第1話 カーストトップの彼女
俺、八代譲は、自分のことがあまり好きになれない。
「悪い、譲……。今から係の説明受けに行かないといけなくてさ。申し訳ないんだけど、掃除の続きと片付け、やっといてくれるか?」
県立飛凪高等学校。
ここに入学して二ヶ月が経つけれど、高校生になっても、俺は人からの頼みを断れないままの性格でいた。
「うん、了解。あとは俺がやっとく」
苦笑交じりに言うと、新しくできた友人たちは、申し訳なさげに手を擦り合わせる仕草をして、小走りに去っていく。
俺は小さくため息をつき、手に握っていた箒を再び動かし始めた。
「……人って……なかなか変われないよな……」
こういう感じで、昼休みとかも俺は友人たちのジュースを買いに行くことになったり、購買に行かされたりしているわけだ。
もちろん、いつもってわけじゃない。
皆いい奴だし、俺一人を使いっ走りにしてる雰囲気を出さないよう努力してるんだろう。
ジャンケンをして、負けた人がジュースやパンを買いに行くみたいな、言わばゲームの一環として、ノリのような雰囲気でパシリ役を分散させている。
その中でも、何となく俺がものを買いに行く頻度が高いような気がするのは……恐らく気のせいではないと思う。
一番頼みやすい。
そういう風潮が皆の中で出来上がってしまっているんだろう。
仕方ない。
これは中学生の時からだから。
俺は、そういう星の元に生まれたタイプ。
強気に出られなくて、人からの頼みを断れない。
高校生になったら変われるかと思ってたけど、そんなことなかったな……。
ため息の一つもつきたくなる。
はぁ。
「……まあいいや。早めに終わらせて帰ろう」
いつまでも悩んでたって仕方ない。
夕食の支度もしないといけないし、そのためにスーパーへ寄らないといけないのだ。
そういうわけで、箒を動かすスピードをさらに上げ……ようとしたところ、だ。
「……!」
放課後、俺一人だったはずの教室だけど、出入り口のところに見慣れた姿があった。
「あ、ど、どうも……!」
無視するわけにもいかず、俺はその見慣れた姿、クラスメイトのカーストトップギャル、上地凛さんに軽く会釈して挨拶。
「……」
……が、彼女は切れ長の綺麗な瞳で俺を見て、何も言わずに自分の席へただ歩いていくだけ。
いわゆる無視。
完全に無視された。
泣きたくなる。
何から何まで惨め過ぎて、恥ずかしくて、自分を呪いたくなった。
「……八代君、だよね?」
……!?
泣きそうになりながら、改めて箒を動かしていると、時間差で声を掛けられる。
その綺麗でクールな容姿と同じ、落ち着いた声音。
彼女は、自分の席の引き出しから何かを取り出そうとしていた。
俺は即座に頷いて返す。八代です、と。
「話すの、初めてだよね?」
「そ、そうかも、しれないです」
どうしてもぎこちなくなる返し。
コミュ障感がすごい。
「なんていうか、初めての人にこういうこと聞くのもおかしいのかもしれないけど、さ?」
「……?」
何だ? 何を聞いてくるつもりだろう?
「掃除当番って、君と、君が仲良くしてる真壁君とか、丸山君たちじゃなかった? どうして君一人でやってるの?」
……すごく痛いところを突かれた。
あまりにも答えづらい。
「……えっと、それは……」
「って、私もそういう聞き方するの意地悪だね。ごめん」
「え……」
彼女は謝り、そして掃除用具入れの方へ歩いていた。
「いいよ、私も手伝う。今日は梨乃たちの誘いも断ってるし」
箒を取り出し、テキパキと掃き始めてくれる上地さん。
俺はびっくりして、そんな彼女の様子をぼーっと眺めてしまっていた。
すると、だ。
「ん、言っとくけど、あくまでも当番は君だよ? 八代君も最後まできっちりやってね?」
彼女に言われ、俺はアセアセと手を動かし出す。
何なんだろう、この展開は。
パシリの俺を、カーストトップのギャルが手助けしてくれ始めた。




