閑話③ 「気の置けないベストフレンド」
本編序章より以前の時系列
故郷の村での幼馴染4人のやり取り
「昨夜、まーた告られちゃった」
眩しい朝日が差す村の広場にて、ピンクのポニーテールが揺れる。雑多に置かれた木箱に座る少女──ルビアの表情は物憂げだ。
「この前は鍛冶屋のところの息子だったっけ。今度は誰だよ?」
「村長の甥よ」
「マジか...」
傍らに立つ赤毛の少年──セイザンは、もう何回目か分からない愚痴を聞かされ、うんざりとしていた。村長の甥の、あの日に焼けたゴツい顔が浮かぶ。
「だから言ってやったの、あたしの喜ぶものを持ってきたら、考えてあげるってね」
「またそうやって貢がせるわけか...まったく」
悪びれもせずあっけらかんと話す幼馴染に、セイザンは軽く頭を抱えた。もうすぐ16歳になり、村の中では成人のような扱いとなる。そのせいか、やたらとルビアに対して想いを伝える村人が増えた。今月だけでもう5人目である。
2人は朝一から、村の広場にて祭りの準備をしていた。年に1度催される、豊作を祈願する祭りだ。と言っても、祭りを名目にして村中で飲めや歌えやの騒ぎをする程度のものだが。
「マーくんたち、遅いなぁ」
「あいつが寝坊するのも珍しくはないが、レイナも遅いのは妙だな」
もう2人の幼馴染の顔を浮かべながら、セイザンは腕を組む。黒髪の少年マークは割と時間にルーズだが、黄金色の髪を持つ少女レイナは、かなり几帳面な方だ。朝から広場に集まって祭りの準備をするという約束だったはずが、それに遅れてくるのは妙な話だった。
「もしかして、レイナはマーくんが寝坊すると見越して、起こしに行ったのかな?」
「それは有り得るが、にしても遅くないか?」
「だから、そこで2人に何かあって...とか!」
ルビアのテンションがどんどん上がる。マークがレイナに好意を抱いているというのは、もはや村中の周知となっている。隠していると思ってるのは本人だけだ。
「あいつらに限って、それはないだろ」
肩をすくめながら、セイザンはため息をつく。親友の奥手っぷりは昔から知り尽くしている。今さら何か行動を起こすとも思えない。
「じゃあ、どうして遅れてると思うのよ?」
口を尖らせて眉をひそめるルビア。そういうあざと可愛い仕草をするから、騙される男が多いんだろうなと、セイザンは内心で思った。
「そうだな、俺が思うに...」
「おーい! 悪い悪い、遅くなった」
セイザンが何か言いかけた時、遠くから手を振りつつ駆けてくる黒髪の少年の姿があった。
「あ、マーくん!レイナも!」
マークの隣には、慌てた様子で走るレイナの姿も見えた。
「遅いぞー」
「いやホント、すまん。寝坊しちまって...」
ジト目を向ける赤毛の親友に、マークは頭をボリボリと掻きながら謝る。その髪にはしっかり寝癖がついている。
「マーくんはともかく、レイナはどうして遅れちゃったの?」
肩で息をするレイナの背中を擦りながら、ルビアは尋ねた。
「じ、実は...マークが寝坊すると思って起こしに行ったんだけど...」
それはルビアもセイザンも何となく予想していた通りである。問題はその先だ。
「なかなか起きないから、気付けに効くシマトカゲの干物の匂いをかがせてみたの...」
「いや、マジで強烈な匂いだったアレは!」
思い出しただけでマークを軽く嘔吐いた。ルビアもその匂いは噂には聞いていたが、相当なものだったらしい。いや、そもそもそんなものを持ち歩いてるレイナに少し引いた。
「マークが飛び起きて、その拍子に部屋に置いてたものが崩れちゃって...」
「それを直してたら、遅くなっちまったってわけだ」
話の途中から、ルビアもセイザンも微妙な表情を浮かべ、大きなため息をついた。何かを期待していたわけではないが、あまりにしょうもない理由に力が抜けた。
「もう、あたしはてっきり、マーくんが寝ぼけてレイナに襲いかかったのかと思ってたわー」
「バッ!そ、そ、そんなことするわけないだろ!」
「ち、ちょっとルビア!やめてよ!」
ルビアのからかいに、マークとレイナは赤面する。
いつもの面子による、いつもの光景。しかしセイザンは見逃していなかった。
ルビアの瞳に映る、ほんのわずかな安堵の色を。
「ほら、遊んでないで、祭りの準備始めるぞ」
「お、おう、そうだったな」
「そ、そういえばルビア、今年も祭りの歌い手やるんだよね? もう練習はバッチリ?」
「当然。後で試しに聴かせてあげるわ」
セイザンに促され、祭りの準備が始まる。場の空気を戻すのは、いつも彼の役目だ。
「...ホント、苦労人だよな、俺って」
「何か言ったか?」
「別に」
準備が一段落し、ルビアが聴かせてくれた歌は、村の広場に優しい音を響かせていた。




