ガールズトーク
観覧車が一周して外に出てきた俺達は、加茂さんに連絡を取ろうとした。しかし、未だに電話は繋がらず、日向が送った文に既読すら付いていない。
だから、俺達は加茂さんを探すことになったのだが、探し始めて数分足らずでベンチに座っている彼女を発見した。
そして、加茂さんの元へ行こうとすると、日向に腕を引かれる。
「日向?」
「……加茂先輩と個人的に話したいことがあるので、少し待っててくれませんか?」
「……? 分かった」
「すみません」
日向は俺に一言謝ると、加茂さんの元へ向かっていく。
俺は通りの端に移動して、少し離れた所で二人が話し終えるのを待つことにした。
▼ ▼ ▼ ▼
「加茂先輩」
「…………(びくっ)」
ベンチに座ってぼーっとしている加茂先輩に話しかけると、先輩は驚いたように肩を震わせる。
そして、私の顔を見ると、一瞬、表情が固まる。それから、ボードに文字を書いてこちらに向けてきた。
『告白できた?』
――分かりやすい作り笑いを浮かべながら。
「はい」
私ははっきり答えた後、先輩に訊ねる。
「加茂先輩、わざと二人きりにしてくれたんですよね」
「…………(ぽりぽり)」
先輩は何も言わずに目を逸らしつつ、頰を掻いた。否定はしなかった。
それから、私の方に視線を戻しては逸らして、戻しては逸らしてを繰り返す。まるで何かが気になってはいるけれど、直接聞きにくいみたいな、そんな動き。
……本当に分かりやすい。全部の感情が表に出てるから、加茂先輩が今、何を考えてるのか手に取るように分かる。
でも、先輩にはその自覚がないんだと思う。だから、黙ったままボードに何かを書く素振りも見せない。
そんな先輩に、私は明るい声で結果を報告した。
「返事は保留になりました」
「…………(ぱちくり)」
加茂先輩は目を瞬かせる。
私は先輩の隣に座って、話を続けた。
「といっても、私が先輩にお願いしたんですけどね。返事はまだしないでくださいって」
私が半笑いしながら話していると、加茂先輩はボードに文字を書いてこちらに向けてくる。
『何で?』
「赤宮先輩、付き合ってくださいって言われてお試しでも付き合うとかしないタイプですよね?」
「…………(あー)」
加茂先輩は人差し指を顎に当てて少し考えた後、再びボードに文字を書いた。
『たしかに
そうかも』
「ですよね。だから、振られる前に保留にさせました」
「…………(おー)」
加茂先輩は、感心するように胸の前で小さな拍手をしてくる。
……ムズムズするなぁ。
「加茂先輩、聞いてもいいですか?」
「…………(こてん)、…………(こくり)」
加茂先輩は不思議そうな表情で首を傾げた後、頷いた。
「どうして私と赤宮先輩を二人きりにしてくれたんですか?」
「…………(こてん)」
加茂先輩はまた、首を傾げる。
それから、特に答えに迷う様子もなく、スラスラとボードに文字を書いてこちらに向けてくる。
『告白するって
言ってたから』
「いや、そうじゃなくて」
「…………(えーっと)」
加茂先輩は困ったような表情で私を見る。
……もっとはっきり言わないと、伝わらないかな。
「加茂先輩も赤宮先輩のことが好きなんですよね?」
「…………(へ!?)」
加茂先輩は心底驚いたような表情を見せた後、慌てた様子でボードに文字を書き殴る。
『なんでそうなるの!?』
「違うんですか?」
「…………(あーうーあー)」
私の問いかけに対して、加茂先輩は頭を抱えて答えを迷うような仕草を見せる。
……迷うってことは、やっぱりそうなんだと思う。密かに、勘違いだったらいいなって思ってたから、ちょっと残念。
そんなことを考えている内に、加茂先輩は考えがまとまったらしい。ボードに文字を書いて私に見せてきた。
『好きだよ
でも、どっちか
まだ分からないから』
「……?」
そして、今度は私が首を傾げることになってしまった。
そんな私を見て、加茂先輩は上から二行を書き直してくれた。
『友達としての好きなのか
異性としての好きなのか
まだ分からないから』
「…………えっ」
嘘でしょ? いくらなんでも鈍すぎない? 鈍感ってレベル超えてない? 迷ってる時点で普通気づかない?
脳内が疑問と混乱で埋め尽くされて――加茂先輩が追い討ちのように再び書き直したボードを私に向けてきた。
『こんな半ぱな気持ちで
詩音ちゃんのこと
じゃまなんてできないよ』
何それ。
「はぁ……」
「…………(びくっ)」
加茂先輩の書いた文を見て、私はため息を吐き出さざるを得なかった。
まず、これは赤宮先輩にも当て嵌まるけど、加茂先輩も恋愛に疎すぎる。
"邪魔なんてできない"なんて言ってる時点で、自分の気持ちに気づくでしょ、普通。どこまで鈍いの?
あと、優しすぎというか、甘いというか。
私がどうやって赤宮先輩の気を引こうか考えてる間に、加茂先輩はずっと私のことを気にしていたらしい。
私は加茂先輩のこと、正直言って全然気にしてなかったのに。気にしてたといっても、抜け駆けとか、その辺りぐらいだったのに。しかも、それだって自分のエゴだし。
……仕方ない先輩だなぁ。
「何で私のこと気にしてるんですか」
私が呆れながら言うと、加茂先輩は戸惑いの目を私に向けてきた。
▼ ▼ ▼ ▼
「何で私のこと気にしてるんですか」
詩音ちゃんは呆れたように笑って言った。
「もしかして、好きな人が被ったぐらいで私が加茂先輩を嫌いになるとでも思ってます?」
「…………(ぶんぶん)」
「あはは、慌てすぎですよ」
詩音ちゃんは反射的に首を横に振る私を見て、今度は可笑しそうに笑ってくる。
そして、私から視線を外すと、少し遠い目になる。
「私、ただでさえ友達って呼べる人が少ないので、加茂先輩みたいに気兼ねなく話せる人って貴重なんですよね」
サラッと悲しい情報を暴露されて、私は反応に困った。
――でも、その後の言葉は嬉しかった。
「まあ、それが理由とかじゃないですけど……先輩も赤宮先輩のことが好きだったとしても、私はその程度で先輩を嫌いになったりしませんよ」
詩音ちゃんは私に視線を戻して、私の目を見て、はっきりと言ってくれた。
「ですから、存分に悩んでください」
柔らかい、優しい笑みを浮かべていた。
「でも、待ちませんから」
その笑みが、一瞬で不敵な笑みに変わる。
「悩んでる間に私が赤宮先輩のハートを奪っちゃっても、文句言わないでくださいね」
――心が救われた気がした。
「……え、な、何で泣くんですか」
詩音ちゃんは困惑するように声を上げる。
自分の目元に触れてみると、指先が湿る感覚が確かにあった。
「あ、まさかそういう策略ですか? 泣かれたって私は引きませんからねっ」
「…………(ふふっ)」
「何で今度は笑うんですかっ」
見当外れな警戒をしている詩音ちゃんが可笑しくて、私はつい笑ってしまう。
詩音ちゃん、ありがとう。
知らなければ怖くない、辛くない――そうやって逃げるのは、もうやめよう。
この気持ちが親友に対するものなのか、それ以上のものなのか……ちゃんと考えて、答えを出そう。
詩音ちゃんのためにも、自分のためにも、この気持ちにちゃんと向き合おう。そう思った。





