第36話 初めての育児、幸せな日々
心配してた出産も無事に乗り切り、初めての赤ちゃんにメロメロの3人。
「かわいいわねぇ。この目元とか私に似てない?」
「アリナのDNAは入ってないはずなんだが。」
「でも確かに私やユキよりアリナ似かも?不思議だね。」
「無意識にお母さんが2人いることが分かっているのかも。ね、のんタン。」
「本当にのんタンで通すつもりなのかよ…。」
「あら、愛称って大事よ。私だって子供の頃はアリナンって呼ばれたんだから。カノンは?まさかノンタン被り?」
「いや、それは無いけど…。素直にエリーでいいじゃん?」
カノンとユキは娘に「エレイシア」という名前を付けた。この世界で「希望」を意味する単語で、名前の響きや意味も悪く無い。また、わりと良くある名前なので悪目立ちしないようにという配慮もある。
だったら愛称くらいは凝ったものをつけてあげよう!エレイシア…エリー、エリア、シア…。うーんしっくり来ないな。希望って意味だからそこから…きぼう、ホープ、のぞみ…。のぞみちゃん、からの「のんタン」!これだ!カノンのノンとも掛かってて良いんじゃ無い!?
と言うことで自信満々に提案した「のんタン」はカノンとユキには不評だった。なので私が勝手に呼ぶことにしたのだ。
「あぁー、のんタンかわゆ過ぎる。ほらほらアリナお母さんですよー。」
「あびゃーっ!あびゃーっ!」
「むむ、ウンチかな?ちょっとお尻をを失礼…やっぱりだ。いまキレイキレイしましょうねー。よし、キレイになった!」
「きゃっきゃ!」
「のんタンも嬉しいねー。つんつん。ああかわいい。あ、カノンお母さん!そろそろおっぱいじゃない?」
「確かにお口パクパクし始めたね。エリー、おいで。」
カノンがのんタンにおっぱいをあげる。ちくしょう!私も授乳してえ!
「んく、んく、ぷはぁ。」
「もうお腹いっぱいかな?お背中トントンしようねー。」
「させて!私にお背中トントンさせて!」
「アリナのお背中トントンが上手過ぎるせいか私だと中々ゲップしてくれないんだけど…まあいいか。はい、よろしくね。」
「のんターン、寂しかったよー。ほらトントンしようねー。」
「アリナ、そろそろ仕事行かないと時間ヤバくない?」
「もうそんな時間!?クソ、仕事辞めたいなあ!なんでこの世界には育休制度が無いんだよ!」
「制度があってもアリナが取れるかは怪しい件。」
「仕方ない、行ってくるわ。のんタン、カノンお母さんで我慢しててね!アリナお母さんも頑張って早く帰ってくるから!」
何を隠そう一番メロメロなのは私だった。赤ちゃんの破壊力ヤベェ。
夜はずっとのんタンと一緒に居られる。夜泣き?ずっと抱っこしてやんよ!寝不足?ここで『眠気覚まし』を使わずにいつ使う!?
そんな感じでのんタンが寝ない時はチャンスタイムとばかりに構った。唯一授乳が出来ないことだけが悲しい。
「『授乳』の術って無いかしら?作っておけば良かったわマジで。」
「無くて良かったよ、冗談抜きで。」
「だけどアリナが構ってくれるから俺もカノンも本当に助かっている。覚悟はしていたがこんなに一日中泣いてるものだとはな。」
「ホント、私1人だったらしんどかったよ。エリーの相手してると碌に家事が出来ないからね。アリナお母さんありがとうね。」
「でも私ばっかりのんタンのカワイイところを独占してなんか申し訳ないわ。譲る気も無いけど。」
「私はアリナが仕事に行ってるあいだベッタリだから。」
「ちくしょう!やっぱり仕事やめたい!」
「俺も毎日数時間はスキンシップを取ってるからな。この子を見るだけで疲れが取れて明日も頑張ろうって思える。」
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そんな感じで平和な時間を過ごし、あっという間に数年。のんタンは美少女に成長してトコトコ歩いてる。
「ありなおかあたん、のんたん、おさんぽいく。」
「行く行く!」
「エリー、お片付けは?」
「や。えりいは、いないの。のんたんなの。」
のんタン…二つの名前を都合よく使い分けるとはやりおる。その強かさに感動を覚えつつも躾は躾だ。
「じゃあのんタンがエリーの分までお片付けしないといけないんじゃない?」
「おもちゃだしたのは、えりいだよ。」
「でものんタンも遊んだ、でしょ?」
「…うん。」
「お母さんもお手伝いするから、一緒にお片付けしよう?」
「わかった。アリナおかあさんだいすき!」
フフ、株ブチ上がりである。
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「エリーには魔術の才能があるね。」
「最近無意識に魔力を練ってるわよね、あの子。」
「赤ちゃん時代から魔力マッサージしてたからね。どや!」
コイツ、そんな事をしていたのか!
