第24話 魔王城
要塞都市を拠点に魔族国の攻略も大詰めを迎えた…かに思えたが、他の主要都市はさらに強固な守りを見せた。兵糧攻めも上手くいかず、結果的にかなりの時間と人手をかけてひとつひとつ陥落させて行く。
要塞都市攻略からあっという間に数年が経ち、ついに魔族国の王都を攻め落とそうかという段階になった時には私たちが召喚されてから10年が経とうとしていた。
「やっと最後の戦いだな。」
「まさか10年も戦争するなんて思わなかったわ。」
「魔族国側も降伏してくれれば良いのにな。」
「半ば意地なんでしょうね。」
「うーん、意地だけでここまで徹底抗戦できるものかな。もう結果は見えてるじゃない?」
「どうしても降伏できない理由でもあるって事か?」
「わかんない。まあ魔族国側の事情は私達には関係ないしね。」
というわけでついに王都を攻め落とそうかという話である。王都と言うだけの事はあり、これまで占領してきた街や都市と比較してもさらに一回りも二回りも大きな都だ。その攻略はさぞかし苦労するであろうと想像ていたのだが。
「人が居ないだと?」
「はい。中に住む者は以前から少しずつ脱出していたようですでに王都の都市としての機能はほぼ停止しているようです。」
「魔王は?」
「少数の部下共に王城に居るとのこと。」
「罠の可能性は?」
「高くは無いかと。」
「ふむ…どうしたものか。」
中に調査に入った諜報の話によれば、それこそ最初の要塞都市を攻略した直後より人の脱出が始まり、市民のほとんどは既に王都には居ないとのこと。それどころか王都の門は開け放たれ王国軍にどうぞ入ってくださいと言わんばかりの状況であった。そんな状況を受けて王国軍総司令部の決断は。
「明日、王都内に全軍で突入。王城を包囲し四方より一斉攻撃とする!」
まあ奇策があるわけでもなく、至って普通に攻め込む事になった。
………。
王都の攻略には過去1番の時間がかかると見込んでいたものの蓋を開けてみればなんと早ければ明日にも魔王討伐となりそうである。
「そんなわけで今日が決戦前夜なわけだ。」
「まあそうなる可能性はあるわね。どうしたの?」
決戦前夜?となるこの日、コウが唐突に私を呼び出した。
「一応こういうのって形式あるだろ?決戦前夜に想いを伝えるみたいの。今さらだけどさ。」
「フフ、確かに今さらね。…でも良いわ、聞かせて?」
「この戦いが終わって無事に元の世界に帰れたら、俺と結婚してくれないか?」
「…ストレートに来たわね。」
「こんな時にふざけたりしねーよ。」
「私でいいの?もう私30代よ?」
「それはお互い様だろ。…日本に帰ったら俺たちがどうなってるかなんて想像もつかないし、苦労する事になるかもしれないけどさ。
アリナとだったら乗り越えていける気がするんだ。」
「そうね…。返事は無事に日本に帰れたらって事でいいかしら?」
「なんだよ、そこは嬉しそうに「はい!」って言ってくれるところだろー?」
「そう言ったら死亡フラグになっちゃうでしょ?振られエンドなら生き残れるじゃない。」
「え?俺振られるの?」
「そこも含めて日本に帰れたら返事するわってコト。楽しみにしててね。」
そう言って2人で笑い合う。無事に帰れたら、か。コウは戦争が終わったら帰れると信じているし、それでいいと思ってる。けれど私は以前カノンが話した推測…もしかしたら帰れないかもしれないという可能性が頭にあるから、どうしてもそこまで楽観的になれなかった。
それに、無事に日本に帰ったとして空白の10年がある。コウはそれでもメジャーデビューしている有名人だ。才能が有るのだろうし、やり直せるだろう。方や私は職歴なし、大学中退の30代無職だ。まともな職に就けるか怪しいものである。そんな格差がある中で一緒になって、この世界の思い出だけで残り50年共に歩めるかと言えば怪しいものである。
今はお互いに支え合う必要があるから恋人という形をとっているだけ。もちろんお互いに好きという気持ちは嘘ではないけれど、日本に帰ったら私より綺麗でキラキラ生きている女性はコウの周りにたくさんいるんだ。
だからここ数年はなんとなく、日本に帰ったら自然消滅するんだろうなと思い始めていた。
でもこんな気持ち、決戦前のコウに伝える必要は無い。だって今はまだ勇者と聖女なんだから。
------------------------------
