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【完結】妖精と呼ばれた転生令嬢は今度こそ恋をしたい  作者: ごんちゃん


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19/19

(19)卒業パーティーの妖精令嬢

ようやく完結です。

感想、ブクマ、評価、いいね下さった方ありがとうございました!

エリーにエスコートされながら馬車から降りた瞬間、波紋が広がるように周囲がざわめいている。


鈍い私でも分かるほどに視線が向けられているのが分かってしまった。




「ほら、エタがあまりに美しくなったから皆が見惚れているよ」


「それは絶対違います。皆さんが見惚れてるのはエリーですよ?」




満足そうに微笑みながら私を見つめる青空色の瞳は、蜂蜜でコーティングしたかのような甘さを含んでいて、どんな顔をして良いか困ってしまう。


誰が見ても銀髪碧眼の美青年であるエリーに比して、年相応な姿になっても黒髪黒目の地味令嬢な私では、注目される意味は全く違うと思うのだ。


きっと男性の姿に戻ったエリーは魅力溢れて、多くの令嬢を虜にしているだろうし、隣に並んでいる不釣合いな地味令嬢である私は何処の誰なのかと噂されているに違いない。


いや色気を隠さなくなったエリーの美しさは、どうやら令嬢だけでなく令息たちまで魅了しているようで、すれ違う令息が頬を染めてチラチラと私達の方を伺い見ている。




「……ホント、エタってそういうとこ鈍いよね」


「え?エリー何か言った?ごめんなさい、良く聞こえなくて…」


「ううん大丈夫、気にしなくていいよ。エタはそのままでいいんだ」


「…??そうなの?」


「うん。でも周りが煩いから、話すときは顔を寄せて話そうね?」


「あー、その方が良さそうね」




エリーが何かボソリと呟いた気がしたけど、気のせいだったらしい。


周りが煩くて良く聞こえないから、顔を寄せて話すように言われたけれど、考えてみたら隣に並ぶエリーは大きくなってヒールを履いた私の頭よりも更に15センチほど高い。


今日のヒールはダンスもするので少し低めの7センチヒールだ。


背伸びをしても少々高さが足りないので、話しかける時はおそらく私が手や袖を引いて、エリーに頭を下げてもらうしかないが仕方ない。


会場の中へ入ると、さっきまで以上に視線を感じたけれど、緊張で震えていた私の手をエリーが優しく握ってくれて、少しだけ落ち着くことが出来た。




「エタ、その調子。今日の君は誰より可憐で美しいのだから、自信を持って前を向いていればいい」


「ふふっ、エリーってば褒めすぎ。でも…ありがとう」




自分こそ会場の誰より美しいのに、親友だったときと同じように私を甘やかしてくれるエリーに、思わず笑ってしまった。


そうだった。


他の誰にどう見られても、隣に立つエリーがそう思ってくれるのなら私はそれで十分だ。


目が悪いんじゃないのかとも思うけど、そうであるならずっと悪いままでいて欲しい。


エスコートをされたまま、会場の中ほどまで進んだ時、不意に後ろから声を掛けられてた。




「おい、君……まさか、メルカッツ次期辺境伯……なのか?」


「おや久しぶりだね、バイラー侯爵令息」


「やっぱりか……君が男だったってのは本当だったんだな。というかそもそも、バイラー侯爵家は爵位剥奪されただろう。今の俺はマルク・クットだ」




振り返ったそこに立っていたのは、やはりマルクだった。


隣には今日のパートナーであろう、燃えるような赤毛とエメラルドグリーンの瞳が印象的な令嬢が並んで微笑んでいる。




「ああ、そうだった悪いな。うーんでもさ、あれだけ叩きのめされても私が男だと気付かない君って実は色々と鈍いんじゃないか?君もそう思うだろう、サフラン侯爵令嬢?」


「うふふ、本当に。そもそも、メルカッツ家にはご子息しかいらっしゃらないのですもの、不勉強なご自分を恥じるべきですわよ、マルク様」


「あー……そういわれたら反論できないが、それにしたって女装が堂に入りすぎだっただろう?それにロイース、君はもう少し俺を立ててくれても良いと思うんだが」


「あら。私が、貴方を、貰って差し上げるのよ?貴方が私に尽くしてくださいませ、マルク様」


「堂に入っていたというのは褒め言葉と受け取っておこうか。いやいやすまないねマルク、君の気持ちに応えてあげられなくて……はははっ」


「くそっ……お前ら……2人してタチが悪いぞ」




目の前で繰り広げられている会話にも状況にもついていけず、私は目を丸くしてパチパチと瞬きをしていた。


あのマルクが、女性の尻に敷かれている!!


エリーが作った笑顔じゃない素のままでマルクと笑い合ってる!!


