(9)エリーの実力(後編)
ブクマ、評価くださった方、ありがとうございます。
「エタ、待たせちゃったね。ごめんね?」
図書室のいつもの席で課題のレポートをまとめながら待っていると、エリーの声がした。
顔をあげると、剣術クラスの時に結わえたままなのであろう。
髪を少し高い位置で一つに結わえたエリーが向かいの席に座るところだった。
「ううん、大丈夫。レポート先に少しやっていただけですもの……大丈夫、だった?」
「ふふっ、心配させちゃった?これでもこの学園では私に勝てる人間の方が少ないよ?もちろん既に卒業された方々を入れれば話は変わってくるけどね」
「う、うん。っていうか、えぇ??剣術の技量がってことだけじゃなくて、実践でもエリーってそんなに強いの?!」
ちょっぴりドキドキしていたら、エリーがすごいことを言い出した。
思わず言葉遣いが乱れてしまったのは仕方ないと思う。
剣術や体術の成績が良いことは知っていたけど、あくまでも技術的な話だと思っていた。
だって、男と女では基本的な体格や筋力が違う。
前世の格闘技系スポーツでも男女は別に行われていたから、記憶が戻る前からなんとなくそういうものだと思っていた。
けれどエリーが言う通りならば、この学園で純粋に戦闘力がトップクラスだということは、国内の同年代の中でもトップクラスということになる。
「まあそうだね……手合わせした人でいえば、魔法込みなら2年の第三王子グスタフ殿下や先の王弟であるフェルト公爵エラード様のご子息アルウィン様には今のところ勝てないかな。あと純粋に剣術でいえば、去年卒業した第二王子エルヴィン殿下や今年入学してきたウルフィアズ家嫡男ウルリックには到底勝てる気がしないけど、フェルナー辺境伯家の2男ゲアハードには剣では勝てるよ。槍だと彼の方が強いけどね?キューネル辺境伯家の嫡男ライモンドとはほぼ互角ってところかな?」
「ほ、他の人には?」
「とりあえず、私の相手じゃないかな?ほら、どこも怪我してない」
おおう、訂正訂正。
どうやらエリーの強さは同年代の枠に収まらなかったみたいだ。
比較対象で勇者にもなったエルヴィン殿下とかが出てくるレベルって、私には想像もつかない。
とりあえず、さっき名前が出たメンバーは同じクラスにも、マルクのクラスにもいないので今日は特に問題なかった、ということらしい。
授業後に浄化魔法をかけて着替えてきたであろうエリーは、授業前と変わらない傷一つない顔でニコリと笑ってみせた。
「そう…なんだ……良かったぁ」
「エタ、少しは安心した?」
「うん。エリーが強いって知ってても、怪我して欲しくないし、あいつはきっとそれなりに強いみたいだったし、多分卑怯な手段も厭わないだろうと思ってたから……」
「エーター?そんな顔も可愛いけど、ココ、皺になっちゃうよ?」
「ふぁ?!」
以前私に悪戯をする時と同じ、胡散臭い笑みを浮かべたマルクを思い出し、私は無意識にキュッと眉根を寄せていたようだ。
クスクス笑いながら眉間をツンツンと指先でつつかれ、その妙に近い距離感と変な顔を見られた恥ずかしさに、私は慌てて俯いた。
無駄なあがきだけど、眉間を両手の中指でぐにぐにと揉んでは左右に延ばしてみた。
大人っぽくはなりたいが、幼女から一足飛びに老人になるのは流石にごめんだ。
そんな私が面白いらしいエリーは懸命に笑いをごまかそうとしているけど、口元が緩んでますよ?
美人だから許されるぐらい緩んだ顔してるエリーを、少しだけ恨めしく思ってしまう。
心配してるのに笑うなんて……と若干むくれて見上げると、今度は宥めるように優しくゆっくりと髪を撫でてくれる。
ええ、もうそれで機嫌なおりましたよ?
