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第67話: 地平線の影

夜はまだ南の地を覆っていた。


だが、誰も眠ってはいなかった。


誰も本当に目を閉じることなどできなかった。


ムシャフ王国の高い城壁の上では、数十本のたいまつが石に留まった小さな星のように明るく燃えていた。


冷たい風が吹き渡る。


土のにおいを運んでくる。


ほこりのにおいを。


そしてゆっくりと……


死のにおいまでも。


ムシャフ王国は再建されたばかりだった。


かつてアケディアの襲撃で崩れ去った石の壁が、今は再び堂々とそびえ立っている。


家々が建ち直され、店々が営業を始め、子供たちは一時、再び外で遊ぶようになった。


民衆は皆、すべてが元通りになると信じかけていた。


だが今となっては……


その希望のすべてが、再び試されようとしていた。


王国の大通りでは、住民たちが続々と避難所へ向かって移動していた。


子供たちは抱きかかえられ、荷物は持てるだけだけ運ばれる。


パニックの叫び声はない。


だが彼らの顔には、皆同じ恐怖が浮かんでいた。


五年前、魔王がまだ生きていた時代に味わった、あの恐怖と同じものだった。


城壁の最上部には……


ガルドロスがただ一人、立っていた。


長いローブが風にゆっくりとはためき、彼の傍らには巨大な石の戦斧が置かれている。


彼の瞳は遠くの暗い平原をじっと見つめ、瞬きもせず、身じろぎもしない。


まるで王国を守る石の彫刻のように。


その下の地面では……


地の底から現れたあの怪物が、なおも動き続けていた。


体中に亀裂が走り、崩れかかっているにもかかわらず、その破片は再び一つに結びついていく。


黒い土が液体のように流れ、砕けた骨が次々と生え直し、古い鎖が体全体にわたってカタカタと音を立てている。


あの怪物は、まだ死んではいなかった。


一人の指揮官が彼のもとへ近づいてくる。


荒い息遣いを抑えながら、


「師匠殿」


ガルドロスはわずかに顔を向ける。


「何だ」


「弓兵隊、配置完了しました」


「魔術師団、準備が整いました」


「全軍、戦闘態勢に入っています」


ガルドロスは少しの間黙り込み、やがて口を開く。


「いや」


指揮官は困惑した表情を浮かべる。


「……いや、とは?」


「彼らはまだ『本当の意味で』準備ができてはいない」


指揮官はそれ以上何も言えなくなった。


彼には分かっていた。


ガルドロスの言葉が正しいことを。


「定位置に着くこと」と「心身ともに備えること」は、まったく別の意味なのだ。


城壁のはるか外側で……


怪物が再び雄叫びを上げる。


その恐ろしい響きが夜の空全体に満ち渡り、地面がまた激しく震え始めた。


ガルドロスは短く息を吐き、静かに城壁を下りていった。


戦場の北側


その頃……


四つの人影が深い森を、まるで風のように駆け抜けていた。


木々の枝が次々と折れ、落ち葉が宙を舞う。


アキハラ、リオーラ、ケイリス、セイラ。


彼らはもう何時間も休まず走り続けていた。


立ち止まることも、休憩を取ることもない。


一秒一秒が誰かの命に直結することを、彼らはよく知っていたからだ。


やがてケイリスが足を緩め、息を切らしながらつぶやく。


「……長旅なんて、まっぴらだ……」


セイラがすぐに返す。


「今更それを言うの?」


「朝からずっと嫌だと思ってたんだ」


ケイリスは不満そうに口をとがらせる。


リオーラは思わず笑みをこらえながら言った。


「少なくとも文句が言えるうちは、まだ生きてる証拠だよ」


「励ましになってるのか、それ?」


一瞬だけ、重苦しい雰囲気が和らいだ。


だが、それもほんの束の間のことだった。


数秒も経たないうちに……


アキハラが突然足を止めた。


他の三人もすぐに立ち止まる。


風が吹き渡り、


遠くの空に……


何かが見えた。


黒い煙が、ゆっくりと天に向かって立ち上っている。


量は多くない。


だがそれだけで、四人の表情が一斉に硬くなるには十分だった。


セイラの瞳が鋭く細まる。


「……ムシャフ王国の方角だ」


リオーラは杖を強く握りしめ、指先の周りに小さな稲妻が走り始める。


ケイリスの冗談めいた調子は、完全に消えていた。


そしてアキハラは……


ただ黙っているだけだったが、その足取りは再び動き出し、


先ほどよりも、さらに速くなっていた。


ムシャフ王国にて


地の底から現れた怪物は、再び攻撃を仕掛けてきた。


体のあちこちから無数の腕が突き出し、四方八方を掻き回す。


ドオーン!


