7、二つの本の謎
「すごい暑さだな」
「がまんしろ。なんとしても日没までにギリエドにつかなくてはいけないんだ」
「あっ、馬の呪文の効果がきれたぞ」
「ハースト!」
カータンからギリエドまでかなり距離があるから、呪文の力を使わなくちゃならない。馬の上で呪文を唱えるサリィはずいぶん疲れているようだが、なんとか馬を走らせている。
「ここらへんで休もう」
「そうだな」
「こんな暑い場所でどうやって休むってんだ」
「私にまかせて」
ソラは魔法の紙を裂いて言う。
「クールバリアー」
何やら青いものがオレたちを包んだ。すると、ちょうどいい温度になった。
「ふうー、これで休めるね」
「サリィは呪文が使えるように回復を優先させてください」
「ちょっと横になるわ」
サリィは砂にしいてあるビニールシートに横になった。
「今日は風がふいてなくてよかったな」
「ああ。きっと砂だらけになってただろうな」
「みんな、あれを見てくれ」
兄さんが指差した。そこを見ると、なにやら塔のようなものがある。兄さんはオレに言った。
「ちょっとあれを見てこよう。ソロイとソラとサリィはここで待っててくれ」
オレと兄さんはそこに行くことになった。
十分くらい歩き、やっと塔に着いた。
「これは……いったい何なんだ」
「ふうむ。砂漠の中心にこんな塔があるなんて、ちょっと不思議だな」
「じゃあ、中に入ってみるとするか」
「そうだな」
そこでオレはこの塔の扉を開けてみようとした。だが、扉はびくともしなかった。
「押しても引いてもびくともしないぜ」
「しょうがない。仲間のところに戻るか。……ん? ソレイユ、お前のバックの中が光っているぞ」
「まじ? あ、本当だ」
バックの中をのぞいてみると、宝石と二つの本、光の書と闇の書が光っていた。
説明しよう。この本はターナグの町を救ったお返しにもらったのである。そういえば、何か難しいことをしゃべっていたような……。
「おお、この本は何だ?」
「ああ、これはターナグの町からもらったんだ」
「まさか宝石と関わりを持った本か?」
「わからないが、とりあえず仲間に聞いてみよう」
「そうしよう」
「いや、そんなの知らねえよ。オレがそれを知ってたら、賢者に変身してしまうじゃないか」
「サリィやソラの意見は」
「全然理解できないわ」
「もしかしたら、宝石を八つ全部集めれば塔に入れるようになるんじゃない?」
「ルアンパバーンに行けば何か分かるようだな」
「じゃあ、また後で来るんだな」
「オレたちの旅に影響してくるのは間違いないだろう」
「サリィ、充分休めましたか?」
「ええ。大丈夫よ」
「それじゃあ、出発するか」
謎が残ってしまったが、とりあえず出発することになった。
宝石と本の光りは消えていた。
一生懸命馬を走らせ、なんとかギリエド市に到着した。まあまあ広く、人々も元気そうな表情をしている。しばらく市内を歩いていた。泊まる宿も見つけ、市場で食料の買い物をしている。
「けっこういいところじゃないか」
「物も充実してるし、なにより人の数が多い。うまくいけば、ファントムの分身や帝王の手下に見つからずに済むだろう」
「ナオは、宝石を見つけた事や王族が仲間だって事を帝王に報告しただろうな」
「きっとそうよ。もしかしたら、こっそり私たちのあとを帝王の手下がついてきてるかも……」
「おいおい。変な想像しないでくれよ。本当にそうだったらどうするんだ」
瞬間、急に殺気を感じ、後ろをふりむいた。だが、急がしく動いているオバチャン以外は何もなかった。
「どうしたの、ソレイユ?」
「いや、何でもないよ」
オレたちはすでにファントムの分身が数人包囲しているのに気づかず、宿に入った。
「さっさと殺して、任務を終わらせましょうか」
「まさかオバチャンに変装しているとは、考えてもみなかったはずですよ」
「宿に入ったら、作戦開始です」
「了解」[ここの会話文は、分身したファントムたちのもの。]
「あーうまいうまい」
「食い過ぎだぞ、ソロイ」
