第18話 要塞都市攻略作戦
魔族国との戦争も一つの山場を迎えようとしていた。王都から近い場所にいくつかある「要塞都市」。そのうち1つを攻め落とそうという事になったのだ。
これまで攻略してきた街や砦とは規模が違う。堅牢な守りに堅められた、それこそ都市である。ここを占拠することができれば王国からの補給線を確保できるし、なんならわざわざ1ヶ月程度の道のりを歩いてこなくてもここに住み着いて拠点にすることが出来てしまう。
それだけにここを攻め落とす事が如何に困難かという問題はあるのだが。そも、ここに来るまで王国からおよそ1ヶ月の行軍であり一番近い攻略済の街からでも5日程度はかかる距離なのだ。そこにどれだけ時間がかかるか見当もつかない要塞都市攻略となると兵糧確保の問題なども深刻だ。
「まずは君達4人に敵の食糧を奪い尽くして欲しい。」
攻略の総指揮官からの無茶振り。コウとユキ、カノンと私の4人で相手の備蓄食糧を燃やして回る。すると相手は残りの食糧を守るために戦力を割かざるを得なくなる。そこを状況に応じてカノンに燃やし尽くして欲しいという、クソッタレな戦略だ。
「でも、相手も後方から補給部隊が来るんじゃ無いですか?」
「そこは我々が焼き討ちする。相手にも紅蓮の魔女の名前は届いているようで、炎イコール魔女の仕業だという思い込みを利用する。内と外の両方がからの火攻めで精神的な余裕も奪い相手からこちらを攻めるように仕向けるのだ。」
「俺達が補給部隊を叩く役にならない理由は?」
「単純に成功率を考慮した結果だ。付け加えるなら内部潜入は実力があり連携の取れる少数精鋭が良いと判断している。君達は仲も良いし連携もバッチリだろう。」
コウは一応食い下がるが、決定が覆る事はない。そんなわけで私達は4人で要塞都市に潜入する事となった。
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4人で要塞都市に潜入する。潜入は要塞都市に運び込まれる物資に紛れる事にした。人の出入りは厳しくチェックされ、こっそり忍び込もうにも警備の魔術師が常に魔力察知をしているので身体強化すら使えば見つかる状況で、物資のチェックはザルだということに気付いたのだ。食糧を運び込む荷車を発見し、こっそり近づく。この辺りはカノンの『認識阻害』で運び屋に気付かれないようにする。そのまま荷台に乗り込み奥まで潜り込んだら術を解除。あとは都市内に運び込まれるのを待つだけだ。
運び込まれる荷台はランダムで中身のチェックを受けるが、その場合でも荷物全てをチェックするわけではなく手前だけという仕様の穴をついた作戦であるが、正直ある程度運次第だ。下手に術で誤魔化そうとすれば魔力察知に引っかかるだけなので見つからないことを祈る。
運よく検閲に引っかかることもなく都市内への侵入に成功した。そのまま食糧備蓄庫の1つに運び込まれた私達は人の気配が去ったあとこっそり荷台から這い出して都市内を散策する。
「こうしても見ると王都の城下町みたいだな。あとはここで10日間待ってから行動開始だっけ?」
「潜入に5日かかってるから残り5日ね。食糧備蓄庫の場所の調査はいるけど…最悪運びこまれた備蓄庫を派手に破壊すれば他の場所が警戒されることである程度絞り込めるだろうし、潜入がバレないのが最優先よ。あとは術を使えないからカノンは『睡眠』と『反射結界』を使って寝る技が使えないけど、大丈夫?」
「あんまり大丈夫じゃないけど仕方無いね。限界が来れば寝られると思うよ。」
それは寝てるというよりほとんど気絶のようなものじゃないかしら。
「とりあえず宿を取って情報収集かしら。変なのに絡まれても嫌だし4人固まって動きましょう。」
「俺たちは王国の侵略で棲家を追われてここに逃げてきたって設定だよな。」
「ええ。じゃあ行きましょうか。」
その後数日間の調査の結果、運び込まれたところ以外にも3カ所の食糧備蓄庫を発見できた。特に戦闘兵用のメイン備蓄庫を発見できたのは大きい。まずはここを燃やし尽くす事にした。
ついに明日、王国軍が要塞手前に陣を敷く。最初の備蓄庫を焼いた後もなるべくステルスで行動する事にしているが、正直出たところ勝負になる。スニークで対応出来る内は見つけた残りの3カ所をA、B、Cの順に燃やして回る。そうでなければ出たところ勝負のプランBとして動こうという事になった。
そして開戦当日。ついに王国軍が攻めてきたということで要塞都市内に警報が鳴る。だがこの堅牢な要塞都市を攻め落とすことなどできるはずはないと、都市に住む人達は楽観的な雰囲気だし兵士たちの指揮も高い。もちろん敵は積極的に打って出るつもりは無いらしい。守りが硬い都市だもん、そりゃそうなるよね。
私達はそのまま夜を待ち、メインの食糧庫に火を放った。最初は普通に火打ち石で火をつけようとしたんだけど、さすがにそこはこの都市の要となる食糧庫だけあって火災対策は万全だった。全ての食糧は燃え辛い木箱や布袋に保存されている上、5m四方程度の小区画の石部屋となっているため延焼も狙えない。
「仕方ない、『紅蓮』いきまーす。」
「無理させてすまない。」
「大丈夫。3人は離れてて。」
カノンが『紅蓮』を発動して食糧庫を燃やす。だが、術を発動して火をつけ始めた瞬間、私達3人に念話が届いた。
(一瞬で敵に感知された!とりあえず燃やし尽くしてから撒いてみるけどみんなはA地点に向かってて!)
