翔べなかった日
星の家へ言った翌日、雨は朝から土砂降りで
放課後になっても一向に止む気配はなかった。
校庭が巨大な水たまりになって、
サッカー部や野球部は校舎内で筋トレに励んだ。
湿度が急上昇した教室に反して
廊下には冷たい空気が漂っている。
上履きを鳴らしながら僕はフラフラと図書室へ向かった。
こんな日は図書室も空いていて、
雨音が響く静かな室内はなんとなく良い感じだった。
僕は真っ直ぐに文学の棚へ向かい、
課題で必要な三島由紀夫の資料を探した。
図書室には女子生徒が中央テーブルに2人で座り、
隅の方で男子生徒が1人化学の棚をあさっていた。
聞く気はなかったのだが、
2人の女子生徒の会話が耳まで届く。
「あの子、こんな日も屋上行くのかな?」
「あ~行ってるかも。気持ち悪いよね……」
「授業中もほとんど居ないじゃん」
「ね。そろそろ自殺でもするんじゃない?」
僕は本を持ってカウンターへ向かった。
「2週間後に返してください」
図書委員は顔色を変えずに慣れた手付きでカードにハンコを押した。
図書室を後にして誰も居ない廊下を歩く。
比較的冷静だった。誰だって陰口の1つくらいは言う。
東海林はマイペースだから、そういうものの対象になりやすいのだろう。
放課後だけでなく、昼間も屋上で時間を潰していたのか。
教室に着き、鞄に本を詰め込む。
どうしたんだろう、身体が熱い。
僕は思い切り自分の机を殴った。
それはもう、音が廊下まで響くほどに思い切り。
鈍い痛みで頭が冴えてくる。
心臓が高鳴り、ひどい憤りを感じた。
さっきの女子たちに対するものではなく、自分自身への。
僕はくだらない理屈で好きな人の陰口を黙殺したのだ。
それがどうしようもなく情けなくて、イライラして、破裂した。
自然と足が屋上へと向かう。
まさかこんな日に東海林が居るとは思わなかったが、
何か嫌な予感が僕の胸を刺した。
右手の痛みも相変わらず続いていた。
雨音が廊下を通り抜ける。
本当に強い雨、何カ月ぶりだろう。
いつも廊下を支配している学生たちの足音も
どこかに隠れてしまったようだ。
屋上の扉の前に着いた。
雨音が一層激しく聞こえる。
冷たく、鋭い音だ。
扉を開けると同時に、水しぶきが僕の全身を濡らした。
コンクリートの床で弾けた水滴が上履きをあっという間に黒くする。
とてもじゃないが傘なしで出られる場所ではない。
しかし……東海林はそこに居た。
中央に立って天を仰いでいる。
僕はその光景を見たとき、驚きよりも感動に近い何かを感じた。
薄い湯気が屋上を漂っている。