この宿ではギリエド市で有名な激辛料理をすごい勢いでソロイは食っていた。
「腹を痛めるぞ、きっと」
「もぐもぐ、もぐもぐ」
人の話を聞いちゃいない。まあでも、確かにびっくりするほどうまいから、オレもけっこう食ってしまった。他のみんなも満足そうに味わっている。
「あれ? さっき市場にいたあのオバチャンじゃないか」
「本当だ」
「もぐもぐ。おい、さっき見かけたからって、怪しむ必要なんてないだろう」
「そうだよな」
三十分ほど食事をして、部屋で休んでいた。オレ、ソロイ、兄さんで一部屋、ソラとサリィで一部屋使うみたいだ。ソロイは下の階の食堂でまだ食ってるから、この部屋にいるのはオレと兄さんだけだ。
「カータンのホテルよりせまいけど、まあいいか」
「ぜいたくいっちゃいけないぞ。金は限られてるんだから」
その瞬間、明かりが消えた。
下の方では人が騒いでいる。まさか、敵か? オレは剣をにぎって、いろんな方向に振りまわした。
「ぐわっ!」
お、うまいぐあいに当たったみたいだ。電撃で、数秒間だけ明るくなった。見ると、ファントムが三体もこの部屋にいた。そのうちの一人は剣で殺したが、あとの二人は兄さんを剣で切りつけていた!
「くっ、やられた」
「兄さ―――――――ん!」
血を流して兄さんが倒れた瞬間に明かりが消えてしまった。オレはライジングの呪文を使う。
「フラッシュ!」
また明るくなった。二人のファントムは兄さんをほうっておき、オレの方に剣を構えていた。
「よくも、兄さんを」
逆に冷静になり、なんとか防いだりかわしたりしている。そしてすきをついて、ソロイのように腹にけりを入れたり、拳で相手を牽制していた。そして後ろに一歩下がり、二体に呪文攻撃だっ。
「クロス・ライジング!」
知らないうちに、たくさんの魔法を習得していたみたいだ。オレからXの形をした電撃がファントムたちに当たり、砂になった。
オレ、一人で三体ものファントム(分身だが)を倒せたのか! だがそんなのはどうでもいい。隣りのソラたちの部屋にも、ファントムが来たようだ。声が聞こえ、砂になっていく音もはっきりと聞こえた。
廊下に出ると、もう明かりがついていた。ソロイがこっちに走ってくる。
「食べてたら、急に暗くなって……」
「兄さんがやられた。サリィたちも、戦っている。行こう」
「ああ」
部屋に入ると、二体のファントムがソラとサリィに襲いかかっていた。ファントムはオレたちの方を向いた。そのすきに、ソラの槍が一人の首を貫いた。砂となって崩れていく。ソロイがもう一人に攻撃したが、消えてどこかに消えてしまった。
「くそっ、まさか暗やみにしてから殺しに来るとは」
「みんな、兄さんが危ないんだ」
急いで兄さんのところに行った。
「くっ、やられてしまったよ」
どうやら背中と右腕をやられたようだ。
「急いで市内の神殿につれていこう」
オレは兄さんをおんぶした。ソラは魔法の紙を使う。
「ホットバリアー」
砂漠の夜はとてつもなく寒い。ここは宿の中だから寒くないが、外に出ると凍えてしまうという。そこで温かいバリアーを作ったんだな。
二十分後、ようやく神殿に着いた。
プリーストたちはすぐ状況を把握して、中に入れてくれた。
「ハイプリーストが待っています。どうぞこちらへ」
「ありがとうございます」
ハイプリーストのいる場所に案内された。
「すでに事情は聞いておりますぞ。けが人をこちらへ」
そして治療が始まった。ソラは心配そうに質問する。
「ファースは大丈夫なんですか」
「まだ呼吸はある。しかし、傷が深く、危険な状態じゃ。あとは本人の生命力にかけるしかない。わしもできる限りベストを尽くそう」
そしてハイプリーストは言った。
「今夜はここに泊まるがよい。部屋の準備はできておるぞ」
「でも……荷物はあっちの宿に」
「心配せんでもよい。わしらが言っておこう」
そしてプリーストたちに案内されて、部屋に行き、風呂に入って寝た。
