第十一話 洗脳魔族の訪問
案内されたオルガの家は、なかなかに広い。
まずは、6人掛けのテーブルについて、お互い自己紹介することになった。
とりあえず、俺が魔族なのは秘密にする。オルガは18歳。カルさんは17歳だった。
オルガは、もっと老けて見えたが種族のせいなのかもしれない。
うちのパーティでは、俺は下から数えた方が早い年齢だ。
ミーナが盾役になるであろうオルガに大して「オルガさん」と呼んでいたが、俺は「~くん」呼びだ。
子供に思われていて、ちょっと悔しかった。
「アイリースのリーダーは勇者(見習い)のミーナでいいのか?」
オルガがミーナを呼び捨てにしたことについて、自分の事は棚に上げ、何か許し難い気持ちになった。
しかし、すぐに俺はミーナの彼氏であることを思い出し、小さいことは気にしないことにした。
あれ? 彼氏で良かったよね。お互い好きなのは知っているけど、付き合うって言ってなかったような。
俺は、やや色ボケの頭で色々考えていた。
「はい、一応私がリーダーになっています。まだまだ、弱いので早く勇者になってレベルを上げていきたいと思います。オルガさん、カルさん、よろしくお願いします」
「ミーナさん、こちらこそよろしくね。アイリースのパーティバランスも良い感じだし、つよそうなパーティですよね」
ちらっとカルさんが俺の方を見ながら言った。
俺は、オルガの恩人だからなのか、カルさんは笑顔を向けてくれる。
「い、一番強いのはマオくんですけどね」
「御主人さまが一番です」
何故か、ミーナとリンが俺を持ち上げている。
カルさんは、「ふふ~ん」と言いながら直球を投げてきた。
「ミーナさんとマオさんは付き合っているんですか?」
「ふえぇっ」
ミーナが顔を赤くしながら変な声を出した。俺は、チャンス到来、ここで既成事実を作ろうと考えた。
「俺たちは、付き合って……」
「付き合ってません。御主人さまとミーナは好き合っているかもしれませんが、付き合ってません」
リンが大声で邪魔してきた。いや、好き合ってるって、その時点で付き合いOKでしょ。
「そうなんだ、付き合ってないけど好き合ってるのね。リンちゃんもマオさんのこと好きなのかな?」
カルさん、見かけによらずズバズバ言ってくる人だった。恋バナ大好きっ子なのか。
「私は、御主人さまのことは好きを通り越して愛しています」
いや、リン、そこはドヤ顔で言うようなことではないと思うが、ホント妹みたいな可愛らしさだ。
「三角関係なんだ~」
いやいや、カルさんパーティ内をかき混ぜないで欲しい。
三角になってませんから、俺とミーナで完結してますから。
「カル、冗談もそこまでにしとけ。ミーナ、私の婚約者が失礼した。」
オルガが間に入ってくれたおかげで、何とかこの話は有耶無耶のまま終わった。
俺は、まず気になったことを聞いた。
それはオルガとカルさんの付き合うきっかけとかではない。
「俺は、先ほどカーマ国王を見たとき、彼は軽度の洗脳を受けているのに気づいた」
「あ、マオくんも気付いたの。私も気になってたんだ」
どうやら、ミーナも鑑定スキルで見ていたらしい。
そう言えばレベルも上がっていたし、状態も分かったのだろう。
「ふむ、ミーナとマオは鑑定持ちだったのか。我らは鑑定スキルを持っていなかったから気付かなかったな」
「軽度の洗脳なら、誰かに操られているわけではないけど中度、重度になると国王だけに大変なことになる」
俺は、ずばり心配事をオルガに伝えた。
「なるほどな、ここ数年でカーマ王が亜人に対して厳しくなったのも洗脳と関係があるのかもしれないな」
「オルガはドワーフ族だから差別はされていないけど、他種族には厳しくなったよね」
オルガとカルさんも王様の変化には気づいていたようだ。リンは下を向いて何か考えている。
俺はリンを膝の上に乗せ、頭を優しく撫でてやった。
リンは驚いていたが、頭を撫でられ気持ちがいいのか、身体を俺に預けてきた。
「まずは、魔物襲撃を調べるためにカーマ迷宮へ行くのと、王様に洗脳してきた者を探しだすことが当面の仕事だな」
「御主人さまの言う通りです」
満面の笑みでリンが答えた。
そこでオルガのお腹が鳴ったので、カルさんが夕食を作るために席を外した。
その後をミーナ、リンが追っていった。
俺とオルガだけが、その場に残された。
「遥か昔の話なんだが」
2人っきりなってオルガが俺に話かけてきた。