「魔力の使い方とかは私が教えるよ。ユキとアリナはあの子が危険な魔力の使い方をしたら叱ってくれる?」
「了解!」
「わかった。」
………。
「かのんおかあさん、できたよ!」
「エリーは本当に筋がいいね。」
魔力を使って物を動かす。サイコキネシス的な術を使いこなすのんタン。3歳児でこれは末恐ろしいのでは無いだろうか。
「これが出来るとお片付けが楽ちんになるね。」
「うん!えりい、おかたづけとくい!」
最近は使い終わった食器を棚に戻すのも手伝っている。こんな便利な術があるのにカノンはなぜ今まで碌に使ってこなかったのかと聞けば「戦闘にはまるで役に立たないから」だそうだ。手を触れずに物を動かせる術だが、そこに運動エネルギーを加えるのは非常に魔力効率が悪く、例えばナイフを人に向けて飛ばそうとして戦術として実用レベルまで加速させようとするくらいならその魔力を直接撃ち込んだ方が何倍も殺傷力がでるとの事だ。
「でも高いところに物を置いたり取り出すには便利な術だよね。エリーにはこういう『念動力』みたいな生活が便利になる術をしっかり教えるよ。」
「かのんおかあさん、えりいふらふらする。」
「魔力の使いすぎだね。エリー、フラフラしてる時に無理して魔術を使っちゃダメだよ。死んじゃうからね。」
「しんじゃうってなあに?」
「エリーが寝たまま二度と起きられなくなること。お父さんとお母さん達にも、もう会えなくなっちゃうよ。」
「そんなのやだ!」
「うん。だから頭がフラフラしたら魔術は禁止。わかったね?」
「わかった!おやくそく!」
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます。」
「はりせんぼん?」
「お母さん達が昔住んでた所にいたお魚だよ。トゲトゲがいっぱい付いてるの。」
「やだー、そんなののめないよー。」
「うん。だからお約束、守ってね。」
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「やだやだ、今日はおとうさんとピクニックに行くの!」
「仕方ないでしょ、急にお仕事入っちゃったんだから。」
「ごめんな、エリー。次のお休みの時には必ず行くから。」
「うわああぁぁぁあん!おとうさんのばかあああぁぁぁあ!きらい!
