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第11話:気まずい夜

日の丸村の夜は、非常に穏やかだった。


柔らかい風が小さな木造の家々の間を吹き抜け、遠くの畑からは虫の音がかすかに漂ってくる。


だが、不知火明原の質素な家の中はというと……その雰囲気はどこかぎこちないものだった。


木のテーブルの上には、油ランプがほの暗く燃えている。


この部屋には、かつて世界最大の脅威と戦った二人が立っていた。


だが今、彼らを悩ませているのは、その時とは比べものにならないほど単純な問題だった。


寝る場所のことだ。


リオラ・レイゼンは胸元で腕を組み、小さな家の中を見回している。


「それで……」彼女は静かに言った。


「部屋はここ一つだけなの?」


明原は頷く。


「ああ」


短い返事。


リオラはため息をついた。


てっきり、もう一部屋くらいはあるのかと思っていたのだ。


だが実際には、ベッドが一つ置かれた寝室が一部屋あるだけだった。


明原はそのベッドの方を指さす。


「お前はそこで寝ろ」


続けて、窓際にある小さな木製のソファを指さす。


「俺はこっちで寝る」


だが彼がソファへ向かって一歩踏み出す前に――


「いや」


明原は足を止め、振り返る。


リオラは明らかに不満そうな表情で彼を見つめていた。


「いやって、どういう意味?」


「私たちは赤の他人じゃないでしょ」


彼女の声ははっきりとしている。


「一緒にアルギエル・ルシファーと戦った仲よ?」


彼女は真っ直ぐに明原を見つめる。


「それなのに、まるでただのお客様扱いするの?」


明原は言葉を失った。


彼はただ礼儀を尽くそうと思っただけだったのだ。


だがリオラは、そんな考えが気に入らないようだ。


数秒間、二人はただ見つめ合っていた。


やがて明原はため息をつき、折れることにした。


「わかった」


彼はベッドを指さす。


「二人でそこで寝よう」


リオラは満足そうに頷いた。


だがすぐに、もう一つ条件を付け加える。


「赤ちゃんは真ん中に置くのよ」


明原は抱いていた赤ん坊の方を見た。


深紅の瞳をした小さなその子は、小さな声を上げた。


「……あぅ……」


そう、ノアだ。


明原はやがて頷く。


「それがいいだろう」


間もなくして油ランプの火が消され、


部屋は暗闇に包まれた。


窓からは月明かりだけがそっと差し込んでくる。


小さなベッドの上には、今や三人が横になっていた。


ノアが真ん中。


その一方に明原。


もう一方にはリオラ。


だがその雰囲気は、かつての戦場にいた時よりも、ずっと張り詰めていた。


明原は壁の方を向いて横になり、


目を閉じようとするのだが、


心臓の鼓動がいつもより少し速い。


この村で一人で生活するようになって、もう二年。


彼の生活は穏やかで、


単純で、


こんな風に心が波立つことなどなかったのだ。


背後には……


リオラの存在があるのがはっきりと感じられる。


こんなにも近くに。


一方のリオラも、まったく眠れないでいた。


彼女は天井を見つめ、


頭の中は混乱していた。


「私……本当に彼の隣で寝ているんだわ……」


頬が熱くなってくるのを感じ、


彼女は慌てて顔を横に向ける。


こんな顔、明原に見られるわけにはいかない。


だがその時、ノアが突然小さな声を出した。


「……のぅ……」


リオラがそちらを向くと、


赤ん坊は二人の間で少しだけ体を動かした。


それと同時に、明原もこちらを向いたのだ。


一瞬、二人の視線が交わった。


だがすぐに、まるで何かに焼かれたように、二人同時に顔をそらす。


再び沈黙が部屋を満たし、


やがて夜はゆっくりと明けていった。


朝の光が窓から差し込み、


遠くからは鶏の鳴き声が聞こえてくる。


明原はすでに起きていて、


小さな台所で簡単な朝ご飯の支度をしていた。


間もなくしてリオラが部屋から出てきた。


だが彼女は、いつものグランドマスターとしての装いのままだった。


明原はすぐに彼女の方を向く。


「その服はこの村では着られない」


リオラは眉をひそめる。


「なぜ?」


「目立ちすぎるんだ」


明原は彼女の着ているグランドマスターのローブを指さす。


あんなものを着ていれば、村人たちはきっと不審に思うに違いない。


リオラはあまり気に入らない様子だ。


「つまり、あなたの古い服でも着ろと言うの?」


明原は少し考えてから、


家の隅にある古い箪笥のところへ行き、


それを開けて一着の服を取り出した。


質素な作りだが、手の込んだ、


村の娘たちが着るような軽やかなワンピースだ。


「これがあった」


リオラはゆっくりとそれを受け取る。


「まさか、女性用の服を持っていたの?」


明原は落ち着いた声で答える。


「母の形見なんだ」


リオラの動きがピタリと止まった。


