第十四話 さらわれた勇者(見習い)
2日目は一気に30階まで来た。
カーマ迷宮は50階ぐらいと言われていたが、魔王がいるとなると99階まであるかも知れない。
途中、リンの感知スキルで魔物をやり過ごし、最短距離で降りて行く。
レベルもみんな少しずつ上がっていった。
そして3日目。40階のボスは巨大な蛇だった。
レベルは40。そこそこ強い部類だ。しかし、こちらは5人パーティだ。
特に苦戦することなく、ボスを倒した。
そして、41階に降りたとき、俺は魔物のステータスの状態に気付いた。
状態:洗脳(中度) と表示されている。
40階までは、軽度だったことは確認していた。ここからは、中度。
魔王に少し近づいてきたのではないのだろうか。
「洗脳(中度)」・・・・・意思の50%を操られている状態。残り50%も徐々に操られるようになる。
これは、恐ろしい。
知らない間に中度になっていたら、いずれ完全に操られてしまうのではないのか。
実際、半分以上操られている魔物達には、恐怖とか痛みといったものが鈍感になっているように感じた。
つまり、捨て身で攻撃してくるのだ。小さな植物系の魔物でも油断できない。
神経毒や恐ろしい魔力の火炎攻撃などをしてくる。
それでも、油断などしていないと思っていた俺たちは、その後も順調に進んで行った。
45階で虎の魔物10匹くらいと同時に戦っている時だった。
何か嫌な気配がしたと同時に前衛のミーナの近くの空間が歪んだ。
そこから1匹の魔族が出現した。
名前:イー・グレータ・デモン
種族:D魔族
スキル:洗脳Lv5、ファイアLv35、転移Lv1
称号:魔王の眷属
JOB:労魔人Lv45
状態:洗脳(中度)
魔眼でステータスを見つつ、俺はミーナに向かって走っていた。
ミーナは前にいる虎の魔物の相手をしていて、後ろの空間から出てきた魔族に気が付いていなかった。
「ミーナ、危ないっ」
俺の叫び声にミーナが気付いたが、魔族はミーナを抱えてミーナと共に空間に消えた。
ミーナは連れ去られてしまったのだ。
「ミーナ!!」
俺の声に返事などない。俺の魔力感知では、ミーナを感知することはできない。
とりあえず、煩わしい虎の魔物達を瞬殺して、リンの元へ向かった。
「リン、ミーナは、ミーナはどこにいるか分かるか?」
リンの魔力感知は、かなり広範囲まで出来るようになっていた。
迷宮内で言えば上下5階層までは細かく感知できる。
「御主人さま、すみません。私の感知にはミーナは引っ掛かりません」
クソっ。そうなるとミーナは50階より深いところ、恐らく魔王のいるところに連れ去られたに違いない。
下手をすれば99階かもしれない。
もし、ミーナが魔王に洗脳を受けたらどうなってしまうのだろう。
俺はミーナと戦わないといけないのだろうか。
いや、それよりも魔王に従順のミーナなんて見たくない。
魔王の洗脳スキルが中度までならいいが、重度まで可能であればと考えるだけでも恐ろしい。
「オルガ、ミーナを探しにいくぞ。俺も前衛に出てやる。手加減なしの本気でいく」
俺の気迫に押されたのか、ミーナが連れ去られた事の重要性を理解したのか分からないが、オルガは素直に従ってくれていた。
俺はリンに最短距離の指示をお願いした。魔物がいようがおかまいなしのルートだ。
少しでも早く迷宮を降りていきたい。
45階以降の魔物にしても俺にかかれば一瞬だ。
一撃で相手を倒していった。ただ、数は多かった。
俺やリンは、魔法やスキルで複数体討伐することができるが、オルガは1匹ずつしか倒せないし、カルさんは戦闘要員ではないから一度に倒せる数もそこそこだ。
50階で熊の魔物3匹を倒したところ、地下に続く道が見つかった。
やはり、カーマ迷宮は50階以上の迷宮となっていた。
本来なら、ここでキャンプする予定だったが、ミーナを探すために更に進むことにした。
51階からは、魔物ではなく魔族がいた。魔族と言っても魔物の強化版みたいな敵だ。
例えば兎の魔族は、兎の魔物を強化した敵だ。
見た目は魔物と変わらないが体力や力、俊敏性などが大きく向上している。
だが、しょせん兎は兎だ、俺の敵ではない。
俺の敵ではないが、オルガやリンには強敵となっているらしい。
オルガは自身を守れるが、リンは防御力はほとんどない。
時々カルさんが身体強化でリンを補助していなかったら大ケガしていたことだろう。
リンが囲まれそうになった時には、リンに向かった敵を俺が倒していった。
獅子奮迅の活躍と言ってもいいだろう。
