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第11話 女子達のお風呂タイム

 勝手に召喚されて戦争に駆り出されている私達だけど、それでも普段は王城の客間に滞在しておりそれなりのVIP待遇を受けている。

 まあ王国側としては王都に住まわせて動向が把握し辛くなるよりは手元に置いておきたいという意図なのだろうが。


 最近では「勇者」、「聖騎士」、「聖女」、「魔女」という呼び方も定着してきて城の人達からはそう呼ばれる事も増えてきた。…ちなみに「聖騎士」はユキの事だ。純白の聖盾を携え護りに特化した姿から、誰が言ったかいつの間にかそう呼ばれるようになっていた。


 そんな私達に住まいとして提供されている客間はホテルのスイートルームみたいな感じだろうか。メインとなるリビングがありその横に寝室、ダイニングキッチン、浴室まで着いている贅沢仕様だ。朝晩のご飯はシェフが用意してくれて、昼間訓練に出ると夕方にはベッドメイキングも風呂の用意も出来ている至れり尽くせりっぷり。その分戦場では馬車馬の様に働かされるわけだが。


 始めは緊張して部屋を使うのもおっかなびっくりだったけれど、1年以上もそんな生活を続けるとご飯が勝手に出てきてお風呂とベッドができている生活にもすっかり慣れていた。


「お風呂が壊れた?」


 ある日、部屋を管理するメイドから報告を受けた。


「申し訳ございません。水回りの方でトラブルがあったようで修理にかかる5日間ほど湯が張れないとの事です。直るまでのあいだは大浴場の使用の許可を得ています。」


 ここで言う大浴場とは王妃様と姫殿下が使っている、王族専用のお風呂の事だ。


「王妃様のご好意により訓練後から夕食前の時間までを聖女様と魔女様に確保して頂いております。」


 なるほど、その時間はバッティングしない様になっているという事ね。王族用の浴室を使うなんて正直遠慮したいんだけど…1日2日ならお風呂は我慢しますって言えるんだけど、5日間は流石に辛いし何よりわざわざ用意されたのに使わないっていうのも失礼にあたる気がする。


「別に失礼とかは気にしなくていいんじゃない?向こうが勝手に決めてきてるんだし。」


「カノンのそう割り切れるところは素直に尊敬するわ…。私はそういうの、気にしちゃう性質なのよ。」


「フフ。じゃあ行こうか。」


 そんなわけで私はカノンと連れ立って大浴場に向かったのであった。


「そういえばアリナと一緒にお風呂に入るのも久しぶりだね。」


「最初の頃は心細くて一緒に入ってたけど、いつの間にか別々になったしね。私はいつも夕食後しばらくしたら入っちゃうけど、カノンはわりと遅くに入ってるじゃない。」


「図書室通いが日課になってるからね。でも今日からはしばらくお休みかな。折角お風呂入ってもあの埃っぽいところに行ったら汚くなっちゃうし。」


 さすがに王族用だけあってお風呂はキレイだった。私は何となく端っこで身体を洗うが、カノンはど真ん中で身体を洗っている。


「どうせこのあとメイドさん達が掃除するでしょ?アリナももっと堂々としたら良いのに。」


「それもそうなんだけど…こういう時に庶民の性が出ちゃうのよね。」


 と言いつつ、折角の機会でもあるのでと私もカノンの隣に向かう。


「はい、石鹸。さすが王妃様。良い匂いの使ってる。」


「ありがと。本当に良い香りね。」


「アリナの身体からいい匂いがしたらコウがケダモノになっちゃうんじゃ無いの?」


「…自室のお風呂が使えないのにそういう事するわけないでしょ。」


「それもそうか。」


 コウと付き合ってから数ヶ月、2人ともいい歳した大人なのでそりゃする事はしている。ちなみに回復術に避妊の術…本来は無理矢理身体を奪われた女性が望まない妊娠を避けるための術なのだが…があるので万が一の心配もない。とはいえ普段はコウとユキで同室、私とカノンで同室な状態なので、そんな時は「ちょっと今日部屋開けて欲しいな」ってユキかカノンにお願いしないといけなくて、それってつまり今日はそういう事しますよって宣言するわけで…。さすがに仲間内でもそれは気まず過ぎるのでおいそれとは言い出せず。カノンはたまに気を遣って「今日は朝まで図書室で勉強してくるね」って言って部屋を空けてくれるのでそれに甘えている状況である。