彼女はその服を大切そうに眺める。


「それなら……着られないわ」


「どうして?」


「もし汚したり、破いたりしたらどうするの?」


明原はゆっくりと首を振る。


「母が残してくれてから、もう随分長い時間が経っている」


彼はしばらくその服を見つめ、こう続けた。


「もし誰かが着てくれるのなら……母もきっと喜んでくれると思うんだ」


リオラは黙り込んだ。


数秒後、ようやく小さな声で答えた。


「……わかったわ」


彼女は服を持って再び部屋へ戻った。


数分後、部屋の扉が開いた。


リオラが出てくる。


ノアを抱いていた明原はすぐにそちらを向き、


そして、しばらくの間、言葉を失っていた。


質素なそのワンピースは、リオラにとてもよく似合っていたのだ。


銀色の髪が肩に柔らかくかかり、


飾り気のない服装が、かえって彼女の美しさを自然に引き立てている。


明原はようやく、静かに言葉を発した。


「お前……とてもきれいだ」


たったそれだけの言葉。


だがその効果は絶大だった。


リオラの心臓はまるで殴られたように高鳴り、


頬は一気に真っ赤に染まった。


彼女は慌てて顔をそらす。


「当たり前でしょ」


わざと冷たい声を出そうとする。


「いちいち言わなくてもいいのよ」


だが心の中の鼓動は、ますます速くなるばかりだ。


それから少しして、彼らは家を出た。


明原はノアを肩の上に乗せ、リオラはその隣を歩く。


彼らの姿を見た村人たちは、皆笑顔で挨拶をしてくれた。


だが数秒後――


大きな誤解が生まれた。


「あら?」


年配の女性が大きな声で言う。


「アキラくん、奥さんを連れてきたのかい?」


他の村人たちも注目する。


「本当だ!」


「とてもきれいな奥さんだねぇ!」


「それに赤ちゃんもかわいい!」


リオラは足を止め、顔を真っ赤にした。


「え、えっ?!」


明原も少し照れくさそうだ。


「そういうのではなくて――」


だが村人たちは笑いが止まらない。


「いつ結婚したのかね?」


「話が早いものだなぁ!」


リオラはもう何も言えず、ただ早足で歩き続けるしかなかった。


明原は頭をかきながら後を追う。


だがそんな村の雰囲気は、どこか温かく感じられた。


しばらく歩いた後、


明原は小さな建物の前で足を止めた。


村の図書館だ。


彼はリオラに向かってささやく。


「見せたいものがあるんだ」


リオラはすぐに興味を示す。


二人の中へ入ると、


木製の棚には古い本がぎっしりと並んでいた。


明原はその中から大きな本を取り出した。


歴史書だ。


アルギエル・ルシファーに関する記述があるページを開く。


リオラが真剣に読み始めると、


明原はある一つの名前を指さした。


レイラー・ゼルナルダ。


リオラは眉をひそめる。


「……これは誰の名前?」


明原にも、はっきりとしたことはわからない。


リオラはもう一度その部分を読み返す。


「レイラー・ゼルナルダ……アルギエル・ルシファーの伴侶……」


彼女は驚きの目で明原を見つめる。


「待って」


「魔王に妻なんていなかったはずじゃない?」


明原はゆっくりと頷く。


「だからこそ、俺は気になっているんだ」


その時、肩の上にいたノアが突然、楽しそうな声を上げた。


「……ばっ!」


リオラがそちらを向くと、赤ん坊はくすくすと笑っている。


まるで、何か面白いことが起きるのを知っているかのように。


だが不思議なことに――


二人の心には、どこか胸騒ぎのようなものが生まれていた。


日の丸村から遠く離れた地。


エーテリオン王国と呼ばれる大国の、


質素な宿屋の一室で。


一人の女性が突然、目を開けた。


セラフィナ・ヴェルクレスト。


『水帝』と呼ばれるグランドマスターだ。


彼女はすぐに体を起こし、


心臓は激しく鼓動していた。


何かを感じたのだ。


計り知れないほどの膨大な魔力の波動。


それは王宮にいる国王自身にも、はっきりと届いていた。


セラフィナは立ち上がり、


宿屋の外へと飛び出す。


夜風が激しく吹きつける中、


彼女は遠く西の方角を見つめた。


ここからはるか彼方の地を。


彼女の瞳が大きく見開かれる。


「この力は……」


はっきりとわかる。


これは空からのものではない。


地上からのものでもない。


地の底から……湧き上がってくるのだ。


何か巨大な存在が、


まるで長い眠りから覚めようとしているかのように。


セラフィナは小さくささやいた。


「……大きな何かが、起きようとしている……」


東の果てにある日の丸村では、


明原の肩の上でノアがまた小さく笑っていた。


そして世界の歯車は、再びゆっくりと動き始めたのだった。

「次回更新: 4月 14日 20:20」

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