地面が陥没し、石礫が飛び散る。


だが次の瞬間、巨大な石の壁が地中からせり上がり、すべての攻撃を遮った。


ガルドロスがその壁の前に立っていた。


まるで動かすことのできない山のように、落ち着き払っている。


兵士たちは一斉に歓声を上げた。


だが、誰もが喜んでいるわけではなかった。


王国の研究官たちの中にいた一人の老学者が、まるで血の気を失ったように蒼白な顔で、怪物を凝視していた。


その目には、極限の恐怖が宿っている。


「……まさか……こんなはずはない……」


周りの者たちが次々と顔を向ける。


「どうしたのです、先生?」


老学者は体を震わせながら、絞り出すように言った。


「……昔の文書で、この姿の絵を見たことがある……」


「……何百年も前の古い記録の中に」


一瞬、場に静寂が訪れる。


「その名は……」


「ネルクールだ」


周囲の者たちは互いに顔を見合わせる。


誰もその名を聞いたことがなかった。


老学者は続ける。


「大地を喰らう怪物と呼ばれていた存在だ」


「とうの昔に絶滅したはずの種族だった」


「その記録は非常に少なく、ただ存在が記されているだけで、」


「どうやって倒せばいいのかさえ、何も書かれていない」


空気が一気に重く、息苦しいものに変わった。


誰もがはっきりと悟った。


自分たちが今、歴史さえも完全に把握していない未知の存在と戦っているのだということを。


遠くの丘の上


レイゴールが静かに立っていた。


風が彼の髪をなびかせ、その背後には四体の巨大な不死者が従っている。


まるで生ける山々のような姿だった。


彼の瞳は、ムシャフ王国の方向を長い間見つめていた。


やがて……


鼻で軽くあざ笑うような息を吐く。


「……遅すぎる」


背後の一体の不死者が低く雄叫びを上げる。


レイゴールは不機嫌そうに顔を向ける。


「お前たちがカタツムリのような歩調を続けるのなら、」


「先にお前たちを壊してやる」


その言葉を聞くと、不死者たちはたちまち黙り込んだ。


レイゴールがゆっくりと歩き始める。


一歩踏み出すごとに、


ドスン、


地面が大きく揺れる。


二歩目を踏み出すと、


またドスンと、地響きが響く。


四体の不死者も、ゆっくりとその後に続き始めた。


そしてこの瞬間から……


真の侵略戦争が、本格的に動き出したのだった。


世界の西側


これらすべての出来事から遠く離れた場所で……


ズワが岩山の上に立ち、ただ見守り続けていた。


状況を読み解こうと集中していたが、


見れば見るほど、胸の奥に嫌な感覚が広がっていくのを抑えられなかった。


魔王の領域の周囲……


彼の視界に映ったものは、


一体、二体ではない。


無数の黒い影が、遠くの闇の中でゆっくりと動いているのだ。


魔力を持たない、未知の種族。


彼自身ですら、見たことも聞いたこともない存在たちだった。


ズワは拳を強く握り締める。


「……これはまだ、序章に過ぎないのか……」


風が冷たく吹き渡り、


この時初めて彼は、この世界が五年前の戦いよりも、さらに大きな危機へと向かっているのかもしれないと、はっきりと感じ取っていた。


ムシャフ王国に戻って


ネルクールが再び雄叫びを上げ、体をさらに大きく膨らませていく。


だが今度は、ガルドロスが待つことはなかった。


彼は手に持った戦斧を高く掲げる。


周囲の地面や石塊が激しく震え、


大地が隆起し、無数の岩が一つに集まり始める。


兵士たちは息を呑んでその光景を見守っていた。


次の瞬間、


ガルドロスが戦斧を力いっぱい振り下ろす。


ドオオオオーン!


巨大な岩の塊が一斉にネルクールへと叩きつけられた。


怪物の体は粉々に砕け、骨が飛び散り、鎖も次々と断ち切られていく。


辺り一面に土煙が立ち込め、


この時初めて、ネルクールの体が動きを完全に停止した。


歓声が一斉に上がる。


「師匠殿!!」


「勝った! 怪物を倒した!」


「我々の勝利だ!」


だが……


ガルドロスだけは、決して喜びの声を上げなかった。


彼の瞳は、遠くの彼方を凝視していた。


土煙がただの塵ではないことを、彼は見抜いていた。


何か巨大な存在が近づくことで巻き上がる、その土煙だった。


やがて……


闇の中から、四つの巨大な影が姿を現す。


不死者たちだ。


そしてその先頭に立って、一人の男がゆっくりと歩いてくる。


濃い赤色の闘気が、周囲の空気を染め上げ始める。


レイゴールが、ついに到着したのだ。


兵士たちは一瞬にして凍りつき、


その姿を見ただけで、多くの者が立っている力さえ失っていた。


レイゴールはガルドロスをじっと見つめ、


ガルドロスもまた、視線を返す。


まるで二つの怪物が、互いに力を測り合うように睨み合っていた。


レイゴールは口の端を歪め、不敵な笑みを浮かべる。


「お前が『石の師匠殿』か」


ガルドロスは戦斧を強く握り直し、冷たく答える。


「そしてお前こそ、七つの大罪の一人であるレイゴールだな」


レイゴールは声を上げて高らかに笑い出す。


次の瞬間、彼の体から真っ赤な闘気が爆発的に吹き出した。


ドオーン!


夜の空が一瞬にして血のような赤色に染まり、城壁全体が大きく揺れる。


兵士たちは恐怖に駆られて後退する。


だがその直後……


城壁の上にいた一人の弓兵が、遠くの地平線を指差して叫んだ。


「……待て!」


「あれは何だ?」


全員が一斉に視線を向ける。


はるか遠くの闇の中に、


四つの小さな点が見え、次第に大きくなりながら近づいてくる。


速度はどんどん上がり、


次の瞬間、突風が渦を巻き、稲妻が閃き、水の粒が宙に浮き上がり、


闇の彼方から、炎の光が小さく輝き始めた。


ガルドロスの瞳が、わずかに大きく見開かれる。


侵略が始まって以来、この時初めて……


彼の厳しい顔に、微かな笑みが浮かんだ。


「……やっと、来たか」

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