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DRAGON CHILD LEN -Jewel of Youth ep2-  作者: すこみ
第五話 セブンエンペラー
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5 月夜のまちぶせ

 月明かりが街を淡く照らしている。


空間跳躍(ザ・ワープ)≫とダッシュを交互に繰り返す。

 シンクは夜の闇に紛れてPF横浜特別区を駆けた。


 人目を避けてひたすら西へ。

 目指す場所は平沼駅西口だ。

 コピーとはいえ、レンの力に触れたシンクにはわかる。

 あんな付け焼き場の作戦はあいつには通用しない。


 マナの能力は確かに強力のようだ。

 だが達人との戦いは能力と戦術だけでなんとかなるものじゃない。

 勝敗を分ける要素、それはやはりお互い積み重ねた力と技量、そして経験がものを言う。


 杜撰な作戦でマナを危険な目にあわせたくない。

 何度目かのワープを繰り返して少しの疲労感を覚えた頃。


「ねえ」


 空間を渡る一瞬の合間。

 後ろから肩を叩かれた。

 シンクはギョッとして振り向く。


 通行人に見られないよう気を付けていたつもりだが、声をかけられるとは。

 どう誤魔化すべきか思考を巡らせたのも一瞬、背後の人物を見て心臓が止まるかと思った。


「マナ先輩!?」

「はぁい。こんな時間にどちらまで?」


 張り付けたような笑顔を向けるマナ。


「えっと、ちょっと月が綺麗なので散歩に」

「本社からジョイストーンを盗み出して?」


 言い訳をするまでもなくバレているようだ。

 そもそも≪空間跳躍(ザ・ワープ)≫の本物はアテナが持っている。

 これがシンクの能力でコピーしたものだと言うのは考えるまでもないだろう。


 しかし、なぜマナがこんなところに?

 大桟橋で作戦の練習中じゃ?

 いや、それよりも、どうやってこの場を逃れるかだ。


「あー、えっと……」


 言い訳の言葉を考える。

 しかし、いい考えはなにも浮かばない。

 と、マナの目がみるみる潤んでいくのに気づく。


「一人で龍童のところに行こうとしたんでしょ」

「えっと、その」

「わかってるよ。紗雪ちゃんやアオイちゃんのカタキを自分で討ちたいんだよね? それだけじゃなく、シンクくんは龍童のことも助けたいと思ってるんでしょ」

「あ、いや……」


 マナの指摘にシンクはうろたえた。

 後者はともかく、前者はまったくそんなつもりはなかったのだ。

 うまく答えられない態度を肯定と受け取ったのか、マナは大きな溜息を吐いた。


「そうだよね。私があんなこと言っちゃったから、シンクくんは作戦に参加させてもらえなくなっちゃったんだもんね。アミティエが龍童を捕らえちゃったらあの子は何をされるかわからないし……でもさ」


 マナは顔をグイッと近付けてくる。


「シンクくん、なんでも一人でしょい込み過ぎだよ。気に入らないことがあったら相談してくれればいいのに。私はシンクくんを危険な目に会わせたくないけど、シンクくんが望むなら二人でもっといい方法を考えることもできるんだよ」

「マナ先輩……」

「そんなに私は信用ないかな? 頼れない先輩かな?」


 違う。

 そんなことはない。


 シンクが戦いを決意したのは、マナが辛い思いをしているのが見ていられなかったからだ。

 だからそう伝えればいいはずなのに、なぜかうまく言葉が出てこない。

 黙って目を逸らすと手に柔らかな感触が伝わった。


「一緒に行こう」

「え?」


 マナの小さな手から伝わる温かさにドキリとする。

 頬が熱くなるのを自覚するが、真っすぐな瞳で見つめるマナから視線をそらせない。


「私が一緒に行くよ。シンクくんはあの子を自分の手で捕まいたいんでしょ?」

「いや、でも……」

「本社からジョイストーンを盗み出したことだって、結果さえよければ許されるはずだよ!」

「いやそれはどうだろう」


 後先を全く考えなかったシンクもシンクだが、マナの楽観も相当なものだ。


「……ふっ」


 なんだかおかしくなって思わず笑ってしまう。

 マナも「えへへ」と笑顔を浮かべた。


 覚悟を決めよう。

 この笑顔を曇らせたくない。

 そう思うなら傍で守ればいいじゃないか。

 そして自分に足りないところは彼女にカバーしてもらおう。


「よろしくお願いします、マナ先輩」

「任せてよ! かわいい新規ちゃんは、ナビゲーターの私が責任持って一人前にしてあげるんだから!」


 新規ちゃんね……

 まあ、今はそれでもいいさ。

 いまはただ、マナの隣にいられることが嬉しい。




   ※


 地下通路を通って平沼駅の西口へ。

 県内第二位の規模を誇る繁華街を抜けた先、街道との間に大きな砂利置場が存在する。


 かつて起こった災害でこの辺り一帯の建物が崩落した後に残された広大な空白スペース。

 再開発の目途も立たずに都市の間隙として放置され続けてきた場所だ。

 SHIP能力者の居場所を記すシーカーは確かに強烈な反応をこの中に示していた。


 シンクとマナが砂利置場に足を踏み入れる。

 基本的にこの場所はストリートチルドレンたちのねぐらである。

 この時間はグループに属さない地元の不良たちのたまり場になっているはずだ。


 しかし、今日に限って人っ子一人見当たらない。

 何かに怯えるように逃げ出してしまったのか。


 砂利山の上に横たわる小さな人影が見えた。

 シンクたちはゆっくりとそちらに近づく。

 長い髪の少女のようなシルエットをした小柄な少年が身を起こす。


「あ、シンくん!」

「よお、レン」


 上海の龍童ことレンは親しげにシンクの名を呼び、砂利山を滑り降りてくる。

 不良たちの温床である都会の空白地帯。

 現在、この場所の支配者はあの幼い少年なのである。

 それを証明するかのように一番高い場所で休息を取っていたのか。


「怖い奴らがいっぱいいただろ。大丈夫だったか?」

「うん。十人くらいやっつけたら、どこかに行っちゃったよ」

「そうか」

「ここ、雰囲気がレンの住んでいた場所に似てる。とっても落ち着く。寝ながら星を見てた」


 市民にとっては恐怖の対象である街の不良など、レンにとっては敵にもならないらしい。

 力づくで追い払っても「どいてもらった」程度の認識なのだ。


「で、これからお前はどうするつもりなんだ」

「明日はあの高い建物に行くよ」


 レンが指差したのは平沼駅のビル群の向こうに聳えるひときわ高い建物。

 フレンズ社屋の入っているラバース横浜ビルだ。


「あそこにはもっともっと強い人がいっぱいいると聞いた。力が戻ったから行こうと思ってる」

「なあレン。もうそんなことをする必要はないんだよ」


 楽しそうに話すレンの言葉を遮ってシンクは語る。


「あのビルには確かに能力者がわんさかいる。けどな、この街の能力者たちは弱い者を苦しめたり、一般人を傷つけたりなんてしてないんだ。望まずに力を持たされた奴をちょっと強引な方法で取り締まったりはするけど、それは街の平和のためにやってることだ。わかるか?」

「……えっと、よくわからない」


 レンは首をかしげた。

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