どうやらエリーが言っていた監視の為の嫁ぎ先というのは、なんと代々財務大臣を務めるサフラン侯爵家の一人娘、ロイース様のことだったらしい。


私達より1歳年上であるロイース様は、活発で明るい人柄も相まって学園でも慕われていた先輩で、私も良く可愛がって頂いたものだ。


確かに在学中に婚約者はいなかったけれど、エリーも卒業までには相手を見つけると言っていたし、名家というのは下位貴族とは違って結婚相手の選定も難しいのだろうと思っていた。


そんな名家中の名家なのに、何故平民の血が入っていて出自に難有りのマルクを受け入れようと思ったのだろうかと考えていると、会話をしていた3人の視線がこちらに向いているのに気付いた。




「ところで、メルカッツ次期辺境伯のパートナーはどちらのご令嬢だ。紹介してはもらえないのか?」


「本当だ。こんな可愛らしいご令嬢だというのに、私もお会いしたことがないようだけど」


「ああ……だそうだよ?挨拶をしてあげたらどうかな、愛しの婚約者殿」




愉しげに瞳を細めながら顔を寄せ、私の耳元で話すエリーの息が耳に掛かって頬がジワリと熱を持った。


そこまで顔を寄せなくても聞こえるのに、と少し恨めしく思いながら、私だと全く気付いていない二人に向かって、チビッコの時も繰り返し練習していたカーテシーをしてニコリと微笑んだ。




「マルク・クット様、ロイース・サフラン様、ご挨拶させていただくのは久しぶりですわね。エタ・ツヴェルグです」


「「えっ???」」




私が名乗った瞬間、目の前の2人だけでなく周囲からも驚きの声が上がった気がした。


目を丸くして私の頭の先から足先まで何度も視線を往復させている2人が余程可笑しいらしく、エリーはクスクスと笑っている。


恥ずかしくなってきた私は、エリーの腕を小さく抓ってジトリと睨むと、何故かフニャリと甘い笑みが返ってきてますます頬が熱くなった。




「まあ!エタ様って、あの妖精令嬢のエタ様?!いつの間にこんなに大きくなられましたの?!」


「は?いやいや……嘘だろう?だって午前中の卒業式の時に見かけたが、チビッコだっただろ。どういうことだ?」




まあ、普通はそうなりますよね。


私も自分でビックリしたぐらいだから、他の人が驚くのは無理からぬことだと思う。


でも精霊魔法の成長魔法を使ったということは、妖精族の秘術だというくらいだから話せないだろう。


どう説明したらよいのかとエリーを見れば、分かっているという風に頷いてくれた。




「私が幻影魔法をかけていたんだ。可愛い婚約者にいらぬ虫が寄ってくるのを防ぐためにね」


「幻影魔法?いや、それにしても……」


「実際君も、私の性別を知らなかった生徒達も、私のことを女性だと思っていただろう?それと同じだよ」


「そういわれれば……だが、これは……」




エリーの説明に納得半分、疑問半分といった風情のマルクだけれど、周囲からはなるほどという声がチラホラ聞こえてくる。


幻影魔法は見た目をごまかすことは出来るけれど、実際の姿を変えることはできない。


何度か私に触れたことのあるマルクは、その時のことがあるから納得できずにいるのだろう。




「ほら、私にも君と同じで王家の血が入っているからね。呪いの影響からエタを守りたかったんだよ。その為に私も女装までしていた訳だし」


「あ?……そう、なのか?」


「素敵ですわ!そういうことでしたのね!愛ですわね……。それにしても、小さい時も可愛らしかったけれど、本当の姿のエタ様は神秘的で本物の妖精のようですわね。その素晴らしいドレスも良く似合ってらして、とても可憐で羨ましいわ」


「まぁ……ロイース様のようにカトレアの如く華やかで美しい方から、そんな風に褒めて頂けるなんて恐縮ですわ。エリー……エリーアス様の月光のような美しさとは比べようもなくて、気後れしてしまうのですけど、このドレスだけは……エリーアス様と大切な家族からの贈り物なので、褒めて頂けると本当に本当に嬉しいです」




エリーの贈ってくれたドレスは、会場の明かりに照らされると尚一層その美しさを増していた。


見る方向によって輝きの変わる不思議な青のグラデーションドレスは、やっぱりエリーの瞳に似ていて、通常なら重く感じる夜会ドレスを纏っているはずなのに、重さを殆ど感じさせない程に軽かった。


