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十品目 人食い蛸(後編)

 八人でブレイブ村まで牛車と一緒に帰る。

 道中、ホークが暗い顔をして話し掛けてくる。


「とんだ人食い蛸漁になっちまったな。蛸に人間が狩られちまった」

「冷たいようやが、ハントである以上、危険は付き物や」


 ホークは陰鬱な顔で心境を語る。


「収入的にはきついが、今年の蛸漁は中止かな」

「新人といえ、ハンターが四十人以上いて狩れんのなら、無理やろうな」


 ブレイブ村に着いた。

 今回の蛸漁の主催者にホークたち船長は報告に行った。


 ランドルは銭湯で一風呂浴びてから、休憩する。

 夕方に山海亭に行くと、キャシーが表情を曇らせて声を懸けてくる。


「ランドルさんは無事だったんですね。蛸漁の件が村で話題になっています」

「たかが、蛸と思って行ってみたら、大惨事やからなあ。今年は蛸が食えないかもしれんのう」


 キャシーは表情を曇らせて語る。

「ハンターさんに無理をさせる訳には、いきませんからね」


 ランドルは揚げ芋と鳥串で、その日は食事を済ませる。

 人食い蛸漁の話が立ち消えになってから、ランドルは樹海に入っての採取で日々の生活費を稼いでいた。


 人食い蛸漁から十日後、日課の体操をしていると、また、ホークが尋ねてきた。

 ホークが困った顔をして伝える。


「ちょいと、いいかい? 蛸漁の件で話がある。明日、もう一回、蛸漁をやる」

 ランドルはいい気がしなかった。


「やるんか? やめたほうがええで。あの量の蛸は対処しきれん」

「今度は腕の立つハンターを雇って大物だけを狩る。ランドルさんも参加してほしい」


 ランドルは気になったので訊いた。

「蛸を喰いたいと騒ぐ、大物スポンサーが現れたんやな」


 ホークは軽く驚き、褒めた。

「よくわかったな。スポンサーは大金持ちで美食家のサマンサ夫人だ」


「聞いた記憶があるで。なんでも、変わった食材を、金に飽かせて買うてるそうやな」

 ホークは淡々とした顔で教えてくれた。


「サマンサ夫人は人を餌にする大蛸をお求めだそうだ」

(金持ちの道楽か。それでも、金があれば、亡くなったハンターの身内に見舞金として、いくばくかでも金が行くやろう)


「事情はわかった。それで、どうやって大物人食い蛸を狩るんや?」

 ホークが真剣な顔をして、作戦を披露する。


「蛸は好奇心が強く、食欲旺盛だ。餌の付いた綱を蛸が来る前に湾内に設置する。蛸が餌を掴んだら大王牛とハンターが綱を引っ張って浜に上げる」


 良い作戦に思えた。

「相手が蛸なら、浜に上がってしまえば、こっちのもんやな」


「ただ、一本だと掛からない不安があるから、五本の綱を設置する」

 大事な点なので確認しておく。


「蛸は一頭だけ獲れればええんか?」

「でかいのが一頭でも獲れば、俺たちの面子は保てる。最悪、残り四本の綱は捨てていい」


「話はわかったで。スポンサーがいるなら、タダ働きはない。やるわ」

 ホークは、ほっとした顔をする。


「ランドルさんが来てくれるならありがたい」

 翌日、大王牛に小舟を牽かせて浜に向かった。参加するハンターは五十人以上とハンター総出の狩りに近かった。


 浜に着いた時は昼過ぎで、蛸が潮に乗って帰って行った後だった。本番は翌朝になる。

 翌朝に向けて、浮きの付いた綱が準備される。綱の長さは二百m、太さは八㎝にもなった。綱の先端には鉤爪があり、餌の獣脂を付ける場所がある。


(蛸は重さが一t以上ある。一頭でも獲れればサマンサ夫人は満足するやろう)

