3、平和と安息(3)
オレは目を覚ます。近くで小鳥がチュンチュン鳴いていて、太陽の日差しがほら穴のすき間から入ってくる。なんて気持ちのいい朝なんだ。だが、気持ちがいいのは、それだけではない。
なんとオレはソラ王女と一緒に寝てしまったのだ。オレは自分の胸にのっている彼女の手をどかして、近くの川で顔を洗いに行く。ほら穴に戻ってくると、兄さんが起きていた。
「お前の人生バラ色だな。王女様と寝るチャンスなんて、ほとんどないんだぞ。しかも美人のな」
「自分でもそれが悩みなんだ。ところで、見張りは?」
「最初は俺が見張りをしたんだがな、疲れている人間を起こすのはまずいと思ったんだ。そしてこのオレもいつのまにか寝てしまったよ」
「そういうわけか。さあ、兄さんにも朝食の準備を手伝ってもらうぞ」
「げげっ!」
兄さんの嘆きの声で、ソラが目を覚ました。オレがパンケーキを焼いているのを見て、目を丸くする。
「ソレイユは料理もできるの?」
「もちろん。ソラはできるかい?」
「少しだけなら……。二人じゃ大変そうだから、私も手伝うわ」
「それは助かるよ」
いい臭いに誘われて、大食い戦士二人が立ち上がる。そして、パンケーキが焼き上がるのを、じっくりと待っている。できたパンケーキは二人のとりあいになり、ジャンケンでナオのものになった頃にザーロックがやっと起きた。慌てて顔を洗い、こっちに来ようとするが、起きたばっかりで、どうもバランスがとれないらしい。こっちにたどり着くまで、何度も転んでいた。
サリィはいつのまにか起きていて、小鳥と遊んでいる。大食い戦士が満足して、やっとオレも食事にありつけた。
「とてもおいしいわ、ソレイユ」
「うれしいぜ」
遠くで、剣のぶつかり合う音が聞こえてきた。どうやら、食後の運動でソロイとナオが剣を交らせているようだ
オレたちは一時間ほど休んで、北に向かった。
夕方、やっとブラット・ワールドへ足を踏み入れた。
「ここが禁断の地といわれるブラット・ワールドか」
「でもさ、そんなに危険そうじゃないナン」
「オレがここの主、ガーステンを殺したからだよ、ナオ」
「あっちを見て、みんな」
オレたちはソラが指差したところを見た。そこで、なにやら人のようなものが歩いていた。普通の人間よりも背が高く、皮膚は岩のようにごつごつしている。ザーロックが説明する。
「あれはロッサ族だよ。昔は人間社会にとけこんでいたが、乱暴な性格をしていたから、だんだん差別化されていったらしい。どこかの土地にひっそりと暮らしていると聞いたが、ここにいたとは」
確かに、腕はたくましいから、ケンカだって強そうだ。それになぜか、武器は持っていない。武器を作れるほどの知能がなかったからか?
「夜はあいつらに見つからないようにしないとな」
「ロッサ族は非常に耳がいい。馬はファーザン草原においておいた方がいいと思うぞ」
そこで、馬は使わないということになった。サリィは馬に話しかける。
「ここで待っていてね。でも私の合図で、すぐに来て下さい」
馬たちはどこかに行ってしまった。ソロイがザーロックに話しかける。
「歩きだと何日でここを抜けられるんだ?」[以前までソロイはザーロックに対して敬語で話していた。宝石を手に入れたあと、対等な立場として仲良くなったのかもしれない]
「分からない。どこまで続いているか誰も知らないから、一週間で抜けられるかもしれないし、一ヶ月かかる可能性もある」
「サリィ、どのくらいかかるか分かるか?」
「そうですね、エルフなら三日ほどですが、人間の場合だと十日はかかるでしょうね」[以前にもその描写があったように、エルフは足が速いのである]
「くそっ、十日もこのうす汚いところを歩かなきゃいけないのかよ」
その時、ソラが大声で言った。
「いい方法があるわ! 魔法でソレイユを巨大化させて、みんなはソレイユに乗っていけばいい!」
「なんでオレなんだ?」
「大きい姿で歩くのは爽快よ。あなたにそれを感じてほしいの」
「わ、わかったよ」
そしてソラはバックから魔法の紙を取り出した。そして彼女は紙を裂いて、オレに呪文を使う。
「ビッグ!」
おお、おお。どんどん仲間が小さくなっていく。いや、オレ。がでかくなったのか身長が百メートルくらいに達すると、それ以上でかくはならなかった。