「カーマ国は、人間と亜人が共存していた。ただ、人間にも亜人にも悪い奴らはいる。亜人の悪い奴ら、亜人のほんの一部の者だが、彼らが人間に対して非道いことをしたのだ。当時カーマ国に住んでいた人間の8割を殺害した。それも残酷な殺し方ばかりだった。当時のカーマ王は、アークザリア王国に助けを求め、その実行犯である亜人達を討伐した。残った亜人達に罪はないのだが、各街の亜人達は、街を追い出されて、今に至っているのだ」
「いま、カーマ国民がしていることは、昔の悪い亜人達と変わりがない」
「それを言われると正直心苦しい。だが、差別しているのは、全員ではない。私やカルは少なくとも差別意識は持っていない」
オルガは、うちのパーティにいるエルフのリンのことを言っているのだろう。
確かにオルガやカルさんの言動を見るからには問題なさそうだ。
リンには後でオルガ達のことを話しておくか。
「わかった。俺たちはパーティ仲間だ。お互い信用していなければ背中を預けられないからな」
「ありがとう。私とカルは、ミーナが早く立派な勇者になれるように尽力をつくそう」
その後しばらくカーマ迷宮のことについて、オルガから情報を得た。
「お待たせ~」
カルさんが、食事を持ってやってきた。その後ろにはミーナとリンもいる。
食事をテーブルに並べ、美味しい料理を食べた後は、先に俺たち男性が風呂に入り、次に女性陣が風呂に入った。
寝る部屋は、オルガとカルさんの部屋と俺たち3人の部屋となった。
3人部屋のベッドは大きかった。これなら3人も余裕で寝れるだろう。
相変わらずミーナは恥ずかしがっていたが、リンもいるのだし、変なことは出来ないと気付いたのかおずおずとベッドに潜りこんできた。
今日は、ミーナ、俺、リンの順で寝ている。リンは俺の片腕にしがみついて寝ている。
ミーナとは少し離れていたが、俺がミーナの手を握ったら少し驚きながらも離そうとはしなかった。
俺たちは間もなく深い眠りについた。
……どれぐらい時が経っただろうか。俺はある気配で目が覚めた。
ふと隣を見るとリンも気が付いたようで俺を覗きこんでいた。
「大丈夫。ちょっと様子を見てくるからリンは待っていてなさい。いざという時はミーナを頼む」
リンはこくりと頷いた。俺はミーナを起こさないようにベッドを出た。
気配は、家の外の木の上からしていた。ちょうど2階の寝室の窓の外あたりだ。
俺は窓を音をたてないようにスッと開けた。
見えた。木の上に何かいる、あれは魔族だ。すかさず、魔眼でステータスを確認した。
名前:レサー・デモン
種族:D魔族
スキル:洗脳Lv1、ファイアLv1
称号:お使い上手
JOB:労魔人Lv16
状態:驚愕
下級魔族のレッサーデーモンだった。驚いているみたいだし、強そうではないな。
そして、スキルに洗脳あり。こいつを捕まえたら何か王様のことが分かるかもしれない。
俺は2階の窓から一気に魔族のところまで飛んでいった。
魔族は反応が遅れたせいか俺に捕まり、俺と魔族はそのまま地面に落ちた。
着地するときにドーンと音が鳴ってしまったが仕方ない。
「お、お前は何者だ? 只の人間ではあるまい」
魔族は俺にマウントを取られている状態で聞いてきた。
いやいや聞きたいのはこちらですから。
「お前こそ何者だ。何をしにここに来た」
キッと睨みながら聞いたら、俺にビビったのか魔族が先に答えた。
「俺はレサーだ。魔物達を洗脳して街を襲撃させたのに街が何も変わっていないから調べにきたのだ」
「お前が犯人か。王様もお前が洗脳したのか?」
「俺は、魔王アルビド様の命令通り行動しているだけだ。王様など知らん」
ふむ、こいつは王様は関係ないのか。嘘を言っているようには見えないが信用はならないな。
それに魔王だと。魔王が親父以外にいるのか。
「お前、魔王アルビドと言ったな。もしかしてカーマ迷宮の主か」
「ほう、アルビド様のことを知っているのだな。お前はなかなか優秀ではないか」
適当にカマをかけてみたが、やはり迷宮に魔王がいるらしい。
これはマズイな。
魔王の強さがどれくらいかわからないが、親父と互角だったりしたら今の状態では歯が立たないぞ。
家の中からオルガが出てきた。
「マオ、何事だ」
俺の気が一瞬オルガに移ったときに魔族が抜け出し逃げようとしていた。
俺は咄嗟にポーチから竜翼槍を取り出し、ライトスマッシュを放った。
槍は光とともに魔族の身体を貫き、魔族は光の粒子となり飛散していった。
うん、思った以上に強力だった。
オルガは俺の槍の威力に呆れかえっているようだった。
とにかく、わかったことをオルガに伝え、朝になったらみんなで相談することにした。
その時、俺はふと思い出した。魔族のJOBが労魔人だったことに。
あぁ、労魔人について聞くのを忘れていたと……。




