第2話 似たもの同士
ガコン、と。
缶ジュースがお決まりの音を立てて自動販売機から出てくる。
ポカリスエット。
俺はそれを手に取り、すぐ傍に立っているクールな美少女へ礼を言った。
「ありがとう、上地さん。俺、ほんと奢られるようなこと、一つもしてないのに」
彼女も俺と同じポカリスエットを購入して、それを手に取る。
そしてこっちを見ながら、無表情で首を横に振った。
「いいよ、こういうのって気分だし」
「今度、俺も何か奢らせて? 掃除の手伝い分もあるから……そうだ。明日の昼休み、購買で何かパン買ってくるよ。何がいい?」
流れるようにして俺が問いかけると、彼女は買ったポカリスエットを少し飲み、キャップを閉めながら小さくため息をついた。
「君は、そういうパシリみたいなこと、好きでやってるの?」
「……え?」
パシリ。
そう言われて、内心ドキッとしてしまう。
「真壁君たちにもそうやって利用されてるの、よく見るんだってば。私だったら嫌なんだけど、八代君的にはそうでもないの?」
「いや、そうでもない……こともないというか……」
「じゃあ、やめよ? お礼なんていらない。君は私に、勝手に奢られた。話はそこで終わり」
言って、またゴクゴクとポカリを飲む上地さん。
場所は体育館近くだ。
室内運動部の掛け声とバッシュの音が小気味よく聞こえてくる。
沈黙を作ると、それがより一層耳に伝わってきた。
生唾を飲み込み、俺は自分の中の疑問を口にする。
「……上地さんはさ、もしかして俺がいじめられてるとか、そういう心配をして、声を掛けてくれた感じ?」
「ううん。いじめられてるとかは思ってない。ただ、言いづらそうな思い抱えてそう、と思って見てた」
見てたのか。
まあ、見られても何も言えない。
真壁君たちはクラスカーストトップで、俺は入学式にたまたま彼らと仲良くなったから同じグループにいるだけだ。
恐らく、いや、これはかなりだが、人種的に俺と彼らは合わない。
合わないのに、簡単に離れることもできなかった。
なぜなら、グループから勝手に離れるようなことをすれば、それは堂々と彼らへ拒否の姿勢を示すことになる。
真壁君たちは何もなく俺と付き合ってくれてるのに、こっちがそれを拒んでしまえば、雰囲気を悪くするのは言うまでもない。
何で離れたのか、と聞かれて、合わないから、とも答えられなかった。
入学して間もないから、他に仲の良い人も特にいない。
完全に孤立無縁でボッチになってしまう。
それだけは嫌だった。
「……お互い、この時期は大変だね。友達選びをミスると」
「……その言い方だと、上地さんも?」
驚いたことに、俺の問いかけに対し、彼女は「ご名答」と頷く。
「私、ほんとは一人が好きだし、友達も一人いればいいくらいの人間なの。残念ながらね」
「えっ、じゃあ、今いるグループは……」
「正直抜けたい。けど、簡単にそんなことできないから悩んでる」
マジか。
上地さんがそんな悩みを抱えていただなんて。
「特に女子だと、それは顕著でね。余計に他のグループ行ったりとかすると、絶対梨乃辺りが騒がしくなるの」
「めちゃくちゃ想像できる。リーダー格だもんね、彼女」
俺の言葉に、上地さんは頷いて返してくる。
「学校生活もすごくキツくなりそう。梨乃たちに目の敵にされたら厄介なの確定」
「それもわかる。っはぁ〜……! 上地さんも上地さんで悩んでたんだなぁ〜……! はぁ〜……!」
感心するように俺が言うと、彼女はジト目でこっちを見つめて、
「なんか面白そうにしてるね。全然面白くないのに」
「い、いやいや、面白そうだなんてそんな」
手を横に振って否定しつつ、俺は頷く。
「了解です。話聞かせてくれてありがとう。似たような悩みを持ってる人がいて、なんか気持ちが軽くなった」
「ん。ならよかった」
俺たちは、どうも似たもの同士みたいだった。




