第二十二話
「ねえ、エネア。私はできるだけ自分の力で色々なことを成し遂げたいの。だから先回りして私を助けたりしないでほしいのよ」
言葉で伝えないとすれ違いを生むのは女神様に教えていただいたこと。
「え、でもクラスメイト同士が助け合うのは当たり前でしょ」
「そうじゃなくて!」
「俺達は婚約してるんだ。クラスメイトより助ける量が多くなるのは自然なことだよ」
「エネア!間違わないで!」
エルルはエネアを怒鳴りつけた。
「私達はすれ違って離れていた時があったわね。今度はそうならない為に、私は言葉にしているの。
助けてくれるのはありがたいと思ってる。でも私は苦労してでも自分でやり遂げたい。あなたは聖騎士になる為に私の助けが必要なの?」
「……いや、エルルを護るには自分で努力するしかないと思ってる……」
「でしょう。私も同じなの。あなたの助けは要らないと言っているわけじゃないのよ。見守ってほしいの。私が頑張っているところを見ていてほしいのよ」
エルルはどうか分かってと、エネアを見つめた。
「……分かったよ」
「で、分かってもらって、この状態なの?」
エレノアがケラケラ笑う。
「……そうなのよ」
そう答えるエルルの半歩後ろに立つエネア。
確かにあれ以来、必要以上の助けはないし、婚約前の距離に戻った。距離は戻ったのだが……。
やめてほしい。そのジト目。
後ろから感じる、「構いたい」「構いたい」のオーラ。
「エネア様って、婚約してからエルルへの気持ちが暴走しているわよね」
半歩後ろのエネアにシェリーが話しかけた。
「エルルにとってはかなりウザいと思うわ」
エレノアが畳み掛けるように続いた。
「暴走……。ウザい……」
まるで犬の尻尾が垂れ下がるように、エネアは項垂れた。
「それでね、私調べたのよ。エルルは卒業後直ぐに、聖女として巡礼に出るのよね」
と、シェリーに言われ、エルルは頷く。
「エネア様は聖騎士として、エルルに付き添いたいのよね」
「ああ」
エネアもシェリーに尋ねられ、頷いた。
「でも、聖騎士になるには試験があるわよね。それは卒業後に受けることになる。そして訓練をしてから配属になる。ちょっと時差ができるわよね」
「あっ!」
そうだったとエネアは慌てる。そんな事当たり前だとエルルは思っていたけれど、エネアは失念していたらしい。
「でね、隣国には聖騎士育成専用の訓練学校があるの。そこなら卒業と同時に資格を得られるわ。そうね、今なら二年度に編入できるわね」
「で、でも、それだと二年もエルルと離れることになる……」
「この学園を卒業しても、試験を受けて、訓練を受けたりすると同じくらいにならない?今なら私達がいるし、余計な虫も近づけないけど」
シェリーはそう言いながら、エルルの腕を突く。その様子を見ていたエレノアが更に言葉を紡ぐ。
「そうね、私達も卒業後にエルルが知らない人と旅立つより、エネア様と一緒なら安心だわ」
そしてエレノアもエルルを突いた。
「で、でも……」とエネアは頭を抱えた。
シェリーとエレノアは横からエルルを突き、「今よ!」と押し出した。
「エ、エネア」
「エルル……。君もそうした方が良いのか」
顔を上げたエネアの瞳には、ほんの少し涙が滲んでいた。
「私ね、立派な聖女になるためにこの学園に来たの。でもね、やっぱり初めての巡礼は不安だと思うの。その時にはあなたに居てほしいわ。
だからね、今は離れるのは寂しいけど、この先ずっと一緒にいるために、あなたにはそこで鍛えてきてほしい。私は私で、ここであなたに護ってもらうに相応しい聖女になるわ」
「エルル……」
「ね。私の聖騎士様♡」
「今すぐ手続きしてくる!!」
エネアは走り去っていった……。
「……チョロい」
思わず独り言ちた言葉に、シェリーとエレノアがプーッと笑い出した。
「エルルったら、なかなかのあざとさだったわよ」
「語尾に♡マークつけてたわよね」
ふふふと三人で笑い合った。
「ごめんなさいね。勝手に話を進めてしまったわ。」とシェリーは謝り、エレノアも「私も話に乗ってしまったわ」と頭を下げた。
エルルは首を横に振り、「ありがとう」と言った。
実のところ、エルルは巡礼の最初こそエネアに居て欲しいと思っていた。聖女としての覚悟はあったが、最初の一歩は誰だって怖い。けれど聖騎士の訓練学校があることなど知らなかったから諦めていた。
「シェリー、よく隣国の聖騎士の訓練学校なんて知っていたわね」
と、エルルは尋ねたが、シェリーは「まあね」と答えるだけだった。
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