単純ですみませんね。
「ふふっ、ゴメンゴメン。まあ、確かに彼は変な魔道具は持ってたかな。あんなもの私にとっては児戯みたいなもんだけど、普通の女性に使ったら問題だろうから、学園にも報告しておいたよ」
「ま、魔道具?え、どんな魔道具だったの?エリー、あいつに何されたの!?」
ナデナデに癒されながらエリーの謝罪を聞いていた私だったけれど、その中身を理解して頭を殴られたような気持ちになった。
あの男がエリーを狙っていたのは分かっていたけれど、それはエリー自身の美貌と後ろ盾を狙ってのものだと思っていた。
だからこそ、エリーに不埒な接触を図ろうとするならともかく、直接なにか危害を与えてくるとは思っていなかったのに、一体何を考えているのだろう。
「あー……まぁ、身体拘束の魔道具だよ。短時間だけど自由に身動きできなくなるタイプの」
「えええ!?あの馬鹿っ!今度会ったら絶対殴ってやるんだからっ!」
図書館だということも忘れて、つい大きな声を出してしまった私を咎めるように、貸し出しカウンターにいた司書職員が小さく2度咳払いをするのが聞こえた。
首をすくめて口を両手で押さえ、カウンターの方へ会釈だけ返すと、馴染みの職員から笑顔を返されたのでなんとか図書館を追い出されずにすみそうだ。
普段良い子にしていて良かった……まぁ、令嬢としてはあの暴言だけで悪印象なので嫁ぎ先は更に無くなっただろうけど。。
エリーも薄く綺麗な唇に長い人差し指をそっと添えて、『静かにね』という風にウインクを飛ばしてくる。
そのまま、そっとエリーの温かい掌で私の握りこんでいた両手はすっぽり包まれてしまう。
「あはは、最近のエタは前よりも表情豊かで素直だね?エタのこの可愛い手で殴ったりしたら、エタの手が痛んじゃうでしょ。大丈夫。おそらく彼は卒業間近まで謹慎処分が下るはずだから、エタが殴る必要はないよ」
「謹慎処分…そうなんだ」
「だから、大丈夫。もうエタが彼を気にかける必要はないから、ね?」
マルクは嫌いだけど、だからといって積極的に不幸になれとまでは思っていない。
ただただ、苦手だから会いたくないし、私のように彼に好意を持っていない女性にああいうことを強いるようなことが、今後の彼の人生でなければいいなと思うだけだ。
彼は彼なりに悩みもあったようだし、全てにおいて不真面目であったのなら、この学園に入学できるほどの成績をおさめることなど出来なかっただろう。
貴族としてはこの学園で問題を起こせば、有望な婿入り先は望めないだろう。
隣国へ留学していたのだから語学も堪能なのであろうし、貴族としての道を閉ざされても、母の実家を継ぐことになればそれなりに優秀な経営者にはなれるだろう。
エリーに喧嘩を売るなんて、本当に馬鹿な男だとは思うけど、卒業まで会わずに済むというのはエタにとっては嬉しいことなので、自業自得だと諦めて欲しい。
これを期に、本格的に反省して性格を矯正できれば、彼にとっても良いことだろうと思えた。
「退学もないわけじゃないだろうけど、ちょっと事情があってあえてその処分ってところだろうと思うよ?」
「うん……まあ、処分のことは良く分からないけど、エリーが無事なら私はそれで良いのよ」
心の底からそう思う。
エリーは私の大切な親友で、学園生活の救世主で、誰にも傷つけて欲しくない大切な存在なのだから。
そんな気持ちをこめて、エリーの腕に軽くキュッと抱きついてエヘへ笑ってみせる。
卒業パーティーでお揃いのドレスを着たら、絶対にエリーの家で雇ってもらおう。
私が行けば、少なくとも辺境伯領の農業には貢献できるだろう。
辺境伯領では食料の備蓄も必要だろうから、保存に向いた穀物や豆類や芋類の品種改良をしてもいいだろう。
学園で沢山守ってもらった分、これから先は私の見た目でチビッコ扱いしない、この強く美しい大好きなエリーを近くで支えていきたいと、改めてそう思った。
「ああもう、エタってば……ほんと可愛いなぁ」
頭の上で漏れた小さな呟きは、私には聞こえなかったけど、何故かエリーにギュウギュウと抱きしめられてしまった。
思っていた以上に強い力に『これが女性剣士のパワーかっ!』と、苦しさに焦ってパシパシと背中を叩く私に気付いたエリーが、綺麗な眉根を下げて謝るまでのほんの束の間。
ドキドキしてしまって、自分が実は同性好きだったのだろうかという悩みでその晩あまり眠れなかったことは、私だけの秘密だ。
完結後に、マルク視点の剣術クラスの番外編を書く予定です。
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