 翌朝、暗い間にハンターたちは起き出した。


 綱の先の鉤爪に獣脂の塊を刺す。

 小舟に乗って、綱を浜から百五十m地点に五本、設置した。


 綱は大王牛が二頭、ハンターが十人態勢で引く準備をしておく。

 ランドルの配置された場所は五番綱。ランドルの役目は綱を引く係だった。


 浜では人食い蛸が上がった際の準備も万端だった。動きを封じる痺れ銛が用意される。

 朝日が昇り、潮の流れが変わった。人食い蛸がやってくる時間帯になる。


 浜辺を静かな潮風が通り過ぎる。

 ずるずると音がして、綱が海側に引っ張られた。


 人食い蛸が食い付いたが、すぐに綱を引かない。充分に食いつと思ったところで、ホークが合図をした。


 大王牛に鞭が入り、ハンターが綱を引く。綱はピンと張られる。

 浜で人食い蛸とハンターによる綱引きが開始された。


 人食い蛸の力は強く、体重は重い。だが、大王牛の力も強く、そこに腕っぷしが強いハンターが十人も加われば、さすがに人食い蛸といえど引っ張られる。


 餌を放せば人食い蛸は引っ張られない。だが、ホークの予想通りに人食い蛸は餌を放さなかった。

 ぶつり、と音がした。隣を見れば、四番綱が切れていた。人食い蛸とハンターの力比べに綱が耐えられなかった。


 ランドルは一瞬全力で綱を引くのを躊躇った。だが、気を抜けば綱は海側に引かれる。

(ええい、ままや、綱が切れた時は切れた時や)


 四番綱を引いていたハンターが加勢に来た。綱が引かれる速度が増す。

 浜辺に引き寄せられる赤い蛸の頭が見えた。蛸は全長十二m、二・五tもある蛸だった。


 蛸は浜辺に引き上げられた。ハンターの半分が綱を放して痺れ銛を手にする。

 ランドルは、残って蛸と力比べをする役を選んだ。綱が手に食い込む。油断すると海がわに引き込まれそうになる。


(海に引き込まれたら、しまいや。放さんでえ)

 必死でランドルたち綱引き役のハンターが耐える。


 急に綱を引く力が止んだ。見れば、蛸が浜で這い(つくば)っていた。

 誰かが声を上げる。


「人食い蛸が痺れたぞ。止めを刺せ」

 ベテラン・ハンターの槍が人食い蛸の急所を貫く。


 見渡せば、他の二か所でも人食い蛸が浜に上がって、止めを刺されていた。

 はあはあと肩で息をする。


「なんともまあ。豪快な蛸漁になったのう」

 切れた綱が二本。獲れた蛸が三頭で、合計四tにもなった。


 人食い蛸が、あまりに大きかった。人食い蛸は飛行船でブレイブ村の解体場に運ばれた。

 ランドルは人食い蛸の解体に立ち会った。


 解体場で解体された蛸の中からは、ハンターの遺品と思われる品が次々と出てきた。

 解体場の作業員のコボルドがリクソンに話し掛ける姿を目にした。


 作業員は困った顔で尋ねる。

「リクソンさん、注文の部位以外はどうしましょう。競りに掛けて売りますか?」


 リクソンが表情を真剣な表情で指示する。

「味のほうが気になるところですが、競りに掛けて売りましょう。少しでも亡くなったハンターさんへの身内の方への見舞金を増やします」


 この日だけは市場に安い蛸の身が溢れた。山海亭でも蛸料理が出た。

 常連は亡くなったハンターに哀悼の意を表しながら、蛸を食べた。


 ランドルたちが人食い蛸を獲ってからは大規模な蛸漁は行われなかった。

 蛸が高値になったので、安全に浜辺で蛸壺を仕掛ける漁法で蛸を獲るハンターはいた。


 だが、成果は今一で、蛸は高値で推移する。山海亭では蛸が高いので、注文する客はめったにいない。ランドルも今年は蛸料理が高いので我慢した。


 こうして、人食い蛸漁の季節は終わった。

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