃあリンよろしくな」
「任せてください御主人さま」
リンも凄く嬉しそうにしていた。そこにオルガたちも近づいてきた。
「マオ、心配したぞ。まさか死んでしまうとは思わなかったからな」
「え? 俺、死んでた」
「そうだぞ、何だか凄い魔族がきて、マオの背中に刺さった矢を抜いてくれなければ今はなかった」
「マオくんのお父さんが来てくれたの。凄い魔力を放ちながら。あともう少しカルさんの結界を張るのが遅ければ何人か死んでたわ」
親父なにしているんだ。いや、しかし、俺の不甲斐ないところを見られたか。
ちょっとへこむなぁ。
「それで、何で俺復活しているの?」
「カルさんがね、治癒Ⅳを取得してマオくんを生き返らしてくれたの」
「カルは優秀」
リンのドヤ顔はイラッときたが、そうか、カルさん治癒Ⅳとかすげぇ。
これで、俺死んでも何回でも平気じゃん。
「カルさん、ありがとうございました」
「いえ、マオさんのお役に立てて私も嬉しいです」
とりあえず今日は、ここでキャンプを張ることになった。
3つのテントを組み立てた。リンがミーナを調べるのに1個余分に必要らしい。
俺は久々に一人ゆっくりと寝ることができる……はずだったが、隣のテントから悩まし気なミーナの声が聞こえる。
「あ、そこ、リンちゃんダメぇ」
「ミーナは感度が良すぎ。魔王にいたずらされていないか、もっと調べる必要があります」
え~と、ミーナとリンが変な道に進まなければいいのだけど。
俺は、悶々としてなかなか眠れなかった。
ようやくひと眠りできた後、リンが俺のテントの中に入ってきてた。
ミーナは、ぐったりしているそうだ。
「御主人さま、ミーナは無罪。全然いたずらされていませんでした」
いや、リンが散々いたずらしてたような気がするけど、魔王と何もなかったのなら良しとするか。
リンは顔を俺の身体に擦り付けてくる。くんかくんかして臭いを嗅いでいるみたいだ。
「御主人さまのニオイは落ち着きます」
いや、リン、本当に落ち着いているのか。
何か息が荒いし、リンのステータスを見ると状態が大興奮になっていた。
コイツ全然落ち着いてないじゃないか。
よく見ると、リンの身体には細かい傷があった。
そうだ俺がミーナを救出しに行ったときにアンデッドたちをリンに任せていたからな。
無事に倒してくれていたんだな。
そう思うとリンも愛しく感じた俺は、治癒をかけてやり身体の傷を癒した。
リンは目を潤ませながら俺を見て、目を閉じた。
…しょうがないな。俺はリンにキスをした。
「御主人さま、最高のご褒美です」
目をトロンとしたリンは幼いながらも色気のある顔をしていた。
さっきまでの興奮は収まったのだろうが、魅了スキルが代わりに発動している。
俺はリンの頭を優しく撫でてやった。
ミーナが起きてきたのは、それから1時間後だった。
あわあわしているミーナは何度見ても可愛い。
「おはよう、ミーナ。落ち着いた?」
「あ、マオくん、おはよう」
そう言いながら俺のそばにパタパタ寄ってきて肩と肩をピタっとくっつける。
甘えてきてるみたいだ。
「もう、離さないからな」
肩に手を回しながら、そう言うとミーナは小さく「うん」と答えた。
傍から見たら完全バカップルだが、久々にイチャイチャできた~。感動した。
「あらあら、さっそく見せつけてくれますねぇ、お二人さん」
カルさんが両手を自分の目のところにやって見えないようにしてますけど、指と指の間をそんなに開けてたら丸見えですよね。
俺たちはその後、軽い食事をしながら話をした。
「今回、魔王を討伐出来たけど、結局魔王は何をしたかったのかな」
カーマ王に魔物大量発生の謎を解くように言われてた気がするけど、魔王と何か関係があったのだろうか。
そんな俺の疑問にミーナが答えてくれた。
「魔王に洗脳されていて、傍にいて気付いたのですが、魔王は人間を嫌っていました。人間を嫌っていた理由は、亜人を差別したり、魔族を襲ったりしてたからです。特にカーマ国は差別が非道いので、人間を殺そうと考えていたんだと思います」
「それで、魔物を洗脳して人間を襲わせていたのか」
「うん、そうだと思う。確証はないけど、魔王はそんな風に考えていた」
「それじゃあ、魔王も倒したし前みたいな数の魔物が襲ってくることはもうないな」
とりあえずお題はクリアの感じがしてきた。上手いこと報告できるよう考えないとな。
「そう言えば、みんなこの迷宮でだいぶレベル上がったんじゃない?」
そう言いながら、俺はパーティのみんなのレベルを確認した。
「あ、私、勇者になったんでした。ステータスをみてみよう」
ミーナ勇者になったのか。どれどれ……。ないわ~。えげつないわ~。
「わ、スキルいっぱい増えてるよ、マオくん」
「耐性」・・・ 洗脳、魅了といった精神的攻撃だけでなく、麻痺、毒といった身体的攻撃にも少し耐性がつく。
「検知」・・・ 魔力感知、生物感知が使えるようになる
「ライトセイバー」・・・剣の刀身に聖なる光を纏い相手を素早く攻撃する。又は剣先に集めた聖なる光を相手に放出する。魔物、魔族に有効。
ヤバイスキルが増えていた。
これ、Lv1多いけど、強くないか。さすが勇者なのか。
「ミーナ凄いな。俺でも倒されてしまいそうだぞ」
「ううん、私はマオくんを倒そうとしたりしないよ」
「どの口が言う。ミーナは御主人さまに襲い掛かってた」
「あ、あれは洗脳されてたし。もう2度とマオくんを襲ったりしませんっ」
いや、俺はミーナに襲われるのは悪くないと思ってるよ。
ただ、新スキルのライトセイバー。それだけは止めて欲しい。
身体が消失してしまったら、カルさんでも蘇生は出来ないだろうからな。
さて、70階もの迷宮をまた戻るのは、一苦労なのだが、ここで勇者ミーナが役立った。
ミーナの転移スキルである。
みんなで手を繋いで一瞬で迷宮入り口まで戻ることができた。
本当は、ホクトの町まで戻りたかったが、Lv1では、そこまで出来ないようだ。
「ミーナ、ありがとう。勇者のスキル凄いな」
「えへへ、マオくんの役に立てて嬉しいよ」
喜ぶミーナは可愛いすぎだろ。
俺は、ミーナの頭をナデナデしてやった。ミーナも満足そうだった。
ここからは歩いて町まで戻る。
魔物の数も少ないし、数日中に戻ることができるだろう。俺たちはホクトの町へ向かった。