このドレスならば、ダンスだってどれだけでも踊れそうな気がする。


揃いの靴も、ヒールがあるのに素足で歩いているかのように軽く、初めて履くのに足が痛むこともない。


ドレスに合わせてエリーが贈ってくれたアクセサリーだけが、しっかりと重みを伝えている。


大切なドレスを褒められて頬が緩んでいた私を少し引き寄せたエリーが、さっきよりも更に耳元に顔を寄せて来て、私はトクンと鼓動が跳ねた。




「エタは綺麗だよ?君がそう思わなかったとしても、私にとっては一番エタが可愛くて綺麗で愛おしいってこと、忘れないで?」


「―――――っ!も、もうっ!エリーも色々自覚してくださいっ」


「ははっ、エタってば真っ赤。可愛いなぁ……でも、ここじゃ皆にその可愛い顔見られちゃうから、少し自重するとしよう」




クツリと笑うエリーの顔は、どう見ても今朝まで女の子だと信じていたとは思えないぐらい、しっかりと男の人だった。


そんな私達を見てロイース様は頬を薔薇色に染め、マルクは有り得ないものを見るような目をして深く溜息をついた。




「そんなに溺愛してるんなら、もっとしっかり守ってやれよ。こいつ、隙だらけだっただろ」


「煩いよ、マルク・クット。やっぱり君の左手切り落としとく?」




美麗なのに凍てつきそうな笑みを浮かべたエリーに、マルクが左手を背中に隠しながら2歩後ずさる。


顔も青褪めているけど、さすがにエリーもそんなことはしないと思うのだけど。


あ、これはもしかしてあれかな?


プレスクールであの日マルクにされたこと、詳細は言ってないのにばれてるのね。


一体どうやってそこまで調べたのかと、メルカッツ家の情報収集力が少し恐ろしく思えた。


やはり伊達に国境を守る辺境伯家ではないということなのだろう。




「うわっ……怖っ!おい、エタ嬢。お前本当にこいつでいいのか?こいつ、こう見えてかなり腹黒いし冷酷だぞ?!」


「煩いっていったのに…舌も抜く?あ、口縫い合わせとく?」


「いやお前、それどっちも死ぬだろ!」


「マルク様。口は災いの元、触らぬ神に祟り無し、と申しますでしょ?いい加減この人の地雷が何処にあるかぐらい学習してくださいませ……ふふっ」


「だからっ、ロイースも婚約者ならちょっとは俺の肩を持ったらどうだ?」


「え?だったら私を惚れさせてごらんなさい。そのお綺麗な顔と王家の血筋とクット商会だけでは、私の愛を独占するには足りなくてよ?」


「はっ、言ってろ!すぐにんなこと言ってられなくしてやるからな」


「あら、では楽しみにしておりますわ」




数ヶ月前まで仲が悪かったはずのエリーとマルクが、なんだか親しい友人同士に見えるのは何故だろう。


昨日の敵は今日の友?


共通の敵を倒して認め合った?


男の子って良く分からないけど、少なくとももうマルクが私やエリーを脅かすことがないことは良く分かった。


それにきっとロイース様とマルクは良い夫婦になれそうな気がする。




「ふふふ、なんだか仲いいですね」


「「良くないから!」」


「ほら、タイミングまで一緒!そう思いますでしょ、ロイース様」


「ええ、本当にそうですわよね、エタ嬢…うふふ」


「クット様。さっき『こいつで良いのか』とおっしゃったでしょう?私、エリーでいいんじゃなくて、エリーじゃないとダメなんです」



私の言葉に、エリーがヒュッと息を飲んだのが分かった。


マルクもロイース様も、ただ黙って真剣な表情で私の言葉を聞いてくれている。




「エタ…」


「本当の私を見つけてくれたのも、ずっと守ってくれたのも、全部全部エリーなんです。だからこれからは、エリーが望んでくれるのなら、私もエリーとこの国を守りたいんです。他の誰でもなく、エリーが大好きだから」




ずっと怖いと思っていたマルクのことも、もう怖くない。


私の持つ精霊魔法や妖精姫の力を欲する人が、これから先にも現れるかもしれない。


だけど、これまで慈しみ守ってくれた大切な家族がいて、親しみを持って可愛がってくれた領民や学園の友人達がいて、妹姫の子孫だというだけでこんな素敵なドレスを仕立ててくれる妖精族の皆さんがいる。


何より私のこんな言葉たったひとつで、こんなにキラキラと青空色の瞳を輝かせてくれる大好きな人が、きっと守ってくれると信じられるから。


この人と、エリーと一緒にこの国の人たちを守って生きて行きたいと、そう心から思える。




「ああ、エタ!!なんて可愛いことを言うのだろう。」




突然、感極まったらしいエリーが私をギュッと抱きしめて叫ぶと、頭頂部とこめかみにチュッチュッとリップ音をたてながらキスを落とした。


恥ずかしくてなかなか言葉に出来なかった私が気持ちをはっきり口にしたので、きっと喜んでくれるだろうとは思っていたけれど、まさかこんな人前でキスなんてするとは思っていなかった私は、顔から火を噴くかと思うほど全身が熱くなってしまっていて、おそらく誰から見ても真っ赤になっているに違いない。




