(8)エリーの実力(前編)
更新のんびりですみません。
ブクマ、評価してくださった方、ありがとうございます。
学園ではほとんど一緒に過ごしているエタとエリーが、唯一違う授業をとっているいる時間が週に3度ある。
エタはお茶会クラスという貴族家がお茶会を主催する場合に必要な知識を学んだり実践したりする、いわゆる貴族家の女主人になる時に欠かせない授業をとっている。
この授業の良いところは、実際に高位貴族家、下位貴族家、平民の富裕層、それぞれの家でお茶会の主催をサポートしている侍女長や執事の方が教壇に立つこともある所だった。
もしも自分とは家格が違う家に嫁いだ場合や、家格の違う家のお茶会に招かれた場合など、手法や対応に困るような場面のことについても、実体験を交えて教えて頂けるのだ。
確かにこの国は、ここ150年ほどは特に下位貴族や平民出身の令嬢が高位貴族家に嫁いだりするケースが散見する。
エタはおそらく結婚することはないだろうと思ってはいるが、もしも政略結婚するような話が来た場合に困るようでは家族に迷惑をかけてしまう。
それに、お茶会クラスは美味しいお茶やお菓子が頂けるので、密かに楽しみにしていたりもする。
当然ほとんどの女生徒はこの授業を選択しているのだが、一部同じ時間に行われている剣術クラスの方を選択している女生徒もいる。
剣術クラスは剣術とそれに付随する体術を学ぶクラスで主に男子学生が履修しているが、女性騎士団を目指している者や武門系一族の娘などは剣術クラスに参加しているのだ。
そして、辺境伯家嫡子であるエリーも当然のように剣術クラスを選択していた。
同じ時間に別の場所で授業があるため、剣術クラスに参加する前後のエリーは何度も見ているが、実はエタは実際に学園でもトップクラスだというエリーが他の生徒と剣を交えている所は見たことがない。
女生徒の中にはこっそり授業をサボって、お目当ての男子学生の剣術クラスを覗きに行くものもいるらしいが、それはさすがに貴族令嬢としていかがなものだろうと思う。
それでも、エリーのタウンハウスに遊びに行った際に剣の型を繰り返し鍛錬しているのを見たことがあった。
いつもの制服姿と違って、動き易い男装でシルバーブロンドの髪を一つに結んで汗を流すエリーは、まるで美貌の騎士様のように見えてしまって……同性だと分かっていても、思わずドキドキしてしまったのは私だけの秘密だ。
「今日も何の御用でしょうか、バイラー侯爵令息様?」
「ははっ、相変わらずエリー嬢は冷たいな」
「ご用件がないならご自身のクラスへ戻られたらいかがですか?」
「エタ嬢は相も変わらずエリー嬢の番犬気取りか?小型犬にキャンキャン鳴かれるよりは啼かせる方が好みなんだが」
「……変態っ」
そんなエリーと私の前に、あの日以来クラスが違うにも関わらずマルクは頻繁に現れた。
こっちはできればもう会いたくもないというのに。
そして、私もエリーも名前呼びなんて許していないのに、勝手に名前で呼んでくる。
学園では私や一部の女生徒以外は「メルカッツ次期辺境伯」と呼んでいるのに。
普通であれば「辺境伯令嬢」と呼ぶところなのだろうが、そこはやはり女だてらに既に嫡子と決まっている立場を慮ってのことだろう。
マルクはおそらく婿入り先として辺境伯家の嫡子であるエリーを狙っているのだろう、ということは分かる。
侯爵令息になったとはいっても所詮は庶子で3男。
侯爵が手持ちの領地や爵位を与えるつもりらしいからそれなりの立場も保障されるだろうけど、他のご兄弟や正妻の親族が喜んでそれを認めるとは思えない。
つまりは、今後も貴族令息として今の生活を続けたければ、恋愛結婚でも政略結婚でも構わないが爵位持ちの令嬢と結婚することがマルクにとっては最も簡単且つ有効な手段だろう。
そう考えると、未だに婚約者の決まっていない高位貴族嫡子でもあり、美しいエリーは最有力候補だ。
それに引き換え、私は伯爵家の4女で家督は長兄に譲ることが生まれたときから決まっている。
長兄には既に昨年嫡男も生まれているので、もしかすると近いうちに兄が家督を継ぐことになるのだろう。
要するに、私は婿入り先にはなりえないのだが、昔のようにいじりがいのある玩具だとでも思っているのか、私と顔を合わせる度、私にも変にちょっかいをかけるのだ。
本当にやめてほしい。
幸い、ほとんどエリーと一緒にいるのでそこまでしつこい絡まれ方はしていないけど、近くに寄られたらあの時のことを思い出すのか反射的にビクリとしてしまう。
その度に、エリーが氷の笑みで撃退してくれるのがなんだか申し訳なかった。
「そういえば、エリー嬢は剣術クラスとお聞きしたが?」
「それが何か?私は辺境伯家を継ぐのですから、剣術を学ぶのは当然かと思いますが?」
「次の剣術クラス、俺たちのクラスと合同だそうだ」
「ああ、そういえば今日はクラス対抗で模擬戦をするのでしたね」
「是非、俺もお相手願いたいと思ってね」
ニヤニヤと嫌らしげな笑みを浮かべてエリーを嘗め回すような視線で見るのはやめて欲しい。
見るな!穢れる!
ところが、いつもなら冷たい笑みでキッパリ拒絶するエリーが、嬉しそうな笑みを浮かべて目を輝かせた。
「喜んで。楽しみにしています」
「ほぉ?」
「ガッカリさせないでくださいね?」
「もちろんだ。期待しておくといい」
予想外のエリーの反応に、私は思わず目を丸くしてフリーズしてしまった。
マルクのあの表情はエリーを痛めつけようと思っているか、模擬戦にかこつけて良からぬことをしようとしているに違いない。
エリーが強いのだということは、本人からもクラスの男子生徒の噂でも聞いているが、心配なものは心配だ。
他の生徒達と違って、あの男のやることが正攻法だけとは思えないから。
「エリー?あんな約束して大丈夫?あいつ、わざわざあんな風に言いに来るなんて、なにか変なこと考えてるのかもしれないもの」
「大丈夫だよ、エタ。心配してくれてありがとう」
ふっと目元を緩める作り物でない素の笑みを浮かべたエリーは、私を覗き込むようにしながら軽くポンポンと頭を撫でた。
ううう……なんでエリーってば女の子なのに行動がいちいちカッコイイんだろう。
こういうのを確か前世では後輩の女の子がナデポと言っていたような気がする。
前世では同性からは良くナデナデされてたけど、さすがに異性は親戚ぐらいにしかそんなことされていなかったはずで、ドキッとするようなことも記憶にはない。
転生して2度目の人生で初ナデポを友人から頂きました!
少しだけ熱くなった頬を俯いてパタパタと冷ましているうちに、そろそろ次の授業の準備をしなければ間に合わない時間になってしまった。
「じゃあエタ、あとでね。放課後一緒に課題をしよう?」
「うん、エリー……本当に気をつけてね?図書館のいつもの席で待ってるから」
「分かった。少し遅くなるだろうけど待っててね」
「もちろん!」
更衣室へ向かうエリーと別れ、お茶会クラスのある授業用ティーサロンへ向かう。
エリーは大丈夫だといっていたけど、やはりマルクのさっきの嫌な態度が気になって、授業の間もモヤモヤとした気分はなかなか晴れなかった。
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