その後、炎の勢いが増して食糧庫が紅く染まる。「敵襲だ!」という警告が聞こえて方々から兵士がやってくる。カノンは敢えて私達と反対方向へ移動し、そちらに兵士を引き連れて行く。私達は守りが手薄になった方に逃げていく。
一度都市部まで戻ってきた私達は砦の様子を伺う。無事にメインの食糧庫は焼き付きしたのか、先ほどまで紅々と燃えていた一画は既に周囲と共に夜に染まっていた。
「カノンは大丈夫かな?」
「A地点で合流予定だし、そこに向かおう。」
A地点と名付けた食糧庫の付近に行くとまた念話が届く。
(敵が撒ききれない。どうもかなり精度の高い感知持ちがいるっぽいんだけど、魔力を止めたら他の兵士から逃げ切れない。このまま逃げながらA、B、Cの順で燃やしていくから、みんなは他の食糧庫を探しつつ、一度宿に戻ってて!)
カノンの念話は一方通行なのでこちらから何か提案することはできない。だからこそカノンはその場その場で判断して動いているしこちらはそれに従うしかない。
その後カノンは食糧庫だけでなく武器庫や衛士詰所、その他にも関係ない建物などにも火をつけて撹乱しつつ逃げ回ったようで、都市中の至る所が炎に包まれた。都市はパニックに包まれ、人々は逃げ惑う。魔族国王都方面の出口には脱出を図る人々が殺到していた。その近くで炎の柱が立ち上る。カノンが最後の食糧庫を燃やしたのだが、民衆は自分達が狙いかと思ったようでパニックは加速する。
そんな様子を宿から眺めつつ、カノンからの連絡を待つ。しかし朝まで待ってもカノンから次の念話は届かなかった。都市の至る所で上がっている炎も一晩中消えることはなかった。
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「なあ、カノンの紅蓮って炎を出している間ずっと魔力を消費しているんだよな?」
「そのはずね。だからこれだけの広範囲に一晩中火柱を上げ続けたら流石に魔力が枯渇する可能性があるわ。」
「もう食糧は燃やし尽くしたはずなのになんで火を止めないんだ?」
「恐らく街の混乱を狙っているんでしょう。どこかのタイミングで群衆に紛れ込むために魔力の発動を止めるはずよ。」
「ああ、撒けないから人混みに紛れようという考えか。…うまく行くかな?」
「私達であの子が紛れやすそうなポイントを絞って救出に向かいましょう。」
と、その時カノンから念話が届く。
(門。)
「聞こえた!?」
「ああ、だがどこの門だ!?」
そう、この都市には外に出るための門が4カ所ある。魔族国王都に続く北門。王国軍が攻め込むことを想定している南門。その他東西に1つずつ大きい門があった。
「南は敵兵が多いから除外するとして、一番可能性が高いのは人が密集している北門か?」
「でも東と西も捨てるわけには行かないわね。仕方ないから3手に分かれて向かいましょう。」
いざという時に聖盾でバリヤーのようなフィールドが張れるユキが一番可能性が高い北門へ。敵兵が多い砦に近い東門にコウが行き、私は人通りが少ない西門へ向かう事となった。
西門へに到着するとやはり人はほとんどいなかった。ここは普段から締め切られており、何年も開かれていないというのは事前調査時に聞いている。都市に住んでいる人々もそれがわかっているのか、燃え盛る要塞都市から脱出するにあたっては基本的にここは使うつもりは無いようだ。
だが、そんな門の前に倒れていたのは見知った顔であった。
「カノン!?」
普段からの寝不足に加えて無理な魔力行使が祟ったのか、ここに辿り着いて意識を失ったと思われるカノン。紅蓮の炎は未だに都市中を燃やし続けている。
「まさか、魔力の過出力現象!?」
魔力が枯渇するとブラックアウト…意識を失うのは今のカノンの様子の通りなのだが、普通はこの状態になると発動している術は全て強制的に終了する。つまり紅蓮の術は解除され、炎は消えていないとおかしい。もちろん、延焼により既に術と関係なしに燃え広がっている場所もあるだろうが全ての炎が消えていないというのは流石に不自然だ。
となると魔力の過出力現象が起きている可能性が高い。これは魔力は空っぽなのに意識を失ったまま体が魔力を使おうとしてしまう状態である。魔力は無い状態で何を媒体として術を発動するかといえば、魂である。この状態で術が継続していると言うことは即ち刻々と魂が削られているという事である。この状態が長く続くと魂の大部分が削られ、そのまま廃人となってしまうのである。
「早く魔力の放出を止めないと…。」
私はカノンの胸に手を当てる。まずは魔力の出力を止めなければならない。幸い回復術には対象の魔術の発動を強制的に止めるものがある。それでこれ以上魂が削られるのを防ぎ、次に私の魔力をカノンに送り込むことでゼロになった魔力を呼び起こせば処置は完了だ。『強制停止』を使おうとした瞬間、背後から声がかけられる。
「動くな。その女を渡して貰おうか。」




