気になるうわさ
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「ねえ、毎回何処行ってるの?」
「え、」
わくわくとした表情で私の答えを待つ友人達に、どう答えようものか悩む。
曖昧に微笑むと一斉にブーイングが起こった。
ううむ、困った。
仲の良い友達ができたのはうれしいが、これまた相当な恋愛話好きなのだ。
男の子の友達と会ってて、なんて言った日には話の餌にされるに決まってる。あげくその男子を捜し回りそうで怖い。絶対潤くんのことは話せない!
芽依はさりげなくため息をはいた。
「友達と会ってるの」
「友達?!男の子?」
「女の子だよ」
「ウソ!その顔は男でしょ!」
「何を、根拠に……」
「彼氏?彼氏?」
「ちがう、ちがう」
「芽依、どの子か教えなさい!」
「…内緒」
えへ、と首を傾げる。
この間もそうだ。
たまたま隣の席に座った男の子と話が盛り上がっただけで、後からどれだけ聞かれたか。そういえば、調理実習のときも、お菓子を持ち帰る私に対して、誰にあげるのかしつこく聞いてきた。
本当に好きだな!
彼氏なんか出来たこともないような私なのに。
どれだけ私がもてると思っているんだか。
けれども、恋愛の話は身内の中だけで盛り上がる。決して他人の恋愛には口出ししない。そういうところには非常に好感のもてる友達だ。
これ以上いたら、根掘り葉掘り聞かれてしまいそうな空気と、約束の時間に気づいて立ち上がる。
「もう時間なの!ごめん、また明日!」
友達の文句を背に受け、苦笑する。
さあ、例の潤くんに会いに行こう。
◯
別に潤くんのことを知られたくない訳ではない。
独り占めしたいわけでもない。
だけど、きっと、潤くんは人気者だ。
本来、私とは住む世界が違う人だという自信もある。
そんな人のことを軽々しく口に出すのは、とてもためらわれることだった。
ふ、と耳に入ってきた。
女の子達が、きゃっきゃっと楽しそうにしている会話の内容。
よく聞く話だ。
だけど芽依は最後までこの話を聞いたことがない。
友達は恋愛ごとには興味を示すが、そういったうわさは口にしない。「かっこいい」と見た目で騒がれる男なんぞに興味はない。それよりも男は性格なんだと。随分な現実主義だった。
人に聞く、という手段もあったが、そんなことをすれば「興味があるの?へえ?」と彼女たちにつっこまれてしまいそうで、なんだかする気は起こらなかった。
ちなみに芽依もこの手の話には元々興味がない。恋愛ごととは関係なく生きてきた彼女にとっては、それほど惹かれる話でもなかった。
そんなこんなで、入学当初から疎外感を感じている話題に、未だに触れられていない芽依だった。
「本当にかっこいいよねえ『長谷屋センパイ』」
「もう、あの美しい容貌で微笑まれたら死んでも良いー」
「『長谷屋センパイ』と恋人になりたいなんて言わないから友達になりたあい」
「馬鹿、んなのなれるわけないでしょ!」
「冗談だって!マジになんないでよー」
『長谷屋センパイ』という単語を耳が拾う。
よく耳にする言葉。
心がぐらりとゆれる音がする。
その気持ちを誤魔化し時計を確認すると、時間が迫っていた。
すこし足早に通り過ぎる。
そうだ、早く行かなきゃ。
潤くんが待ってる。
こうして今日も、芽依は学園のウワサを最後まで耳にすることもなく去って行く。
彼女たちのその後に続く話を芽依は知らない。
いつもその後に、王子様の名が語られることに。
「でも、長谷屋センパイって女たらしじゃん。いっつも女連れてんの」
「そこがいいんじゃん?なんたって、王様だし」
「でも私、弟の王子様の方が好き!」
「血の繋がってないって言う?」
「そう、蘇芳センパイ!」
「確かに顔は似てるけど…、優しいけど告白は絶対断るし、一定以上女の子を近づけないので有名じゃん。相手になんかされないって」
「ある意味、長谷屋センパイより強敵だね」
「中庭は、蘇芳センパイの為に立ち入り禁止になってるし」
「えー、でも私は『王様』の長谷屋センパイよりも『王子様』の蘇芳センパイの方が好きだなあ」
「っーか、もっと現実に目を向けろって」
「きゃはは、言えてらー」
彼女たちは知らない。
その彼女たちが話している王子様は、1人の少女を心待ちにして空き教室で待っていることを。
◯
『長谷屋センパイ』ともごもご口の中で呟いてみる。
それは、よく耳にする名前だった。
どういう人物かは知らないが、1人だけ、心当たりがないこともない。
それは仲良くなって1ヶ月は経つ、王子様のような外見を持つ男友達。
それは、噂話を最後まで聞きたくないと心のどこかで思っている理由。
心当たりの人物と、噂の人物が同じかもしれないと思いたくないのだ。
『潤くん』なのかもしれない、という疑いがあった。
『長谷屋センパイ』は、とっても格好良く、美しい人らしい。
儚げな印象で、皆が恋する存在なのだと。
とてももてる人だということも。
そんなの潤くんにぴったりだ。
『潤くん』ではない可能性もあるが、どちらにしろあの噂話のどこかには必ず『潤くん』の名前が入っているはずだ。
もてるのにも変わりはない。
それほどまでに人気の人、だと思う。
あんなに綺麗な人は潤くん以外、私は目にしたこともない。
そして、そうだとは断定できないが、『潤くん』は『長谷屋 潤』という名前なのでは、という考えがちらついていた。
いつの間にか、空き教室まで来ていた。
今の考えがまとまっていないままで彼に会えるのだろうか。
潤くんは潤くんだ。人気者であろうと私の友達。
それは決して変わらない。
なら、どうして私はこんなに考え込んでいる?
何で?何でだろう。私にも分からない。
でも、この扉を開けるのには、少し戸惑う。
がらり、と扉が開いた。
潤くんだ。いつも通り、朗らかに笑う潤くん。
どうやら入ってこない私に焦れたらしい。
「芽依、何ぼうっとしてるの?入らないの?」
そう言う潤くんに、私はとりあえず笑顔をこぼした。
私は上手く、笑えてる?
ようやく話が動き始める…かな?
芽依ちゃんの勘違いが始まりました(笑)