俺は依然のブラック企業並みに働いていると思う。
55階でもまだ魔族を一撃で葬ることができる。
パーティの中に怪我人も出ていない。まだまだいける。
俺たちは更に深い階へ降りていった。
60階で狼の魔族2匹を倒した。ここでも瞬殺だ。
しかし、ここで俺は身体の状態に気付いた。
状態:魔力疲労
これは何だ。治癒Ⅲをしても治らない。というか疲労度が増した。
「マオさん、魔力疲労と言うのは普段使っていない魔力を多く使い過ぎたときに起こるものなの。ちなみに私も今日は魔力を使いすぎて同じ状態になっていると思うわ」
そう言ったカルさんの状態をみると、俺と同じように魔力疲労となっていた。
「魔力疲労は、筋肉痛みたいなものなの。私たちは若いから一晩休めば回復するとおもうわ」
「でも、ミーナが。ミーナがまだ見つかっていない」
「マオ、落ち着け。俺たちは今日30階も降りてきている。さすがに集中力だってそんなに持たない。今日はココ60階でキャンプしていくのが良いだろう」
「でも、ミーナが」
「マオさん、魔力疲労をほっとくとドンドン体が重く感じるの。そんな体でミーナさんを救えると思う?」
カルさんの言うとおりだ。実際体はすごくダルくなっている。
安全面を考えればキャンプするべきなのだろう。
「わかった。俺もあせりすぎてたと思う。ありがとうカルさん」
「いえいえ。私もそろそろ限界だったので助かるわ。ミーナさんを助けたい気持ちは私も一緒よ」
そうだ、ここまでカルさんは何も文句とか言わず、治癒や身体強化などの魔法をかけてくれていた。
きっと、俺が不調を感じなければ倒れるまで頑張ってくれたに違いない。
ミーナのことで焦って周りがしっかり見えていなかった。
オルガも分かっていながらついてきてくれたんだな。
そうだ、リンはどうなんだ。リンの状態を見ると同じく魔力疲労だった。
リンも一生懸命やってくれていたんだな。
ミーナの事は本当心配だけど、このパーティの仲間も大事にしないといけないなと思った。
キャンプでは、各々が寝袋に入って寝ることになっている。
今日は特別にリンを俺の寝袋に入れてやった。
リンは珍しく申し訳なさそうに俺の寝袋に入ってきた。
「御主人さま、今日はお力になれなくてごめんなさい」
「そんなことないよ。リンは頑張ってくれていたよ。魔力疲労になるくらいにね。気が付かなくてごめんな」
俺は軽くリンを抱きしめてやる。リンは、あっと小さい声を発して涙を流していた。
感知でミーナをみつけられなかったことを悔やんでいるのか。
しかし、リンで分からなければ、それは仕方がないことだ。
俺はいつものようにリンの頭を撫でながら、深い眠りについた。
目を覚ますと、リンは俺の寝袋から出ていた。
オルガは起きていたが、カルさんはまだ寝ていた。
少し離れたところにいたリンが俺に向かってきた。
「御主人さま、65階のところに強めの魔力を4つ感じました」
「強めの魔力だと? 俺と比べてどうなんだ」
「御主人さまは最強です。御主人さまより強い魔力を持っている者などおりません」
こいつはアホなのか? 親父(魔王)なんか俺の100倍くらい魔力あるだろうが。
俺のこと妄信しすぎだろ。
「もう少し詳しく教えてくれ」
「私では御主人さまの魔力を測ることができません。65階の魔力はこの迷宮で倒してきた魔族達より二つぐらい飛びぬけて大きいです」
オルガが俺たちの話を聞いて近づいてきた。
「ふむ、それは魔王四天王かもしれないな」
四天王。え、それって、よく漫画にあった、ボスの手下の四天王?
この世界にもそういう立場があるのか。
「もしかして、昨日ミーナを攫った魔族って四天王なのかな。レベル45ぐらいだったけど」
「マオ、それは本当か。もし、そうならば良い話だ。四天王は、魔王の傍に居ると言われている。
すなわち、魔王のいる場所はそんなに深くないということだ。それに四天王のレベルが45ならば魔王のレベルもそんなに高くないと推測できる」
オルガの話では、魔王に付いている四天王のレベルは99が普通だそうだ。
それを考えればカーマ迷宮の魔王は最近誕生したばかりなのだろう。
迷宮自体もそんなに深くないのかもしれない。それならば今日中に魔王のところまで辿りついてやる。
ミーナが洗脳されていたら、凄く悲しい。だが、殺されていたら最悪だ。
いや、今はそんな最悪のことを考えている場合ではない。
カルさんもようやく起きたようで、みんなで軽く食事してから迷宮を探索していくことにした。