「ぐぅっ…!」
「エリー、お父さんを困らせたらダメだよ。ユキもそんなこの世の終わりみたいな顔してないでさっさとお仕事行って来なよ。」
「カノンは娘に嫌われた父親の気持ちが分からないんだ…。」
「今からそんなこと言ってたら思春期入る頃には生きていけないよ?…ほらエリー、お父さんに行ってらっしゃいとごめんなさいは?」
「ひっく…ひっく…。おとうさん、いってらっしゃい。あと、きらいって言ってごめんなさい…。」
「ああ、お父さんこそ約束守れなくてごめんな。」
「ひっく…。次にお約束やぶったらハリのお魚食べてね。」
「わかった、約束する。」
ああもう、愚図るのんタンも可愛いなあ。
………。
「今日はしっかり休みが取れて良かった。」
「ぴくにっくー、ぴくにっくー。」
「のんタンもご機嫌だね。」
「そこの丘でお弁当食べようよ。」
「わーい!」
日を改めて4人で出かけたピクニック。事前にリサーチしておいた見渡しの良い丘の上でみんなでお弁当を食べた。昼食後、のんタンはユキを連れてそこら中を走り回っている。
ふと気がつくとカノンが大きな木の横で街の方を見ていた。
「どうしたの?」
「ここからなら街全体が見えるかなって。」
「そうね。良い場所だわ。風も気持ちがいいし、絶好のピクニック日和ね。」
「えいっ。」
カノンは荷物から1本の剣を取り出すと、そこにあった岩に突き立てた。キンッという大きな音を立てて、剣は岩に突き刺さる。
「は?岩に剣って刺せるの?」
「上手く刺さって良かったよ。折れたら打ち直して貰わないといけない所だった。」
「ぶっつけ本番かよ。…これってコウの剣?」
「うん。ここって穴場的な場所で誰も来ないから、お墓にするならここかなって。街がよく見えるでしょ?」
「そんな事考えてたの?」
「アリナ。私が先に逝ったらさ、ここにお墓を作ってくれる?」
「いやよ。私とのんタンを遺して逝くなんて許さないから。」
「そりゃ私だってまだ死ぬつもりはないけどさ、こういうのって気付いた時に言っておかないとじゃん?」
「そうだけど…。」
「まあ伝えたから安心かな。アリナはなんだかんだちゃんとしてくれるもん。…って何で泣くの?」
「カノンが死んじゃうなんてヤダァ…。」
「いつかの話!まだ死なないから!殺すなよ!」
「いやだぁああ…。」
もしもカノンが居なくなったら…そう考えただけで涙が止まらなくなる。いやぁ、人間年をとると涙脆くなりますね。
「あーっ!かのんおかあさんがありなおかあさんを泣かせてる!」
「いや、これは違くてアリナが勝手に!ほらもう泣き止みなよ面倒くせぇなあコイツ!」
「ありなおかあさん、のんたんがイタイのイタイのとんでけしてあげるね。イタイのイタイの、かのんおかあさんにとんでけー!」
「何で私なんだよ!?」
「かのんおかあさんが泣かせたからだよっ!」
「アハハ、のんタンありがとう。もう大丈夫だから。」
「良かったー!」
太陽のような笑顔で笑うのんタン。カノンも仕方ないなって顔で苦笑いしてて。カワイイのんタンがいるとこんな何気ないやり取りも心の底から楽しくて、今の幸せがずっと続けばいいなって素直に思えた。
そこにユキが少し遅れてやってきた。
「エリーはおてんばだな。お父さんはクタクタだよ。…これは、コウの剣か?」
「うん。ここなら街全体が見渡せるでしょ?」
「そうだな。俺たちの墓を建てるならここだな。」
「ユキまでカノンと同じことを言うんだから、このバカ夫婦。」
「まだまだ先の話だ。こんなかわいい盛りの娘を遺して逝けるわけないだろ?」
「そうそう。なのにアリナったら想像だけでボロ泣きするんだよ?」
「仕方ないじゃない!」
「ねえねえ、なんのおはなし?」
「この剣はお父さん達の大切なお友達の形見なんだ。みんなでここに来れて良かったなってお話をしてたんだよ。」
「かたみ?」
「思い出の品だ。刃を触ると痛いから気を付けなさい。アリナお母さんが治してくれるとはいえ、痛いのは嫌だろ?」
「はーい!」
「さて、そろそろ帰ろうか。」
「ねえおとうさん、えりぃ疲れちゃった。肩ぐるまして?」
「ああ、いいぞ。」
「また甘やかして…。」
「今だけだからな。いいじゃないか。エリーには出来るだけ楽しい思い出を作って欲しいんだ。」
「やった!おとうさん大好き!」
のんタンを肩車したユキの両サイドに私とカノン。並んで家路に着く。のんタンがご機嫌に歌を歌えば私たちは合いの手を入れて。家族揃って夕焼け道を仲良く歩く。この時は確かに幸せだったんだ。
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だけど幸せな日々は長くは続かない。ある晩、ユキが私とカノンに告げる。
「熱が出た。おそらくコウの時と同じだ。」
この世界の神というやつはとことん私達を突き落としたいらしい。クソッたれが。




