加茂さんと日向と帰りの電車
暫く経って、日向から[話終わりました]というライナーを送られてくる。
そうして、ベンチに座っている二人の元へ行くと、二人は楽しげに談笑していた。
二人が何を話していたのかは気になる。しかし、日向が俺抜きで話したがっていたこともあって、俺は話の内容を訊ねてみようとは思わなかった。
――その後、俺達はもう一度観覧車に乗った。今度は加茂さんも一緒に。
二度目の観覧車では太陽もすっかり沈んで空が薄暗くなっていたこともあり、ライトアップされた園内の景色を眺めることができた。
先程の夕焼けに照らされた園内とはまた違った良さがあり、加茂さんは子供っぽく目を輝かせていた。
そんな彼女と共に窓の外を眺めている日向に目を向けると、日向は俺の視線に気づき、何も言わずに笑いかけてくる。
気まずくなって、俺は無言で目を逸らしてしまった。
その時、外が暗いこともあって、窓に自分の顔が薄く映り込む。
日向に告白された時のことを思い出す。
告白は、素直に嬉しかった。
初めて告白されたということもあるが、こんな俺に好意を向けてくれているということが何より嬉しかったのだ。
しかし、その気持ちに応えようとは思えなかった。
理由は、出会って、過ごした時間が短すぎるから。まだ、俺達はお互いのことを知らなさすぎるから。
"付き合う"という選択は、お互いをもっと知ってからでも遅くはないと思ったから。
そして、俺が返事をしようとして、日向はそれを拒んだ。分かってると言われてしまった。
そう言い切る彼女は少し悲しそうな表情で、俺はなんだか悪いことをしてしまったように感じた。
……それだけじゃない。
まるで、そう訴えているかのような、俺の胸の中に渦巻くモヤモヤとした気持ち。これは彼女に対する罪悪感なのか、全く違う何かなのか。
観覧車が一周しても、その答えは出なかった。
* * * *
18時半を過ぎた頃、俺達は遊園地を出た。
――そして、帰りの電車に揺られている現在。
「はぁ……」
「どうした?」
日向のため息が聞こえて訊ねてみれば、彼女はしみじみと言った。
「あっという間だったなぁと思って」
「ああ……」
確かに。俺も今日一日があっという間に感じている。
「…………(ちょんちょん)」
「ん?」
加茂さんに横から突かれてそちらを見れば、彼女はニコニコしながらこちらにボードを向けていた。
『あっという間ってことは
それだけ楽しかったって
ことだよね!\(๑╹▽╹๑ )/』
「……そうだな」
「……はい。楽しかったです」
『――次は△△、△△です。お出口は左側です』
少し名言っぽいことを書く加茂さんに感心していると、車内アナウンスが流れた。
「私、乗り換えなので次で降ります」
「ああ、そうだったな」
「……せ、先輩」
日向は急にもじもじとし始め、上目遣いの目を俺に向けて訊ねてくる。
「また来週も、一緒に帰っていいですか?」
「……ああ。でも、部活はサボるなよ?」
「サボりませんよ。部活が休みの日の話です。私を何だと思ってるんですか」
一応の注意だったのだが、日向にジト目を向けられると共に突っ込まれてしまう。
確かにそうだ。日向には将来の夢もあるのだから、サボりなんてしないだろう。そう考えると杞憂だったな。
それから間もなくして次の駅に着き、出口の扉が開く。
加茂さんと共に日向に手を振ると、日向もまた手を振り返した後、電車を降りていった。
そして、出口の扉は閉まり、電車が動き出す。
「なあ、加茂さん」
「…………(びくっ)」
「……加茂さん?」
俺は小声で加茂さんに話しかければ、彼女は驚いた様子で体を震わせる。そして、物凄いスピードでボードに文字を書き殴ってこちらに向ける。
『なに?』
――ボードをこちらに向ける彼女は、俺と目を合わせようとしなかった。
いつもは俺の目を見て話しかけてくるのに、珍しいな。
少し気になったが、それより他に確認したいことがある。だから、そこはスルーして訊ねてみた。
「一回目の観覧車さ、わざと俺達を二人にしただろ?」
「…………(あー……)」
俺が訊ねれば、加茂さんは気まずそうに苦笑しながら頬を掻く。
「ってことは、加茂さんも知ってるのか」
「…………(こくり)」
加茂さんは頷き、ボードに文字を書いてこちらに向けてきた。
『告白の返事
どうするの?』
「それも知ってんのかよ」
まさか保留の件まで知られているとは思わず、少し驚く。
それから、加茂さんの質問文を見て、俺はもう一度考えてみることした。
日向は嫌いじゃない。どちらかといえば好きだ。一人の後輩として好ましく思う。
でも、異性として好きかと言われると、違う。俺のこの気持ちは、友達とか、家族とか、そういう人に向ける"好き"だ。
日向に告白された時、俺は自分でも驚く程に冷静だったことを覚えている。
どうしてあそこまで冷静に居られたのかと言えば、それは俺が彼女を恋愛対象として見ていなかったから。あくまで一人の後輩として接し続けていたから。
加茂さんに目を向ける。
あの時、日向じゃなくて加茂さんに告白されていたらどうだろう。
……きっと、あそこまで冷静で居られなかっただろうな。そんな気がする。
「…………(ずいっ)」
「わっ」
突然、加茂さんがボードをこちらに押し付けるように向けてきた。
『あんまり
見つめないで』
彼女は気恥ずかしそうに、頰を赤らめていた。
「……ごめん」
いつの間にか、俺は加茂さんのことを見つめてしまっていたらしい。
すぐに彼女を視界から外して、自分の思考に戻る。
戻ってみて、思わず、俺は脳内で自分自身に突っ込んでしまった。
今、俺は何を考えた?と。
そもそも、どうして加茂さんが出てきた。俺と日向の問題だぞ。加茂さん関係ないだろ。
大体、加茂さんに告白されたらって何だよ。日向に告白されたからって、そんな想像するか普通。自惚れにも程がある。
なんだか落ち着かない気持ちになってしまい、俺の目は、再び加茂さんの方に自然と動いてしまう。
「…………(ぱちくり)」
「あ……」
すると、何故か加茂さんも俺の方に目を向けていて、彼女と目が合ってしまう。
そして、居た堪れなくなって、お互いに視線を逸らした。
――その後、俺は電車を降りるまで、彼女の顔をまともに見ることができなかった。