次の日の朝。オレが起きると、みんないなかった。オレは近くをうろついていたプリーストに話しかける。
「あの、みんなはどこに」
「それなら、ハイプリーストのところにいますよ。どうやら昨日運ばれてきた男が助かったとか言っていました」
オレはすごいスピードでそこに向かった。
来てみると、ベットに座っている兄さんと、その周りを囲んでいる仲間たちとハイプリーストがいた。
「兄さん、助かったんだな」
「ああ。こちらのハイプリースト、バジル・ニッサー氏が助けてくれたんだ」
「助かりはしたが、やはりダメージが大きかったようじゃ。もう旅は続けられないだろう」
「そんな」
「すまない、ソレイユ。エルフの森でお前を守ると誓ったのに、逆に守られてしまったな」
「兄さん……ゆっくり休んでくれ」
「本当にすまない。他のみんなにも謝らなくちゃいけないな」
「ところできみたち、市長が呼んでいたぞ。話をしたいそうじゃが」
「じゃあな、兄さん。オレたち、行くよ」
兄さんは手を上にあげただけで何も言わなかった。
こうしてファースは旅のメンバーから外れ、四人となった。
「ここが市長の邸宅か」
「やっぱりでかいぜ」
オレたちはその庭の広さと、城といっても過言ではない大きさの邸宅に圧倒されてしまった。
「さあ、中に入ろうよ」
ソラに引っ張られて中に入る。すると、庭に男がいた。きっと市長だろう。だが、思っていたよりずいぶん若い。二十代前半ぐらいで、髪は短い。親しげにオレたちにあいさつしてきた。
「やあ、突然呼び出してすまなかったな。ここで話をするのもなんだから、まず家の中に入ろう」
そう言って、ぶらぶらと邸宅の方に歩きだした。オレたちは彼についていく。
邸宅に入ると、黄金の兜と鎧があった。ソラがオレの腰をツンツンたたいて言う。
「ねえ、あれ何だろう」
「むう、わからない。きっと祖先の身に付けていたものじゃないか」
すると市長が話す。
「その兜と鎧は、死んだ父の遺品だよ。父は私が二十二歳の頃に死んでしまったんだ。そこで若い私が仕事を受け継いで市長になったんだ」
おしゃべりしていると、ようやく部屋に入った。
「ここならゆっくりできるだろう。帝王が私たちに戦争をしかけるというのは本当なのか?」
「その話をどこで」
「北にあるカータンから噂で聞いたんだが」
ソラが答える。
「ええ。おそらく事実です。そろそろ帝王は暴れだすでしょう」
「そうなのか……。きみは、ソラ・ヘーレゴニーだろう?」
「はい」
「信じないわけにはいかないだろう。私からも、市民に言っておくとしよう」
「ありがとうございます」
「ところで、きみたちはここから南西にある砂漠の洞窟に行くのかい?」
「そうですけど」
「この人の話を聞いてほしい」
すると、奥から少年が歩いてきた。
「僕の名前はダイス・ローザフです。実は、僕の家族が砂漠の洞窟から出られなくなってしまったんです」
「何で?」
「僕たち家族は、マーナリンからここギリエド市まで行こうとしてたんです。しかし行く途中で砂嵐に会ってしまって、砂漠の洞窟へ避難したんです。だけどそこで妹が足をすべらせて下の方に落っこちてしまいました。父と母は助けようとしたけれど、結局二人とも落ちました。そして僕はギリエド市に助けを求めたんです」
市長が補足する。
「しかしな、なかなか助けに行けるほど勇敢な者はいなかった。もうすでに一週間がたつ」
オレが少年に言う。
「オレたちもその洞窟に用があるんだ。ついでだから、助けてあげてもいいよ」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、えーっと、ダイス。お前もついていって落ちた場所を教えてくれないか」
「分かりました」
「よし、決まりだな。じゃあよろしく頼むよ」
「まかせてください」
ダイスが仲間になり、まず馬を買う。市長が資金を援助してくれたから、馬の他にも食料や助けに必要なロープとかも買った。そして、オレたちは砂漠の洞窟へ向けて走りだした。