「突撃いいいぃぃぃぃっ!!!」
翌朝、総司令官の号令で一斉に王都に攻め込む王国軍。事前の報告通り、既に街に人は殆どいなかった。残っているのは暗い路地裏で虚な目をした、いわば棄民と呼ばれるような人々であった。彼らは王国軍にも興味が無いようでこちらをチラリとも見ない。無論王国軍としてもそんな人々に構っている暇は無い。
ほぼ無人の王都を駆け抜けて王城に迫る。事前の作戦通り王城を四方から包囲した。
「俺達は正面から、か。」
「意外だったね。最後は騎士団あたりに花を持たせるために私達は裏門か、もしかしたら外されるまであるかと思ってたよ。」
「流石に魔王との戦いには聖剣と聖盾が必須と考えたんじゃ無い?」
「面子より実利を取ったか。…さあ行こう!」
王国軍と共に王城に乗り込む私達。さすがに魔王を守るだけあって兵士達は一筋縄ではいかない強者だった。とはいえこちらもこれまで戦ってきた経験がある。そこそこ苦戦しつつも徐々に玉座の間に迫って行く。
「…正面は敵が多くて中々進めないな。」
「これだと他の門から入った部隊はもう魔王の元に到着しているかもしれないな。」
「なるほど、そういう感じね。やっぱり騎士団に花を持たせるか。」
「私達が戦わずに済むならそれに越した事はないけどね。」
多くの戦闘をこなしつつ、魔王の元へ進む。しかし途中、ある扉の前で私たちの足が止まった。同行している兵士を率いる隊長が怪訝な表情でどうかしたのかと聞いてくる。
「この先に強い魔力を持った人間が何人かいるな。」
「分かるんですか?」
「ああ、明らかに異質な力を感じるからな。…どうする?」
コウが私達に問いかけてくる。
「こっちに敵意は感じないのよね。むしろ遠ざかって行く感じ?」
「逃げようとしているのかな。」
「だったら放っておいてもいいんじゃない?」
「でも挟み撃ちにされるリスクがあるよな。」
「じゃあこうしようよ。」
言うが早いか、カノンが扉に向かって炎を放つ。当然扉は吹き飛び、さらにその先の壁や柱も吹き飛ばした上で部屋中が炎に包まれる。
「このまましばらく炎は出しておく。そうすれば相手に敵対する意思があってもそう簡単にこっちには来れないよ。…逃げるつもりならさっさと逃げてくれればいいしね。」
「魔力は大丈夫なの?」
「ここまで温存してきたからね。このくらいなら全然平気。」
「よし、じゃあ魔王のところへ向かおう!」
そのまましばらく走っていると、先ほどの部屋の方からドーンという大きな音が聞こえた。カノンが「炎で柱が何本か焼け落ちて部屋が崩れちゃったっぽい」と呟いたがあまり気にしない事にした。後ろを振り返ってる暇は無い。
その後も魔王を守らんとする敵兵との戦いを繰り返し、やっと玉座の間と思しき扉の前にたどり着いた時には突入からかなりの時間が経っていた。
「ここだな。悍ましいほどの魔力を感じる。…これが魔王か。」
「魔王の魔力が健在ってことは他の部隊はまだ着いてないのかな?」
「または既に負けた後か。…開けるぞ。」
重々しい扉を開けるとそこには倒れ伏している騎士団、魔術師団、呪術師団とその他兵士達が居た。
その先に佇むのは長い銀髪を靡かせる美丈夫。そこから発せられる魔力をみるになるほど彼が魔王か。
傷ひとつないどころか、衣服の乱れすら無いその姿は優雅ですらある。しかしここに累々と横たわる王国軍を見るに彼は既にひと仕事を終えているのだろう。
この場にいるのは騎士団はもとより、魔術師や呪術師だって王国軍にの中では精鋭中の精鋭である。そんな彼らを息一つ乱さずに蹂躙した彼の実力は手を合わせるまでもなく明らかであった。
思わず立ちすくむ私達を見て、魔王がフッと笑う。
「待っていたぞ。異世界より呼ばれし戦士達よ。」
思わず引き込まれてしまうハスキーボイス。
「知っていたのか。」
コウが応える。
「無論だ。貴様らが私の命を狙っている事もな。…折角の機会だ。刃を交わす前に少し話をしないか?」
「話だと?」
「ああ。…だが邪魔がいるな。」
魔王がそう言って手を上げる。その先が光ったかと思うと私たちと共にここまで戦ってきた兵士達が一斉にその場に倒れ伏した。
魔王はそんな王国軍を見て鼻で笑うと悠々と玉座に掛ける。
「さあ、そんな扉の前で突っ立っていたら話せないぞ?」
そう言ってこちらに手を差し出した魔王はニィと不敵に笑った。




