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第12話 病みカノン

「戦場でのストレスだと思いますよ。」


 カノンの食欲不振についてメノア師匠に相談すると、案の定といった感じの回答が返ってきた。


「やっぱりそうですよね…。」


「あなた達の国は基本的に平和だと言っていましたよね。人を殺すことが禁忌とされている世界だと聞いた記憶があります。」


「まあ、そうですね。普通は年をとって死ぬまでに誰も殺したりしませんし。」


「それは羨ましい。私も是非そういった国で暮らしてみたいものです。

 …そんな世界で育ってきたあなた方が、人の命がひどく軽いこの世界で戦場に放り込まれ死に近付き過ぎているのです。心が病まない方が不思議なくらいですよ。逆にアリナやコウさんユキさんが変わらずにいられている事の方が驚きです。」


 言われてみれば、確かその通りだ。


「アリナの場合は「救う」が、ユキさんの場合は「護る」が主な役割となっているのでまだ心に余裕が生まれているのかも知れませんね。コウさんは元々精神が強いのもあると思いますが、騎士団の精神が幸しているのかも知れません。」


「騎士団の精神、ですか?」


「はい。騎士団は戦い…決闘を神聖なものとして捉えております。1対1の正々堂々とした戦いを良しとし、敗者にも敬意を持って接する。これは「決闘」というフィールドに出るという意識の切り替えと、人を殺すという行為があくまでも決闘の結果に付随しているという認識を持たせる意味合いがあるそうです。

 それでも精神を病む人はいますが、コウさんの場合はいい方向に作用していると考えて良いのかと。」


 以前カノンが馬鹿馬鹿しいと斬り捨てた騎士道精神だが、メンタルケアとしての一面あるということか。


「それに引き換えカノンさんは戦場でも通常のメンタルを維持したまま魔術での殺人を行なっています。騎士団は相手も精鋭を連れてくるので一度の戦場で一人が殺す人数は意外と多く無いはずですが、カノンさんは違うのでしょう。これまでに数十人以上はその手にかけているはずです。

 …そう考えると例え虚勢であっても変わらずに振る舞えている事が奇跡的ですらありますね。」


「そんなに!?私たちはどうすれば良いでしょうか…。」


「カノンさんの心が壊れない事を祈るしか無いですね。アリナには悪い報せですが、次の戦いではカノンさんの『紅蓮』の術での大規模攻略が検討されています。燃料も火種も無しに大規模な火災を起こせるという事で敵の司令塔を燃やす計画だそうです。流石に非人道的過ぎるのでは無いかという意見も有りましたが、魔術・呪術部隊の強い推薦と「魔法として認められるだけの成果が在るべきだ」という意見もあり、まずは実験的に実施されるそうです。」


「そんな酷いことを!?大体カノンは『紅蓮』の術が魔法かどうかなんて事には全く拘りは無いのにっ…!」


「宮廷魔術師・宮廷呪術師達はカノンさんが魔法使いとなる事が余程面白くないようでして。作戦が失敗して命を落としても構わないどころか、むしろそれを望んでいるまでありそうな雰囲気です。

 シャルル師、ルナ師は反対してはいますが、彼女達は実力はトップでも権力では発言という意味では他の術師達と変わりません。多数派のアンチカノン勢は抑えきれずといった流れですね。」


 ただでさえ心が病んでいるところに、自分が作った術で人を大量に殺させようというこの国の貴族達のカノンへの扱いに怒りが込み上げてくる。それも失敗したらそれはそれで望ましいとまで来たものだ。


「アリナ。先程の話…カノンさんが何も食べられなくなったという話ですが、今後より悪化するかも知れません。そうなった時のために1つ案がありますので教えておきますね。」


