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【本編完結済】加茂さんは喋らない 〜隣の席の寡黙少女が無茶するから危なっかしくて放っておけない〜  作者: もさ餅
いつまでも、ずっと隣で

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想い人センサー

『やっぱり皆で登って

 思い出にしたい』


 きっかけになったのは出発して間もなく、加茂さんが書いた一言だ。


「そうは言っても……」

「石村はともかく、西村は登れないだろ」


 登れるものなら全員で登りたい――それは桜井さんも山田も思っていて、俺も同じ気持ちだった。

 しかし、山田の言う通り西村さんに無理はさせられないし、俺もさせるつもりはない。彼女の捻挫がいくら軽いもので、普通の登山に比べれば緩いものだとしても、悪化するのが目に見えている。


『今回は登らない

 っていうのはダメかな』


 加茂さんも西村さんが今回登れないのは分かっていて、それでもボードに書いたのはこの提案をしたかったからのようで。

 "今回は"ということは"また来よう"という意味。今回が駄目なら次、もう一度来ればいい。加茂さんはそう言いたいのだろう。


「私も賛成」


 意外にも、真っ先に賛同したのは桜井さんだった。

 計画を立てた時、伏見稲荷に行きたいと言ったのは加茂さんと桜井さんだ。その理由の中には千本鳥居以外に、この山も含まれていた。だから当然、楽しみにしていた筈だ。


「山頂の写真、やっぱり皆で撮って思い出にしたいよね」

「…………(こくこく)」


 桜井さんの言葉に加茂さんは頷く。


「直人も赤宮君も、いい?」


 俺も山田も反対する理由はなく、二人がいいならということで話がまとまり、俺達は山に登ることなく引き返したのだった。





 

 一応、今回は登っておいて、もう一度来るのはどうなのかと提案してみたところ――。


「初めての感動は皆で味わってこそ、じゃない?」


 桜井さんの返答に、それもそうかと俺は納得した。




 * * * *




「ぜぇ、はぁ」


 清水寺に向かう道中の坂にて、秀人は珍しく息を切らして歩いていた。

 それも無理はない。秀人は伏見稲荷からずっと、西村さんをおぶって歩いているのだ。更に、今歩いているのは清水寺までの上り坂。いくら秀人でも体力に限界はある。疲れるに決まっている。


「石村、私ちょっとぐらい大丈夫だよ? だから下ろして……」

「怪我人の大丈夫ほど信用ならねー言葉はねーよ」

「分かる」


 西村さんもそんな秀人を気にして声をかけているが、秀人は下ろすつもりはないらしい。理由については全面同意だ。


「一番分かってねー奴に同意されてもなー」

「え……?」

『分かる!』

 

 だというのに、何故一番分かってない奴として認識されているんだろうか。

 あと、何故加茂さんがそこに同意するのだろうか。俺は加茂さんが一番分かってないと思ってるぞ。秀人に言われるより加茂さんに同意される方が納得いかないが……それはさておき。


「秀人、代わるか?」

「体力チーターが何言ってんだよ」

「誰が20秒の体力だ」

「ぶふっ……くくっ……」


 もう少しあるわ。山田も笑い堪えるなら堪えろよ。吹き出すな。


「っていうか、前に加茂さんおんぶしてるし」

「こいつ絶対加茂さんより重いから光太には無理無理」

「…………」

「いだだだだ!」


 秀人は西村さんに無言で耳を引っ張られる。当たり前だ。

 恐らく、秀人的には二人の身長差から考えて言っただけなのだろうが、今のはあまりにデリカシーが無さすぎた。もう少し言葉選び考えろよ。


『私もいつでも

 代わるよ!』


 すると、俺に便乗して加茂さんまで秀人に交代を提案した。

 ……気持ちは分かるが、加茂さんには無理だと思うのだ。主に腕力の問題で。


「加茂ちゃんはもう少し力ないと厳しいと思うよ?」

「うっかり落としそうだよな」

「加茂ちゃんにおぶられるくらいなら自分で歩くかな……」


 皆もそこは理解しているようで、西村さんですら遠慮する始末である。


『失礼な』


 加茂さんは大変不服そうに、ボードに文字を書きつつ頰を膨らませる。

 膨らんだ頰を突いてみる。ぷすぅと彼女の口から空気が抜け、ジト目を向けられた。可愛い。


「まーたイチャついてら」


 そんなやり取りをしていたら秀人に突っ込まれる。


『イチャついてない』

「西村、判定」

「ピピッ、これはイチャイチャ度80%」

『高いよ!』

「いや、妥当だと思う」

「…………(ぎょっ)」

「赤宮が認めるの珍しいな」


 今のは俺も加茂さんで遊んだ自覚あるからな。一方的だけどイチャイチャといえばイチャイチャになってしまうと思う。加茂さんには悪いけど。


「っ……はぁぁぁ」

「石村、ほんとに大丈夫?」


 秀人の足が止まる。相当疲れが溜まっているらしい。おぶられている西村さんも心配そうだ。


「俺が代わろうか?」


 しかし、疲れている筈の秀人は山田の厚意すら首を横に振って拒み、宣言した。


「ここで代わったら負けた気するから登り切る!」

「誰と戦ってるんだよ……」

「そんなの自分とに決まって……」


 再び歩き始めたかと思えば、秀人はすぐに足を止めてしまう。そして、後方へと振り返り、ある一点を見つめ始めた。


「秀人?」

「鈴香だ!」

「え、神薙さん?」


 秀人はまるで子供のように嬉しそうな声をあげているが、彼の視線の先に目を向けてみてもそれらしき人影は見えない。一体、どこに神薙さんが居るというのか。

 突然の秀人の発言に山田と桜井さんも困惑している。加茂さんだけは秀人の視線の先を見つめて探し続けているようだが、まだ神薙さんの発見報告はない。


「見間違いじゃないのか?」

「悪い、先行っててくれ!」

「は!?」


 突然何を言い出すんだ。ここに居る誰もがそう思っただろう。


「ってことだから西村ちゃんと掴まってろよ!」

「へ……うひゃあああああああ!?」


 秀人は西村さんの意思すら聞かずに、坂を駆け下りていってしまう。

 引き止められなかった俺達は、みるみる小さくなっていく背中を見送ることしかできなかった。

 〜数分後〜


『鈴香ちゃん見つけた!』

「マジで居たのかよ」

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