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九品目 七面鳥ジャーキー(後編)

 開けた地形がある場所に出た。開けた地形といっても、何もないわけではない。

 高さ二十m、太さ八十㎝の木が六本ほど残っていた。


 マックスが険しい顔で訊く。

 ランドルとマックスは木陰に隠れた。時間が流れる。


 大地を踏み鳴らす音が聞こえる。巨体をゆする金色に輝く大熊が現れた。

(きた、ゴールド・ベアや。こうして見ると、でかいのう)


 ゴールド・ベアは明らかに気が立っていた。また空腹なのか、エイドリアンを見て(よだれ)を垂らす。ゴールド・ベアが突進した。


 エイドリアンが紙一重で見切り、(かわ)した。エイドリアンは大剣を抜き、斬撃を叩きこんだ。

 ゴールド・ベアは苦悶の叫び声が上げた。


(効いとる。エイドリアン先輩の大剣はゴールド・ベアに効いとる)

 ランドルは発光弾をゴールド・ベアに向けて撃った。


 発光弾が当たってもダメージはない。だが、暗闇の中でゴールド・ベアの金色の毛皮を光らせる効果はあった。


 ランドルは次々と発光弾を当てゴールド・ベアの体を光らせていく。

 マックスが飛び出し、大剣で斬り懸かる。マックスは作戦通りにエイドリアンとでゴールド・ベアを挟み撃ちした。


 ゴールド・ベアは前後を挟んだ二人、どちらと戦うか迷った。

 ランドルは、ここで煙幕弾を撃ちまくる。着弾した地点から濛々と白い煙が上がった。


 ゴールド・ベアは二人の位置を見失った。

 だが、発光するゴールド・ベアは煙幕越しからでも見える。


 エイドリアンとマックスの攻撃をゴールド・ベアは、いいように受けた。

 ガアアアーっとゴールド・ベアが吠えた。金色の毛がなおも輝き、電気を帯びる。


(ここが勝負の分かれ目や)

 ランドルは青唐辛子破裂弾を弩に装填する。ゴールド・ベアの顔を目掛けて撃った。


 青唐辛子弾がゴールド・ベアの顔に着弾する。

 ゴールド・ベアが苦痛に満ちた表情で顔を掻き毟る。


(効いとるで。やはり、青唐辛子はゴールド・ベアの弱点なんや)

 ランドルは煙幕を切らさないように、煙幕弾を撃つ。


 時折、ゴールド・ベアが危険な攻撃を出そうとした時には、青唐辛子弾で援護した。手の空いた時には、爆裂弾を撃ち込む。


 ランドルが援護している隙に一方的にエイドリアンとマックスは攻撃を浴びせた。

 ガアアアー、雄たけびと共にゴールド・ベアは倒れた。


 マックスは肩で息を切らしていた。だが、エイドリアンは、うっすら汗を掻いた程度だった。

 マックスが複雑な顔で心境を語る。


「エイドリアン先生がいたとはいえ、十五分程度で倒せるとは思えなかった」

「この手の大型モンスターとは、正面切ってやりあう戦いは悪手や。型に嵌めて楽に倒せんと、恐ろしいほど苦戦するで」


 エイドリアンが満足した顔でランドルを褒めた。

「それだけ、ランドルの援護が良かったってことだ。信号弾を上げてくれ。ゴールド・ベアを討伐しての帰還だ」


 ランドルは、エイドリアンにぺこりと頭を下げて挨拶した。

「ほな、わいは先に失礼しますわ。あと、よろしゅうお願いします」


 エイドリアンは鷹揚に頷いた。

 マックスが困惑した顔でランドルに質問する。


「ランドルさん、いいのか? ゴールド・ベアの特異個体を狩った業績が残らなくても。こいつを仕留めた実績は、間違いなく大金星だ」


 ランドルは笑って否定する。

「ええわ。二人の手柄にしてや。わいは木の陰で弩を撃っていただけや」


「マックス。世の中には、そういうハンターもいるんだ」

 エイドリアンがマックスに懸ける言葉が聞こえた。


 ランドルは二人に背を向けると、飛竜便に乗って一足先にブレイブ村に帰った。

 夕方まで眠り、銭湯に行ってから、山海亭に顔を出す。


 常連がやってきて、朗らかな顔で語る。

「なあ、見たか、解体場に運ばれていくゴールド・ベア。凄い、でかかったな」


「見たよ。あれは特異個体だろう。あんなの、二人で倒しちまうんだから、エイドリアンさんは世界一のハンターだよな」


(エイドリアン先輩は上手くやってくれたようやな。わいの活躍は、なかった建前になっとる)

 常連の話をランドルは黙って聞いていた。


 すると、頼んでいない品をキャシーが持ってきた

「あれ、キャシーはん。わい、これ、頼んでないで。誰かのと間違うとるで」


 キャシーが笑顔で教えてくれた。

「大将からです。新作の七面鳥のタタキ、柚子胡椒を添えてです。まず、最初にランドルさんに食べてもらいたいそうです」


 ランドルはフォークで七面鳥のタタキを刺す。肉はとても柔らかかった。

「そうか、そんなら、いただくわ。おお、ピリ辛の中に柚子の香りが効いていて美味いで」


 七面鳥のタタキは淡白な味わいの中に塩味が効いていた。それでいて、香辛料が主張し過ぎない、まろやかな味だった。


「王道をいく味やない。せやけど。これは肉の名脇役や」

 ランドルは七面鳥の新たな食べ方に満足して、キャシーに微笑んだ。


 常連たちもランドルのほうを見て、ゴクリと唾を飲む。

「大将、こっちも七面鳥のタタキをちょうだい」

「こっちも、七面鳥のタタキね」


 大将が微笑み、キャシーが笑う。

 山海亭は、いつものように平和だった。

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