「さあ、みんなを手にのっけて!」
実にさわやかだし、優越感がオレの心を満たしてくれる。ロッサ族がオレを見て、ぎゃあぎゃあ言って逃げていく。勇敢な者はオレの足にパンチやキックをやっているが、くすぐったいだけだ。適当にそいつをけって、気絶させた。
「本当にいい気持ちだ」
道のいいところでは走って、少しでも時間を短縮させる。邪魔な岩はOSGで殴って、ロッサ族をさらに恐怖におとし入れた。
オレはたったの一時間で、ブラット・ワールドから出た。
そして森に入った。ソラがさらに紙を裂くと、オレは元の大きさに戻った。
「なんだか、心が安らぐ森だな、ソロイ」
「ああ、とても落ち着く」
「エルフのすみかはどこだナン?」
「もう少し歩くと見えてくるわ」
いろんな動物の鳴き声が聞こえてくる。遠くではシカが草をおいしそうに食べていたが、兄さんが近づくと逃げてしまった。みんな笑い、兄さんはうなった。
「なあサリィ、この森はロッサ族に襲われたりしないのか?」
「ええ。エルフの女王は森全体を魔法で守っていて、邪悪な生き物が入れないようにしているのよ。もし入ってきても、それを察知して、エルフの戦士が出動する。だからこの森は平和で豊かなのよ」
「そうだったのか」
「あっ。ソレイユ、すみかが見えてきたわ」
見ると、巨大な柵で囲まれた入り口のところに、武装したエルフが二人立っていた。その二人はサリィに気づき、声をかけた。
「サリィ・ハイブラク、無事に戻ったか」
「ええ。女王に報告したいので、通らせて下さい」
「後ろの人間は?」
「旅の仲間です」
「ふうむ。通らせてあげてもいいが、決して騒ぎは起こさぬようにしてくれ」
「分かりました」
こうしてエルフの都市に入った。
「うわあ。この中も木や動物でいっぱいなんだな」
「もう暗いから、今日報告するのは無理でしょう。普通、エルフは木の上で動物と一緒に寝るけれど、エルフ以外の種族が来たときのために泊まれる場所はあるわ」
そういえば、もう道を歩いているエルフはもう見辺らない。木の上からオレたちを興味深そうに見ているたくさんのエルフは、たいてい動物とふれ合っていた。
「ソレイユ、みんなボクたちを見てるナン」
「ああ、オレも気になってしょうがないんだ」
やがて小屋が見えてきた。中に入ると、数人のエルフが静かに語り合っていたが、オレたちが入ってくると、びっくりしたように声を慌げているが、ヘーレゴニーの言葉じゃない。おそらくエルフ語だろう。
「戦士や女王、私のような旅のエルフ以外は、すべてエルフ語でしゃべっているわ」
そう言いながら、小屋の主人と話し、空いてる席に座った。
「エルフの食べ物は、きっとあなたたちの口に合わないでしょう。材料はふんだんにあるけれど、残念ながらヘーレゴニー料理は出てこないわ」
「だったら、オレたちが料理するよ。ザーロック、コックの出番だぜ」
オレはザーロックを呼んで、調理場に入る。そして料理を作り、食べた。その後、主人に部屋を案内された。だがそこにはベットが五つしかなかった。オレたちはサリィを除いても六人(オレ、ソロイ、兄さん、ナオ、ザーロック、ソラ)だ。じゃんけんで負けたやつが床で寝よう、という案がでたが、オレは思わず言ってしまう。
「オレがソラと一緒に寝るよ。これで数は大丈夫だろ」
ああ、オレ、ついに問題発言してしまった。だが、みんなをなんとか納得させた。ソラはうれしそうだ。
「うらやましいぜ、ソレイユ」
「ソ、ソロイ。もうこの辺で終わりにしないか」
「くそ、この仕返しはいつか必ず……」
「あれっ? すぐ寝ちゃったぜ」[ソロイは話している途中で眠ってしまったのだ]
そういえば、この部屋にアロマの香りがただよい、眠気を誘う。オレはサリィに「お休み」と一声かけて、ベットに入った。すぐにソラもベットに入る。
「おやすみ、ソレイユ」
「おやすみ、ソラ」
彼女はうとうとし、寝てしまった。お互い顔が向かい合っていて、オレのすぐ隣に彼女の顔がある。
オレは周りを見る。どうやら、オレ以外は全員眠っているようだ。ゆっくりと顔を彼女に近づける。
そして、ソラの口唇にキスをした。
「こういうの、やってみたかったんだよな」
彼女にふかふかの布団をかけ直した。手で彼女の頭をなでる。その後、アロマの香りですぐ寝てしまった。




