閑話⑥ 「野郎共のデイティングトーク」
第一章終了後の時系列
宿にて、マーク・セイザン・ケーベストによる会話の様子です
「ところでなんだが...」
すっかり夜も更けた頃合い。そろそろ寝ようかという雰囲気になったところで、体格の良い青年──ケーベストが切り出してきた。椅子に逆向きに座り、背もたれに身体を預けている。
街にある宿の一室。3人で使うには少し狭いが、どうせ寝るためにしか使わないということで、赤毛の少年──セイザンが安く借り上げた部屋である。
簡素な寝具でシーツを被り、黒髪の少年──マークは顔だけを出して眉をひそめた。
「なんだよ、眠いんだけど...」
「お前らレイナちゃんのことはどう思ってんの?」
「ぶっ!」
眠気が一気に吹き飛んだ。マークは飛び起き、寝具の上に正座する形になった。
「な...な...何を...?」
「また唐突だな、オッサンは」
シーツを被ったまま狼狽えるばかりのマークをよそに、セイザンはベッドの縁に座りながらため息をつく。
「オッサンはやめろよ」
いつもの調子で一言。次いで、ケーベストは頭に巻いていたバンダナを解きながら続けた。
「ほら、マークは彼氏じゃないって言ってたけど、やっぱりレイナちゃんって可愛いだろう? 故郷でもモテモテだったんじゃないかって思って」
黄金色の髪と真っ赤なローブ姿。穏やかな笑みを浮かべる幼馴染の姿を浮かばせ、マークは少し頬を染める。
「《《お兄さん》》としては、若者たちのその辺の事情が気になるわけよ」
「ただ茶化したいだけだろ?」
わざと強調して言った言葉を無視し、セイザンは冷静に指摘。出会ってから数日、この長身の斥候の性格はだいたい分かってきた。
「まぁまぁ、ここには野郎しかいないわけだし、寝る前の戯言だと思って付き合ってくれよ、青少年」
女性陣2人は隣の部屋だ。先ほどそれぞれで部屋に入る際、レイナは相当眠そうにしていた。今頃は夢の中かもしれない。
「別に構わないが、大した話はないからな」
「おう、苦しゅうない」
ニヤニヤと楽しそうな表情のケーベスト。セイザンはやれやれと肩をすくめて話し出す。
「確かに、贔屓目に見てもレイナは美人だと思う。村にいた頃から、誰もがアイツの器量や気立ての良さは褒めてたからな」
特に大人たちからの評判が良かった印象だ。誰にでも分け隔てなく、優しく接してくれる。好かれないわけがない。
「そうだな、それは話してすぐ分かったぜ」
うんうんと大きく頷くケーベスト。
「それはともかく、《《お前さんは》》どう思ってるんだよ?」
微妙に話をズラしてることがバレて、セイザンは少しだけ苦い顔をした。やはりこの男は食えない奴だ。仕方ないから、押し黙ってる親友に押し付けることにした。
「コイツの反応を見てるだけで、俺はお腹いっぱいだよ」
「なっ、ど、どういう意味だよ!」
何を妄想していたのか、マークはずっと顔を赤らめて呆けていた。急に話を振られ、反応に困り果てる。
「めちゃくちゃ分かりやすいだろ、コイツ?」
「確かになー♪」
青年の視線がマークに移る。セイザンは内心で少しホッとしてから続けた。
「ガキの頃に、「レイナと結婚するんだー」とか言ってたもんな、お前」
「バッ...そんな昔の話を引きずり出すな!」
耳まで赤くなっているマーク。その反応を見てケーベストはゲラゲラと笑うばかりだ。
「マークは一途だなぁ!そういう青春ってやつ、嫌いじゃないぜ」
椅子から立ち上がり、寝具の上で縮こまっている少年の肩を叩く。
「いや、悪いことじゃない! 1人の女を想い続ける...良い話じゃないか!」
「お前っ...絶対楽しんでるだけだろ!」
肩に置かれた手を振り払い、マークはシーツを被って不貞腐れた。
「おやおや、へそを曲げちまったか」
わざとらしく肩をすくめて、ケーベストはおどけてみせる。そして、ゆっくりとその目を赤毛の少年に向けた。
「で? いい加減答えろよ、セイザン」
「...何をだよ?」
「とぼけなさんな。お前さんはレイナちゃんのこと、どう思ってるわけ?」
座るセイザンの前に立ち、逃がさないとばかりにニヤつきながら見下ろすケーベスト。セイザンは苦虫を噛み潰したような表情を作る。
「さっきから誤魔化してるだろ? それ、答えたくないってことなのかなぁ?」
「...お、俺は...」
気がつけばマークもシーツから顔だけ出して聞いている。何か他に誤魔化す手はないかと思案するが、目の前の大柄な青年から注がれる視線がそれを許さない。
正直に答えるしかないのか。
「俺は、レイナのこと...」
バーン!
「うっさいわよアンタたち!」
唐突に部屋の扉が開かれ、薄い白地の寝間着姿の人影が飛び込んできた。緑の瞳と長い耳の少女──アスリィは、苛立ちに歪ませた表情を浮かべている。黙っていれば愛らしいとも言える彼女だが、今はまさしく鬼の形相というやつだ。
「あ、アスリィちゃん...」
「こっちは寝ようとしてるんだから、静かにしてよね!」
あまりの剣幕に、ケーベストもたじろぐ。よく見ると、彼女の背後には寝ぼけ眼をしたレイナも立っている。同じく寝間着姿で、枕を抱いていた。
「...うるさぁい...」
半分寝てるのか、抗議の声にも力がない。
「そ、そんなにうるさかったか?」
「安宿で壁が薄いのよ!」
頭ひとつ以上の身長差があるが、アスリィの威圧感に押されたケーベストは後ずさりするばかりだ。
「えと、悪かったな、2人とも」
セイザンが代わりに謝り、マークもそれに続いて拝むような手をした。
「ったく...レディの気持ちも考えなさいよね!」
そう吐き捨て、アスリィは今にも立ったまま寝そうなレイナを伴って部屋を出ていった。
「えーと...」
嵐が過ぎ去ったように静かになった室内。
「...寝るか」
「...賛成」
「異議なし」
ケーベストの言葉に、マーク、そしてセイザンが続き、3人はゴソゴソと寝具に身を預けた。ほどなく、長身の青年がイビキをかきはじめた。
「……」
セイザンはただ1人、ホッとしている自分を自覚していた。心の中の、本当に奥の奥。そこに隠してある気持ちが、無事に守られたから。
「ま、俺はマークほどじゃない...」
そう言い聞かせ、彼もその目を閉じた。
「大きくなったらレイナと結婚する」
かつてそう言っていた子供は、マークだけではなかったのだ。