「ひゃぁっ!エ、エリーっ!待って、は、恥ずかしいからっ」


「無理!だってエタがこんな所であんなに可愛くて健気なこと言うのが悪い」


「そんなぁ……っ」


「はぁ、やばい。私のエタが可愛すぎる。もう帰っていいかな……」




さっき言っていたみたいに私の顔を見せたくないからなのか、ギュウギュウと抱きしめられながら、頭にスリスリと頬ずりされてしまう。


せっかくエリーの家のメイドさんたちが綺麗にしてくれたのに、化粧やセットも崩れそうだし、なにより卒業パーティーなのに到着10分で帰るなんてあんまりだ。




「エリー、私せっかく大きくなったから、エリーとダンス踊りたいの……ダメ?」


「くっ……そうだよね、ごめんエタ。じゃあ、しっかり虫除けしないとね」


「……虫除け?」




恥ずかしさをなんとか振り払って、精一杯の可愛い子ブリッコでオネダリをすれば、名残惜しそうにもう一度頬ずりしたエリーが、腕の力を抜いて解放してくれた。


虫除けとは一体なんだろう。


火照った頬を両手で包みながら呼吸を整えていると、何故か目の前にいたはずのエリーが、その場に跪いて私を真っ直ぐに見上げていた。


さっきまでの遣り取りを見てざわついていた周囲さえ、一瞬で音を無くした。




「エタ・ツヴェルク嬢。心から愛しています。人生と身命を賭して貴女を守る権利を頂きたい。私の妖精、私の可愛いエタ、結婚してくれますか?」




タキシードの胸元から取り出したのはエリーの色のプラチナとブルーダイヤの繊細な細工の指輪。


なんて物語みたいなベタな展開だろう。


王子様みたいな素敵な男性から、こんな煌びやかなパーティー会場で、ドレス姿の1人の令嬢が求婚されている。


その人はこの3年の間、影に日向に彼女を守ってくれていた人で。


求婚されている誰よりも幸運なその令嬢が、まさかの私。


シンデレラもビックリ。


フェアリーゴッドマザーはシンデレラに素敵なドレスとかぼちゃの馬車をプレゼントしてくれた。


けれど目の前の私の大好きな人は、素敵なドレスとアクセサリー、そして前世でも叶わなかった大人の姿と愛する人と歩む人生をプレゼントしてくれるのだ。



「エタ、返事は……?」


「あっ……よ、喜んで!」


「ありがとう、エタ。これからもずっと一緒にいようね」




見ている方が蕩けそうな甘い笑みを浮かべて、私の左手に指輪を嵌めるとエリーはそのまま指を唇でそっと触れた。


嬉しさと恥ずかしさとで、呼吸が止まりそうになっているのに気付いたのか、エリーが愉しそうにクツクツと笑いだした。


それからおもむろに立ち上がると、真正面から私を軽く抱き上げてクルリと一周回った。


静まりかえっていた会場が、一気に沸き立って歓声や悲鳴が広いホールに満ちていく。




「彼女は私の婚約者なので、ちょっかいかけないでくださいね」


「も、もうっ!そんな物好きな人、エリーだけだからっ!」


「はぁ……やっぱり帰りたい…」


「エリー?!」


「ごめんごめん。一緒に踊って頂けますか?私の妖精」




私ばかり意識させられているようで悔しいけれど、笑っているエリーが嬉しそうだから、まあいいかと思ってしまう。


だって大好きな人には、いつだって笑っていて欲しいから。


なんだかいつも負けている気がするけど、どうせエリーには一生勝てる気がしないのだからそれも幸せなんだと思う。




「是非、ご一緒させてください。……あんまり上手じゃないけど」


「大丈夫。リードは任せて」




パチリと綺麗なウインクをしたエリーにエスコートされて、私たちがホールの中心でホールドを組むと、美しいワルツの旋律が流れてくる。


隣を見れば、苦笑したマルクとロイース様もダンスを踊りはじめている。


煌びやかなホールには、いつの間にか明るい笑顔が広がっていた。


この世界に転生して、チビッコな妖精令嬢になったからこそ、私は今こうしてエリーと踊っている。


転生してまでチビッコはないでしょうと嘆いたこともあった。


でも私、転生してチビッコになって、今本当に幸せです。

やっと完結までこぎつけました。

昔、完結まで1年近くかかったこともあるので、そこまで行かなくて良かったです(笑)

最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございます。

読んだ後、楽しかったと思って頂けたら幸いです。

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