 閑話休題、貰った石鹸で身体を洗っているとカノンが安定のセクハラをしてくる。


「アリナ、おっぱい大きくなった?」


「知らないわよ。この世界ってちゃんとしたブラジャー無いし。」


「アリナはスタイルいいよねー、私はぺったんこだから。」


「それはそれで需要あるから…。」


 頼むからフォローし辛い自虐は辞めてくれと思いつつカノンの身体を見てしまう。およそ1年ぶりに見たカノンの身体はガリガリに痩せ細っていた。


「ちょっとカノン!?あなたどうしたの?」


「私は胸を揉んでくれる人が居ないから。」


「そっちじゃない!そのガリガリの身体!骨と皮だけじゃない!」


 以前のカノンは確かに貧乳ではあったが年相応の肉付きはしていたはずだ。


「ん?ああ、最近ちょっと食欲ないからかな。」


 そう言われて私は最近のカノンの様子を思い出す。確かに食事を残し気味だなとは思っていたが…。


「もしかして食べたの全部吐いてる?」


「…たまに吐かない日もあるよ。」


「なんで!」


「この国の料理って大体お肉料理じゃ無い?なんかお肉が入ってると戻しちゃうんだよね、しばらく前から。」


「全然気付いて無かったわ…ごめんなさい。」


「アリナが謝る様な事じゃないよ。」


「いつからなの?」


「忘れちゃった。」


「カノン。」


「………。」


「カノン!」


「初めて戦場に行って、帰ってきてからかな。」


「そんなっ…!もう1年近くになるじゃない!」


「そんなもんかもね。」


「そんな身体だと碌に動けなくてもおかしくないのに、なんで平気な顔してるのよ!」


「えっとね、呪術師は魔力で自分の身体をコントロールするのが得意だからね。それで限界を超えた動きをするのが呪術版の『身体強化』なんだけど。

 最近は起きてる時はずっと使い続けてるから練度も上がってて、普通に生活するだけならほとんどゼロに近い魔力で身体を動かせてるんだよ。」


「それは平気じゃない!」


 思わずカノンを抱きしめる。


「アリナ?」


「ごめんね、こんな身体になるまで全然気付けなくて。」


「だからアリナは悪く無いって。」


「そうじゃないの!カノンが辛いのに気付けなかった自分が許せないの!ごめんなさい!ごめんなさいっ!!」


 涙が溢れてくる。一番近くに居たのに浮かれ気分でカノンの変化に気付けなかった自分の能天気さ、不甲斐なさに心底嫌気がさしてくる。


 泣きながら謝り続ける私に、カノンは困った様に笑った。


「私は大丈夫だよ。アリナも、ユキもコウも私のことを心配してくれるし。こんな風に自分を想って泣いてくれる人がいるなんて私は幸せモノだね。」


 そういうとまだ泣き止まない私の頭を優しくトントンと叩く。


「ほら、お風呂はいろ?身体が冷えちゃうよ。」


 そう言って私の手を引いて湯船に向かうカノン。その手も骨と皮で筋張っている事に気が付き私はまたやるせない気持ちになる。


「大きいお風呂だねー、気持ちいいね。」


「…泳いじゃダメよ。」


「泳がないよ!?」


 いつも通り笑うカノン。表情と身体が合ってない…。でもこの子はずっとこうだったんだ。


「…お肉以外は食べられるの?」


「え?」


「…ごはん。」


「ああ、そうだね。野菜や果物なら少しは。でも出てくるご飯は大体全部お肉入ってるんだよね。パンは硬いからスープに浸さないと食べられないけど、そのスープも肉汁入ってるしさ。」


「私が作るわ。」


「どういうこと?」


「これからはカノンのご飯は私が作る。ちゃんと食べられる様に。」


「アリナだって忙しいのに、悪いよ。」


「悪くない!私がそうしたいの!あなたがそんな身体になるまで気付けなかったんだから、せめてこれからは出来る事をさせて欲しい!」


 そう言ってカノンをしっかりと見つめる。カノンは照れた様な困ったような表情をした。


「…じゃあお願いしようかな。でも作って貰ってもあんまり食べられないかもしれないよ?」


「それでもいい。一口でも食べてくれれば…ううん、一口も食べられなくても構わない。でもお願い、もう辛くても1人で抱え込まないで。吐いちゃった時はちゃんと私に教えて。」


「……。」


「一番近くにいるのに、私が知らないうちにカノンが衰弱していくなんて嫌なのよ。」


「…わかったよ。」


「うん、お願いね。」


「アリナはお母さんみたいだね。」


「あなたと4歳しか変わらないんだから、せめてお姉さんにして。」


「わかりました。アリナおねーちゃん。フフ、妹は居たけどお姉ちゃんは居なかったからちょっと嬉しいかも。」


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 風呂から上がり自室に戻ると私はメイドに今後カノンの食事は私が用意する事、野菜と果物の食材と調味料をキッチンに運ぶ様にお願いした。


 とりあえず夕食までに作れたのは野菜スープだけだったが、カノンは「美味しい。」と喜んで飲んでくれた。



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