 そう言ってメノア師匠が教えてくれた方法。できればそれに頼ることはしたくないと思いつつ、そうせざるをえなくなるだろう予感は多分当たってしまうのだろう。


------------------------------


 師匠から聞いた話をコウとユキにも共有する。貴族達のやり方に2人も怒りを露わにするが、それでも私達が日本に帰るためにはこの理不尽に従うしかないのだ。


「最近アリナがカノンに料理を振る舞っているのはそう言う事だったんだな。納得だぜ。」


「それで俺達が気をつける事は?」


 ユキが聞いてくる。


「カノンのことを気遣うのはもちろんなんだけど、一番重要なのは彼女を否定しないことね。」


「否定なんてするわけないだろ!?俺達と一緒に元の世界に帰る為に精一杯頑張ってるんだから!」


「ああ、カノンがどれだけ手を汚させられても、俺たちはカノンを受け止めてみせるさ。」


 2人共、迷わず答えてくれる事は素直に嬉しかった。私は2人がやりそうな…師匠からの助言がなければ私自身やりかねなかったであろうミスをしないように注意を促す。


「2人共、今ちょっとでも「カノンにそこまでさせてまで元の世界戻らなくても良い」とか思ったりしなかった?」


「それは…正直よぎったな。」


 ユキが素直に頷く。


「ええ、私も思ったもの。カノンがこれ以上傷付くなら帰る事を諦めざるを得ないかしらって。でもそれは思ってはいけないし、間違っても口にしないで。

 なぜならそれは「これまでのカノン」を否定する言葉だから。カノンは元の世界に帰る事だけを目的にこれまで手を汚し続けたの。それを少しでも否定したらギリギリで保っている最後の糸が切れてしまう。」


「…なるほどな。否定しないというのはそういう事か。」


「ええ。くれぐれも宜しくね。コウもよ。」


「ああ、分かった。俺達は何があっても元の世界帰る。カノンがそれを諦めていないのに、俺達が折れちゃダメだって事だな。カノンがどんなに傷付いてもそれを曲げないように、俺達は逆にどれだけカノンが傷付いていてもそれを曲げちゃダメだって事だな。」


「正解よ。」


「コウの言う通りだな。俺達は絶対に元の世界に帰るんだ。4人一緒にな。」


 私達は改めて誓い合った。


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 カノンの『紅蓮』による司令塔炎上作戦は想像以上にうまくいってしまった。これまでの軍では攻めるのに時間と人手を費やしていた堅牢な守りを持つ建物を、中の騎士や兵士、それに補給部隊も含めて丸ごと焼き尽くしたのだ。


 あまりに大きな建物になると火力が落ちるため万能では無いが、それでも建物が炎に包まれて冷静で居られる人間などいる訳が無く慌てて出てきた人々に止めを刺すだけで戦いが終結するなんて事もざらであった。


 これにより進軍の速度は目に見えて上がり、戦争の終結までに掛かるであろう期間の目算は大きく短縮された。王は大層喜びカノンに褒美を取らせようとなった。


 カノンはこれまで嫌がらせをされてきた証拠を提示しつつ、褒美として主犯格の宮廷魔術師貴族の処刑を望み王は流石に処刑は出来ないものの辺境への追放を提案。これをカノンが了承した。


 これまで何とかしてカノンを陥れようとしていた宮廷魔術師達は目論見が上手くいかなかったばかりか手痛い反撃を貰い完全に沈黙。長い間続いていたカノンへの嫌がらせはここにきてやっと鳴りを潜める事となったのだ。


 その後カノンの『紅蓮』は正式に魔法として認められ、王は彼女に「紅蓮の魔女」と称号を授けた。この称号はいつの間にか魔族国側にも伝わっておりカノンの使う紅蓮の赤は王国軍には勝利の、魔族国側には死の象徴として認識される事となる。


 そんな大活躍とは裏腹にカノンの精神は益々疲弊していき、ついに私が作る料理も一口も口にできなくなってしまった。1日にコップ一杯の水を飲むのがやっとと言った状況で、戦争が終わるのが先かカノンの命が尽きるのが先か。周りにはそう思われているような状況であった。


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