6 戦闘狂
シンクは上手く言葉を伝えられない自分がもどかしかった。
説明下手は自覚しているが、なんとか理解させようと言葉を続ける。
「日本の能力者がお前にいきなり乱暴なマネをしたのは悪かった。けど、法律を無視して密入国したお前にだって非はあるんだ。大人しく従ってくれたら悪いようにはしない。お前がアミティエに協力してくれるなら歓迎するし、住む場所だって提供してやる」
「し、シンクくん。あんまり無責任なことは言わない方が……」
後ろにいるマナがシャツを引っ張る。
シンクは振り返ってレンに聞こえないよう小声で言い返した。
「わかってますよ。今はとりあえずレンを大人しくさせるのが先でしょう」
今回の事件で出た被害は多すぎる。
他のSHIP能力者と同じ待遇は難しいかもしれない。
だがこのままレンを放っておけば、遠からずもっと悲惨な結果になるだろう。
レンが暴れるのをやめてくれたら、事後承諾を取り付けるためにいくらでも努力する。
とにかく彼にはこれ以上の罪を重ねて欲しくないと言うのがシンクの本音である。
しかし、レンの反応は芳しくない。
唇に指先を当て、可愛らしい上目遣いでこちらを見ている。
「えっと、つまりどういうこと? レンはシンくんと一緒にいればいいの?」
「そうだ。俺はお前の敵じゃない。憎しみをぶつけ合う必要はないんだよ」
「レンはシンくんを憎んでないよ! シンくんはレンの恩人だから!」
「いや、俺個人がどうとかじゃなくてな……」
「そうだ、シンくんもレンと一緒に来ればいいです。レンと二人であの塔にいこう。シンくんはとっても強かったし、危なくなったらレンが守ってあげるよ。もう『せいげん』ないから大丈夫。いまのレンはすごく強いです」
まったく話が通じていない。
ひょっとしたら、シンクがラバース側の人間だということをわかっていないのでは?
「言ってなかったかもしれないが、俺はお前が倒した奴らと同じ組織の人間なんだ。この前はテンマのアホの説明不足のせいで対立してたけど、本当はお前を捕まえなきゃいけない立場なんだ」
「そうですか。じゃあ、これからはレンの仲間になってください。心配しなくてもレンがあの塔にいるやつをぜんぶやっつける。シンくんはすぐに自由になれます」
「だから、レンがアミティエと戦う必要はないんだよ! そんなことしなくてもこの街は平和なんだ。お前のいた所と違って能力者が弱い者を傷つけたりはしていないんだよ!」
あまりに話が進まないので、つい大声を出してしまった。
驚かせてしまったかと思ったがレンは全く気にした様子もない。
それどころか何故か嬉しそうな笑顔を浮かべている。
「そうですね。この街はとても平和です。みんなとても楽しそう。きっと『かいしゃ』が上海と違ってしっかりしているからだと思います」
「わ、わかってくれたか……」
「それはそれでいいです。レンはこの国の強い人と戦います」
ほっと胸を撫で下ろしたのも一瞬のこと。
街が平和だとわかって何故その結論に達するのだ。
それほどまでにラバース上海支社に対する恨みは根強いのか。
遠く海を越えて、すべてを潰すまでは収まらないのか。
激しい怒りをその笑顔の下に秘めているのか。
「一体、どうしたらお前は戦うのを止めてくれるんだ……?」
「やめられませんよ。だってレンは『いちばん』になるのが目的ですから」
また『いちばん』か。
それは一体どういう意味なんだ。
「つまりどういうことだ。レンは何がしたいんだ」
「簡単です。レンは誰よりも強くなるです。そのために強い人と戦うです。上海では『いちばん』になったから、もっと強い人がいるニホンまでやってきました」
一点の曇りもない真っすぐな目で少年は語る。
シンクはそんなレンにうすら寒いものを覚えた。
「ケンカで一番になりたいってことか……? それだけのために日本まで……?」
「はい。レンは『いちばん』強い人間になるです」
「それで街の平和が乱れるとしてもか」
「関係ないです。レンは『いちばん』になるですから」
戦闘狂……
そんな言葉が脳裏に浮かぶ。
理解した。
こいつは英雄でもなんでもない。
自分が強くなるために戦い、結果として上海支部を滅ぼしただけだ。
力のある者が弱い者を支配していた上海ではそれが良い方に作用したのだろう。
しかし、この平和な街にこんな人間が存在しても、それは単なる災厄でしかない。
「そんなの絶対にダメだよ!」
黙って二人の話を聞いていたマナが割り込むようにシンクの前に出た。
「自分の勝手な都合で普通に暮らしている人たちの平和を奪うなんて絶対に許せない! そんな危ない思想を持った子は私たちアミティエが――」
「うるさいです」
止める間もなかった。
レンはマナの腕を払いのけ、腹部に拳を叩き込んだ。
「うっ」
苦悶の声をあげてマナはその場で崩れ落ちる。
レンの左拳には『武』の光文字が浮かんでいた。
「邪魔です。いまレンがシンくんと話してるんだから入ってくるな」
「マナ……先輩?」
「心配しないでもいいです。気絶させてるだけだから、シンくんの仲間を殺したりしないです」
レンはまったく悪びれもなく言った。
瞬間、シンクの何かがキレた。
ジョイストーンを握りしめる。
能力を発現させる。
「うおおおおおっ!」
叫び声と同時にシンクの姿が消えた。
次の瞬間、レンの背後に姿を現す。
自分より頭二つほど背の低い少年。
その後頭部めがけて全力で拳を振り下ろす。
しかしレンは片手を上げると、容易く攻撃を止めてしまう。
突然の不意打ちにも全く動じていない。
レンは振り返り、不思議そうな顔でこちらを見上げる。
「なにをするです? レンはシンくんとは戦わないよ」
「うるせえ!」
掴まれた腕をそのまま、シンクはまた瞬間移動をする。
今度はレンの頭上に現れる。
落下の威力を加えた蹴りを放つ。
しかし、それもあっさりとかわされた。
着地する前に空間を渡る。
今度は意表をついて斜め後ろ。
完全にレンから死角の位置である。
しかし、今度は攻撃をすることすらできなかった。
レンの拳が正確にシンクの鳩尾の寸前で止まっていたからだ。
「動きがバレバレです。そんなじゃレンにはとどかないよ」




